目からウロコ(!?)の贈与術

相続税増税から1年以上が経ち、新聞雑誌等での報道は落ち着いた感がありますが、相続税対策のご相談は増え続けています。

相続税対策として有効な手段の1つは、なんといっても贈与の活用であることは、ご存知のとおりですが、贈与にはいくつかの種類があり、これらを上手く組み合わせて使うことで大きな効果が得られることは、意外と知られていません。

今回は「教育資金の一括贈与」「都度贈与」「暦年贈与」の3つの贈与を使った、ちょっと変わった相続税対策の方法をご紹介します。

まずは各贈与の、ごく簡単な説明と今回ご紹介する方法で利用する各贈与の特徴です。

■「教育資金の一括贈与」
祖父母が金融機関との契約に基づき30歳未満の孫のための口座等を開設し、教育資金を一括して拠出した場合、この資金について孫ごとに1500万円までの金額を非課税とするものです。
【利用する特徴】
・孫が30歳に達した場合、残った教育資金についてはその日(孫が30歳に達した日)に贈与があったものとして贈与税が課税される。
・祖父母が死亡しても、贈与税の課税関係に影響はなく、原則、相続税の申告は不要である。

■「都度贈与」
祖父母が孫の生活費や教育費のうち通常必要と認められるものを、その都度贈与したものについて贈与税は非課税となります。
【利用する特徴】
・孫の入学などに伴って必要となる入学金や授業料等を祖父母がその都度負担しても、それは扶養義務の履行であり、贈与税の対象にはならない。
・「教育資金の一括贈与」との併用が可能。

■「暦年贈与」
1年間に110万円までであれば贈与を受けても原則、贈与税は課税されません。
【利用する特徴】
・「教育資金の一括贈与」「都度贈与」との併用が可能。

さて、それでは簡単な特徴を押さえたところで、次はこれらの活用法です。

■「教育資金の一括贈与」制度を利用しても、手を付けない!

これら3つの贈与は全て併用が可能であるという特徴を活かし、「教育資金の一括贈与」制度を利用するものの、“その資金には一切手をつけず”、「都度贈与」と「暦年贈与」を併用するのです。

まず、何はともあれ金融機関等で「教育資金の一括贈与」に対応した商品を申込み、この制度を利用し、孫に1500万円を一括贈与することによって相続財産から切り離します。しかし、一括贈与を受けた孫は、少なくとも祖父母が元気なうちには、この「教育資金の一括贈与」で贈与を受けた金額については一切手を付けません。これが最大のポイントです。

この1500万円に手を付けない代りに、次に「都度贈与」を利用します。祖父母は孫の教育資金について必要な都度、必要な金額を、その都度贈与します。繰り返しになりますが、これは扶養義務の履行であるため贈与税の対象にはなりません。また、「教育資金の一括贈与」を既にしていたからといって「都度贈与」が認められないといったことはありません。

そして最後に「暦年贈与」です。基礎控除110万円を利用した「暦年贈与」について、「教育資金の一括贈与」や「都度贈与」と併用できないという法律はありません。祖父母は孫に対して「暦年贈与」を使って使い道を限定することのない資金を贈与していきます。当然110万円までであれば贈与税はかかりません。

この3つの贈与を併用することで、ある程度まとまった金額を孫の為に使いながら相続財産を減らすことができます。複数の孫にこれを実行し、しかも年数をかければ、その効果はかなりのものになります。

「いやいや、だって、教育資金の一括贈与については、孫が30歳に達した場合、残った金額についてはその日(孫が30歳に達した日)に贈与があったものとして贈与税が課税されるんだろ?教育資金贈与については一切手をつけていないんだから、やがてたっぷり贈与税がかかってしまうじゃないか!!!」

もちろんその通りです。では、教育資金の一括贈与金額1500万円について、仮に一切手を付けずに残った場合の贈与税額を、ちょっと計算してみましょう。

15000(千円)-1100(千円)=13900(千円)
13900(千円)×40%-1900(千円)=3660(千円)

ポイントは、仮に孫が30歳に達した日に既に祖父母が亡くなっていたとしても、この日に直系尊属からの贈与があったとみなされますので、20歳以上の方が父母や祖父母から贈与を受ける場合の【特例税率】が適用されることです。

1500万円から基礎控除の110万円を差し引いた1390万円に、贈与税の特例税率40%が適用(速算表による控除190万円あり)され、贈与税は366万円になります。実効税率としては24.4%です。

今、20歳未満の孫に現金1500万円贈与をすれば税率は45%と一般税率が適用されますが、教育資金の一括贈与を使って、孫が30歳になった時に受け取れば特例税率の適用が可能なのです。

さて、これに対して現在、相続税の最高税率は55%。この税率が適用される人の場合、相続財産1500万円に対する相続税は、なんと825万円です。

■相続税の速算表

法定相続分に応ずる取得金額
税率
控除額
1,000万円以下
10%
3,000万円以下
15%
50万円
5,000万円以下
20%
200万円
1億円以下
30%
700万円
2億円以下
40%
1,700万円
3億円以下
45%
2,700万円
6億円以下
50%
4,200万円
6億円超
55%
7,200万円

 

つまり、最高税率に達する人だけではなく、財産額に応じて適用される税率によっては、教育資金の一括贈与に拠出して、一切手を付けずに貯めておき、やがて贈与税で納めるだけでも節税が出来てしまうのです。

そして実際に教育等に必要なお金は「都度贈与」と「暦年贈与」で賄います。

早い段階からこの3つの贈与を実行すれば、かなりの相続財産の圧縮が可能となります。

仮に一括贈与後、祖父母が思ったよりも早く亡くなってしまったり、認知症などにより都度贈与や暦年贈与が困難になった時には、教育資金の一括贈与でもらったお金を教育資金として実際に使っていけば、それで良いですし、祖父母が長生きすれば、手を付けず都度贈与と暦年贈与を併用すれば良いのです。

もちろん相続税の対象となる財産額によっては贈与税のほうが高くなりますし、贈与のし過ぎにも注意しなければなりません。また、この方法が使えるのは現金資産が、ある程度潤沢にある方に限られますが、一定以上の財産をお持ちの方にとっては、検討に値する方法であることは間違いありません。

まずは専門家にご相談のうえ、是非、実行を検討してみてください。

クラウド会計、導入期の終わり

5月9日、クラウド会計におけるトップシェアを誇るfreeeが、料金体系の変更を実施致しました。
サービス開始から3年余り。開始当初から維持していた法人1,980円、個人980円という単一の月額料金(いずれも税込)が、下記のように変更されました。
【法人】2プラン→1,980円、3,980円(いずれも税抜)
【個人】3プラン→980円、1,980円、3,980円(いずれも税抜)
金額だけ見れば、法人は2倍、個人は最大3倍の値上げです。ただし、新設された上位プランの機能と料金、そして会計ソフト全体でのトップシェアである弥生会計の機能と料金を比較すると、特別高いとは言えません。付加機能を考えればfreeeの方がまだ割安です。
freeeの今までのターゲットは個人事業と小規模法人(10人未満)がメインでしたが、今回予定されている上位プランの新機能(6~7月に提供予定)は、中小企業のど真ん中をターゲットとするのに必要十分。
簡単に新機能をお伝えすると、部門別会計、予算実績管理、資金繰りシミュレーションなど。
今までのfreeeは、メインターゲットからするとオーバースペックで、例えば年商1億円超程度からの、管理面が重要となってくる中小企業においてはアンダースペックと感じていました。
弥生会計はバージョンごとにターゲットが異なりますが、年商1,000万円程度から数十億円程度の中小企業までカバーしております。freeeもターゲット毎に料金と機能を変えることによって同じように対応してきました。
これにより、クラウド会計ソフトは小規模零細企業向けという導入期を突破し、中小企業全体をほぼカバーする成長期に入ります。
既存の会計ソフトは成熟期があまりにも長過ぎました。機能も使い方もさほど変わらないまま、そして操作方法もプロ経理が前提のソフトでした。そして、現在、既存の会計ソフトは、freeeが創った市場と既存の市場を融合するように自らの仕様を変更しています。freeeに追い立てられるように…。
freeeが先鞭をつけた、会計ソフトでの銀行・信販データの取り込みは、むしろ当然の機能となってきています。当社がメインで扱っているお堅いTKCの会計ソフトも、とうとう6月から銀行・信販データの取り込みに対応します。クラウド型のソフトのみならず、クラウド型ではないソフトでもデータ取り込みが実現します。
電子帳簿保存法の改正により、スキャナ保存による領収書の原本破棄も認められることになりますが、これらのデータも会計ソフトに関連付けてクラウドに保管されることになります。freeeのみならず、従来型の会計ソフトも半クラウドのような形で対応してくることでしょう。TKCも対応すると予告がありました。
つまり、クラウドであるかどうかもあまり重要ではなくなり、機能も同質化してきます。freeeもクラウド会計ソフトというカテゴリではなく、会計ソフトという全体カテゴリで評価されることになるでしょう。
こうなってくると、重視されてくるのは、より効率的に短時間で経理を処理できる会計ソフトということになります。
正直、従来の会計ソフトは、効率的に経理をさばくという視点の構造ではありません。従って、人の手による経理オペレーションを合理化して、会計ソフトに掛かる時間を最小限にという思考が必要でした。
freeeの特徴は、そもそもバックオフィスを合理化するという思想の下に開発されたソフトであるため、会計ソフトを中心に経理を回すという思考に適しています。
先日、経済産業省は、人工知能(AI)などの先端技術を活用して成長を目指す「新産業構造ビジョン」の中間報告をまとめました。AIやビッグデータなどの技術を活用して国内産業を改革しなければ、2030年度までに就業人口が735万人減るとの試算を示し、対策が必要だと指摘しています。(読売新聞5月6日付記事より)
このような前提からすると、人に依存する経理オペレーションと会計ソフトは、この先、生産性の悪化をもたらします。
そして、イノベーションのジレンマです。
既存の会計ソフトが、クラウド会計にとって当然の機能を実装していっても、基本構造は変わりません。基本構造をそのままに、他所に負けじと流行の機能を追加しているだけです。また、ユーザーが多いだけに、劇的なフルモデルチェンジもできません。料金体系も大幅変更が困難です。
そもそもイノベーションを起こそうと仕掛けてきたfreeeなどと正面から戦えないのです。
さらに、ビッグデータ…。
freeeは60万以上の事業所(個人、法人合せて)に利用されていると公表していますが、今後増え続ける事業所のデータを、いつ、どのように利用するのでしょうか…。これを武器にされたらと考えるとライバルは恐ろしいでしょうね。
私はたびたびfreeeを中心にクラウド会計を取り上げていますが、それは、ここ数年で会計ソフトの質が大幅に変わる可能性があるためです。ここに上手く対応できないと、本当に非効率な経理を続ける羽目になります。会計のみならず、給与や販売などのバックオフィスソフトも同じです。
様子見もよいですが、それ以上に動きは早いです。様子を見ている間に置いて行かれないように気を付けてください。

ハイブリッド経営のススメ!社会保険問題が中小企業の救世主となる!?

今年のはじめに日本経済新聞の一面に『厚生年金、加入逃れ阻止』の文字が大々的に掲載されました。
マイナンバーを活用し、未加入事業所を特定。効率的に未加入事業所の加入促進を行っていくという内容でした。
ある日のこと、私どものお客様のところに年金事務所の職員が、社会保険の加入要請に訪問して来ました。
その時、年金事務所の職員からこんなことを言われ厳しく指導を受けたといいます。
「法人は社会保険強制加入です。」
「社会保険に加入しない会社は本来法人を続ける資格がない!」
これを聞いて激しい怒りを覚えましたが、それと同時に「そっちがその気なら」という思いが生まれました。
そこで年金事務所の職員からの指導にもとづき、法人をやめることにしました。
正確に申し上げると、社会保険に加入できる規模の事業サイズにするということです。
簡単なシミュレーションをご覧いただきます。
仮に従業員1名と社長と奥さんがそれぞれ240万円報酬をとっている会社があったとします。
夫婦はともに役員です。
平成28年度の国民年金保険料は月額16,260円です。
年額で195,120円となります。
国民健康保険料は家族の人数にもよりますが、子供二人の標準的な家庭であれば年間40万円程度となります。
合計で、約60万円の保険料を支払っていることになります。
法人の事業規模をミニマムにし、最低限の報酬のみを法人から支払うようにします。
夫婦で月額5万円、年間60万円の報酬を設定します。
社会保険は法人と個人で保険料を折半しますが、いまはその話は考えずに単純に法人がどれだけの保険料を払うことになるのかを計算します。
一人当たり月額約2万4千円、年間で28万8千円
二人で57万6千円となります。
これによって、個人で保険料を払っている状態とほぼイコールとなります。
これだけでは面白くないのでさらに一歩話をすすめます。
役員には常勤役員と非常勤役員がいます。
常勤役員は社会保険に加入する必要がありますが、非常勤役員については加入する必要がありません。
代表取締役社長はどんなに低額な報酬であっても『常勤役員』とされますが、報酬が低い平取締役については『非常勤役員』として扱うことができます。
つまり、平取締役の妻は非常勤役員として社会保険の加入の必要がなくなります。
その結果、社会保険料は半分の約30万円でよいこととなります。
妻については『3号被保険者』となり保険料はかかりません。
ここで皆さんのこんな声が聞こえてきます。
「夫婦合わせて年収120万円じゃあ生活できないよ!」
そこはご安心ください。
法人の事業規模をミニマムにするというのは何も事業を縮小するということではありません。
縮小した分の事業を『個人事業者』として新たに事業を行うということです。
個人事業で得た収入は全て事業主の所得となり節税にならないと嫌われる傾向がありますが、社会保険に加入するしないでもめている規模であれば何ら支障はありません。
長々と話してきましたが、つまり法人と個人事業の二つを同時に行うという『ハイブリッド経営』が、中小企業のこれからの新しいスタンダードになると私は考えます。
まさにハイブリッド車がガソリンと電気を併用し燃費効率を向上させているように、中小企業は法人と個人事業を併用し効率的に経営しようということです。
ハイブリッド経営のメリットは社会保険だけではありません。
個人事業者のメリット
1.社会保険の加入義務がない
注意が必要です。
個人事業の場合でも常時5人以上の従業員が働いているのであれば、社会保険への加入が義務となります。
ただし、5人以上でも任意適用となる業種があります。
(1)農林水産業
(2)飲食業
(3)旅館・その他の宿泊所
(4)洗濯・理美容・浴場・写真等個人サービス業
(5)映画・娯楽業
(6)法律・会計士・税理士事務所等その他サービス業
2.消費税の免税制度が利用できる
消費税は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下の場合は納税の義務が免除されています。
法人は継続して事業を行っていますので、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えていても個人事業は新規に始めますので、最初の1年間だけは必ず納税義務が免除されることとなります。
また、法人もしくは個人事業のいずれかの課税売上高を1,000万円以内におさえることによって、継続的に消費税の免税制度を利用することが可能となります。
粗利益の高い収入を法人もしくは個人事業のいずれかに残すことがポイントです。
3.消費税の簡易課税制度が利用できる
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合には簡易課税制度を利用することができます。
粗利益の高いサービス業などは消費税を有利に計算することができます。
簡易課税から本則課税に移行したことによって消費税の納税が増えたという経験をお持ちの事業者も多いと思います。
4.税理士がいらない
法人の申告を自分で行うのはちょっと難しいです。(ほぼ無理です。)
また、税務署に聞きに行っても申告書の書き方までは教えてくれません。
「税理士さんに聞いてください!」と言われます(笑)
ところが個人事業者の場合は、確定申告時期になると必ず『無料申告会場』が設けられ、そこでは手取り足取り申告書の作成まで指導してくれます。
正直に申し上げると、会場スタッフが申告書を作成してくれているというのが実態です。
そのため、会計ソフトを使って数字だけまとめることができれば、申告にお金がかかることはありません。
法人については、税理士の顧問を継続している訳ですから、ちょっとわからないことがあれば教えてもらうことぐらいはできるのではないでしょうか?
いざとなれば税務調査の立ち合いも当然請けてくださるでしょう。
さらに言えば、法人の収入は劇的に下がることになるので、売上高を顧問報酬の基準としているという税理士事務所であれば顧問報酬の節約にもつながります。
5.インターネットバンキングが無料で利用できる
多くの金融機関のインターネットバンキングは法人のみ有料です。
ただし、毎月多くの振込みを行っている『個人事業者』についても有料とする金融機関もありますのでご注意ください。
最後になりますが、とても重要な注意点を申し上げます。
法人で既に行っていた事業を個人に移すということは法人にとって見れば『事業譲渡』です。
つまりM&Aを行うということです。
利益が出ている事業である場合には、個人から「のれん代」に相当する譲渡代金を貰う必要があります。
ただ単に法人でやっていた事業を明日から個人でという訳には行きません。
そこは顧問税理士に相談し、十分な検討計画のうえで進めてください。