“マイナンバーで脱税者を一網打尽”はホントか?<預金口座編>

引き続きマイナンバー制度の導入によって、税金にどのような影響があるのかをお話しいたします。

今回は『預金口座へのマイナンバー付番』とその影響についてお話しいたします。

『マイナンバー法』成立直後において、マイナンバーの利用範囲は『社会保障』、『税金』、『災害対策』の3つに限られていましたが、その後の改正によりあっという間に利用範囲が拡大されました。

それが、いわゆる『改正マイナンバー法』で、これにより施行日より3年以内の平成30年を目途に預貯金口座へのマイナンバーの付番が始まる予定となりました。

ただし、当初は預貯金口座へのマイナンバーの付番は義務ではなく、あくまで預金者の『任意』となっています。

その一方で、来年以後の銀行取引においては、投資信託や国債などの証券取引全般、外国送金などを行う際に、マイナンバーの提示が必要になります。

これらは金融機関等において支払調書の作成の可能性があるため事前に収集するものですが、折角収集したマイナンバーを預金者が拒否したからといって、(銀行が)預金口座に付番しないことなどあり得るのか、甚だ疑問が残ります。

また、平成33年からは預金口座や証券口座への導入も義務化されることを確定的に伝えているサイトなどもありますが、正確には『検討』を行っているという現状です。

預金口座にマイナンバーが紐付くと聞いて、誰もが真っ先に思い浮かぶのは『相続財産』のことではないでしょうか?

相続税の申告において、不動産や株式等に比べると預貯金は申告漏れの多い財産です。

正直に申し上げると、申告が漏れるというよりは財産隠しが行われ易い財産です。

税務署から相続税の調査と言われたときに私が真っ先に調査官に探りを入れるのも「預貯金の漏れがありましたか?」です。

今でも「亡くなる前に口座を解約しておいたほうがいいでしょうか?」とよく聞かれるのですが、その度に、私は「何のためにですか?」と聞き返しているくらい。(汗)

預金口座へのマイナンバー付番の理由として明確に『税務調査』が挙げられており、相続税の税務調査では絶大な効果を発揮するものと思われます。

相続税の調査では、税務署が事前に被相続人や相続人の預金口座を調査します。

その際に調査する口座は、所得税の確定申告などで把握しているもの、住まいや勤務先近くの金融機関、地元の金融機関が中心となります。

調査にあたっては各金融機関毎に照会をかけなければならず、また、金融機関にとってもあまり嬉しいお客様ではないためその対応もなおざりになりがちで、その結果、一行一行の調査にかかる時間は相当なものだと聞きます。

そのため、県外の金融機関にまで照会をかけることは現実的には不可能で、その結果、県外の金融機関の口座は把握され難いのが現状です。

ところが、すべての口座にマイナンバーが付番された場合、金融機関への照会はマイナンバー一つで行えるようになるため、今までは把握できなかった口座についても容易に補足されるようになるというのが世間の一般的な論調です。

果たして、本当にそのようなことになるのでしょうか?

全ての金融機関の口座をマイナンバーで一元管理する?どこが?どんな権力で?

この点に関して内閣官房マイナンバーHPに次のようなFAQがあります。

Q5-2. 国が個人情報を一元管理するというのは本当ですか。

A. マイナンバー制度導入により、情報を「一元管理」するようなことは一切ありません。情報の管理に当たっては、今まで各機関で管理していた個人情報は引き続きその機関が管理し、必要な情報を必要な時だけやりとりする「分散管理」という仕組みを採用しています。

特定の共通データベースを作ることもありませんので、そういったところからまとめて情報が漏れることもありません。

国がどこまでを『一元管理』と認識しているのかは図り知れませんが、金融機関すべての口座情報を、特定の機関が情報として持つというのは現実的でないと私は思います。

それよりも、マイナンバー付番の最大の『副産物』は別にあるように思います。

それは、マイナンバー付番が義務化されたときに現われる『浮遊口座』です。

本当に悪質な脱税行為は自分名義や自社名義の口座では行いません。

そこで出てくるのが偽名口座や借名口座です。

金融機関ではこれらの口座所有者のマイナンバーを勝手に入手することはできないため、マイナンバーが付番されない口座が宙に浮いてしまうのです。

それが『浮遊口座』です。

国税調査官の質問検査権の範囲において、不特定多数の浮遊口座のみを金融機関に照会することは現時点では不可能ですが、何らかのきっかけでマイナンバーの無い口座を把握することがあれば、脱税だけではなく犯罪を発見するきっかけになるでしょう。

今まさに、その準備がすすんでいることは間違いありません。