質問です。
あなたの会社では役員同士がいくら報酬をもらっているかを知っていますか?
又は知らせていますか?
社長をはじめ役員全員が『親族』であるオーナー企業の場合には答えは「Yes」でしょう。
しかし、社長と副社長のみが親族でそれ以外の専務や常務、平取締役が親族外の会社では「No」というところも少なくない思います。
しかし、これを当然のことと思っていると後々面倒なことが起こることがあります。
今日はそんなお話をいたします。
業績低迷の折、コスト削減の一環として『役員の報酬削減』を行うことがあります。
このような場面で社長の一声で『全員一律10%カット』などと言われたときに月給100万円もらっている人と、月給30万円の人とでは金額の重みが違います。
そうでなくともサラリーマンであれば、俺はこれしか貰っていないけどあいつはいったいいくら貰っているんだ?と常に思っているものです。
そんな鬱積した気持ちが「他の役員はいくら貰っているのか全部教えてください!」と言わしめることとなります。
役員A「そもそも私は役員なのですから他の役員がいくら(給料を)貰っているのかも知る権利があるはずです。」
さて、このような場面であなたなら何と答えますか?
「そんなことをお前に教える必要はない!」と言ってしまって構わない相手ならそれでもいいのですが、ここは法律に基づいた理解をしておきたいところです。
そのためには、まず、取締役の報酬はどのようにして決めたらいいのかを理解しましょう。
取締役の報酬については会社法第361条において、『定款』で定めることを前提としたうえで、定款で定めていないときは『株主総会の決議』によって定めることとしています。
定款で役員報酬を定めることはまずありません。
なぜなら役員報酬を変更するたびに定款を作り変えることになり、面倒だからです。
そのため、株主総会で役員報酬を決めるのですが、株主総会の決議において報酬を定める場合、取締役全員の報酬の総額のみを定め、その具体的な配分は取締役会の決定もしくは代表取締役に一任することとしています。
株主総会で個々の支給額まで決議することが原則となりますが、役員個々の支給額を変更するたびに株主総会の決議をすることが大変なので、株主総会では総額のみを定め、その範囲内であれば、あとは取締役会もしくは代表取締役に一任するほうが実務上運用しやすいということです。
その他にも株主総会で個々の支給額まで決めない理由があります。
株主総会で個々の支給額まで決議したのならば、そもそも全員の支給額を本来知っていなければならないからです。
多くの中小企業では株主総会など開催していません。
書類上だけ開催したことにしているだけです。
そこが弱みとなります。
会社法では「取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。」と規定しています。(会社法314条)
説明をするためには株主総会に出席する必要があり、取締役も監査役も株主総会への出席義務があります。
そのため、株主総会において役員個々の支給額を決議した場合には、当然に他の役員もその決定を知っていることが前提であり、後日において他の役員から各人の支給額について質問がありその応答を拒否した場合には、その役員によって『決議不存在確認』又は『決議取消しの訴え』を起こされるリスクが生じます。
しかし、株主総会において役員報酬の総額の枠のみを決議した場合には、その総額の枠のみを伝えるだけで足りることとなります。
ただし、この場合においても適法に株主総会を開催していない場合にはその事実が覆ることはなく、その役員によって『決議不存在確認』又は『決議取消しの訴え』を起こされるリスクは残ります。
次に、個々の支給額について取締役会で決議する方法と代表取締役に一任する方法のどちらがよいのかですが、代表取締役に一任することがベターです。
何故なら取締役会で決議した場合には当然その役員も会議に出席している必要があり、上記の株主総会と同じ問題が生じるためです。
また、取締役会の議事については議事録を作成し、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならないこととなっています。(会社法369条)
以上の理由から中小企業が取締役の報酬を決定する手順としてベターな方法は次のとおりです。
- 株主総会で報酬の総額のみを定める。(少し大きめに定めておくこと。)
- 個々の支給額については「その配分は取締役会に一任することとする」としたうえで取締役会では「代表取締役に一任することとする」とします。
- 各人の支給額を決定し「報酬決定通知書」により各人に通知する。
取締役会において、個々の取締役の報酬額の決定を代表取締役に一任した以上、当該取締役会の構成員である役員に、後になって「その額を開示せよ」との権利が認められると考えるのは困難です。
以上のことを踏まえると個々の支給額の開示を求められた場合の対応は次のようになります。
「個々の支給額については取締役会において私に一任されており、その開示を求める権利はあなたにはありません。」
会社の規模もそれなりになってくると古参の従業員や活躍を期待する従業員を役員にすることで後継者対策や責任ある職位を与えることで更なる貢献を期待します。
何らのトラブルがないうちは社長の方針に逆らうことはなくこのような問題は起こりませんが、いざというときに備え普段から適切な株主総会、取締役会の開催と進行に努めてください。