御社の顧問税理士について考える良い機会かもしれません。
6月19日の日本経済新聞にこんな記事が掲載されていました。
『医療費控除 領収書不要に』
皆さんご存知、医療費が一定額を超えた場合に税負担を軽くする制度「医療費控除」。現在は1年分の領収書を保存、確定申告の際に提出しなければなりません。電子申告する場合においては提出せずに済みますが、この場合には領収書1件1件について、医療機関の名称や治療の内容を入力する必要がありました。これがなかなか地味に面倒で、申告を諦めている人も多いようです。
しかし、来年1月に導入されるマイナンバー制度によって集積する医療費のデータを使うことで大半の領収書は出さなくてよくなるとのことです。
具体的には2017年夏までに健康保険のデータがマイナンバーに紐付けされ、国民健康保険や健康保険組合から「医療費通知」がマイナンバーの個人用サイト「マイナポータル」に送られます。利用者はこのデータを税務署にインターネット経由で送ることで税務署に領収書を出さなくてよくなります。
このことは現在、皆さまが依頼している税理士業務が今後、どんどん“無くなる”若しくはわざわざ“税理士に依頼せずとも自社(自分)で簡単にできる”方向に進んでいくことを如実に表しています。
そう遠くない将来、おそらく医療費控除だけでなく確定申告そのものや、年末調整なども“無くなる”若しくは“税理士に依頼せずとも自社(自分)で簡単にできる”ようになるでしょう。
なぜならば、年末調整や確定申告に必要な情報の大半は、マイナンバーに紐付けが可能だからです。番号制が実施されている他国の中には、番号により紐づけた収入、控除の情報を記載した書類を行政が納税者に送り、納税者は間違いがなければサインして送り返すだけという形になっている国も既にあります。
実際、「税理士の仕事が無くなってしまうから、税理士会を挙げてマイナンバー制度に反対すべきだ!」と声をあげている税理士もいるくらいです。
おそらくこの流れは年末調整や個人の確定申告に留まらず、法人についても同様でしょう。クラウド型の会計ソフトは既に会計入力の自動化を実現しています。記帳入力に関しては「税理士事務所に頼まなくても」というよりも、既に「わざわざ人間がしなくても」というところまで来ています。
決算業務、法人税の申告書についても、例えば「期中に支払った事業税の金額を入力してください。」といった質問に答えて数値を入力していく形式を取れば、専門知識がない方でも、それなりに申告書の作成をすることができるソフトが今後できるはずです。
仮にそのようなソフトを利用し自社で申告書を作成して多少の間違いがあり、追徴課税を受けたとしても、税理士に払う記帳・申告書作成報酬が無くなれば、そのくらいのコストは吸収して、もしかするとさらに余ってしまうかもしれません。
さて、私が言いたいことは皆さんもうお分かりでしょう。
誤解を恐れずに言うなら“申告書を作ってもらうだけなら、税理士はもう必要ない”時代になりつつあるのです。
「申告書を作ってもらうだけで、節税のアドバイスも何もない」
「若い担当者が資料を取りにくるだけで、何年も税理士と会っていない」
税理士変更を検討されている方から、本当によく聞く言葉です。
税理士を選ぶポイントは、人それぞれ違うかもしれません。しかし、申告書の作成まで全て自社でできるようになったとしたら、皆さんは税理士に何を求めるでしょうか。
皆さんは些細なことでも何か困った時、迷った時、顧問税理士の顔が頭に浮かびますか?
そんな時、すぐに気軽にメールや電話で連絡が取れますか?
御社の顧問税理士は、それにすぐに対応してくれていますか?
これらは皆さんが税理士と付き合ううえで、求めるべき最低限のことではないでしょうか。逆にいえば、この程度の関係性を築けていない税理士に報酬を支払うメリットはあるのでしょうか。
税理士の仕事は元来、申告書の作成だけではありません。ITが発達して申告書の作成が自社でできるようになったとしても、生身の人間を相手にする経営においてITが全てを解決はしてくれません。しかし経験と知識が豊富な、本当の意味で頼れる税理士が御社の顧問であるならば、その存在は皆さんをきっと助けてくれるはずです。
申告書の作成だけなら税理士に頼まなくても自社でできてしまう時代は、もう目の前です。御社の顧問税理士について考える、良い機会かもしれません。
月: 2015年7月
これもフリーか
以前、ご紹介したことがある『クラウド会計ソフトfreee』。
この運営会社が、先月『会社設立freee』というサービスを開始しました。
その名のとおり、会社設立支援のためのサービスですが、ここを利用するだけで会社設立に必要な手続き全般が完了できます。利用料はfree。
会社設立というと、自身で手続きを行うか、司法書士か税理士に依頼するというのが一般的です。自身で行うには手間が掛かるし、司法書士や税理士に依頼すると費用が掛かる。また、設立後の諸手続きも時間とお金が掛かります。
また、税理士が会社設立を低額又は無償で請け負うこともありますが、引き続き顧問契約という流れが待っているので、事前割引のようなものです。
しかし、この会社設立freeeは、自身で手続きを行っても、最も費用と時間がカットできるサービスと言えるかもしれません。そのままクラウド会計ソフトfreeeを利用するのであれば、税理士に仕事を依頼する前に事前準備は完了し、ついでにfreeeを扱える税理士まで探せるという段取りの良さ…、よくできています。
当社グループは、組織再編の関係で今年の一月に会社を一つ設立しました。仕事柄、設立事務には慣れているので、必要情報を司法書士に連絡して書類の作成と登記を依頼。当社スタッフに印鑑の準備、銀行口座の開設、税務署等への提出書類の作成などを指示して速やかに設立しました。
面倒だなと思ったものの、迷うこともなく指示も一方通行で済むので、ほぼ最少ステップで設立していると思われます。
しかし、この会社設立freeeを実際に使用してみると、「こっちで設立した方が早いし、楽だな…。あと半年早くリリースされていれば!」と、素直に感じました。税理士が、お客様の代わりに会社設立freeeを使って設立手続きすることも多くなりそうです。
もちろん、こだわりのある定款を作りたいなどの要望があれば別ですが、定款などは後からいくらでも変えられます。費用を掛けず、シンプルに設立するということであれば、理想的なサービスと言えます。
司法書士にも聞いてみましたが、司法書士泣かせのソフトだと申しておりました。
ちなみに、freeeは給与計算やマイナンバーのサービスも提供しています。
会計は税理士泣かせ、給与やマイナンバーは社会保険労務士泣かせ、設立は司法書士泣かせ…。次は弁護士でも泣かせてくれるのでしょうか 笑
freeeは士業を泣かせる気はないのでしょうが、税理士や司法書士などの専門家は複雑でテクニックを要したものを好む傾向があり、実際問題としては必要がないことを行うことが多い。
“悪貨が良貨を駆逐する”ということわざがありますが、freeeの場合は逆かもしれませんね。士業のサービスの過剰さ、複雑さを駆逐していただきたいです。
もちろん、ソフトに全面的に委ねることはあり得ませんが、会社設立freeeのようなサービスが、税理士や司法書士などの本来の専門家からではなく、ソフトの開発会社から提供されるところがポイントです。そもそも、ソフトとサービスの垣根がなくなっています。
税理士内で、得意業務を分業していくことがありますが、今後はfreeeのようなソフトと分業していくことになります。あるいは、税理士などの士業がソフトやクラウドサービスの下請けと化すのか…。
当社は既存サービスのうち、いくつかを止めることを決定しました。freeeのようなサービスと勝負する気にもなりませんので、非収益事業と化す前に撤退します。こだわりは全くありません。
そんな最中、アマゾンがリフォームの定額販売に参入しました。今回は、積水ハウス、大和ハウス、ダスキンの大手が出店していますが、これもある意味、アマゾンの下請け化と捉えられます。水回りリフォームなどを得意としているリフォーム会社はどのように対抗するのでしょうか…。
業務を複雑にしてきた専門家が、シンプルさとスピードで勝負するサービスに、どこまで抵抗できるのか。税理士などの士業にとどまらず、このような波があらゆる業種に迫っている、あるいは既に飲み込まれていることを自覚していく必要があります。
降参して軍門に下るか、徹底抗戦するのか、ブルーオーシャンを切り開くのか、いずれにしても考え時ですね。
P.S.
最後にお断りをしておくと、私はfreeeの回し者ではありません。お金を支払って利用している一ユーザーですし、他のクラウド会計ソフトも複数利用しています。念のため…。
要注意!シロウトが税金を計算しています
毎年5月になると『住民税(※注)特別徴収税額の決定通知書』という書類を職場からもらっていることと思います。
(※注:市町村民税・都道府県民税の略)
これは給与から天引きされる住民税を市区町村の役所が計算し、その結果を職場に送ってきたものです。
ほとんどの方は中身を確認することなく捨てているのではないかと思いますが、実はその計算に誤りがあることも珍しくはないので注意が必要です。
以前にもこんな相談がありました。
お客様 「住民税が所得税と比べてかなり大きいのですが・・・」
私 「所得税の最低税率は5%で住民税の税率は10%の固定ですからそのようなこともありますが、○○さんの場合にはそれはおかしいですね。」
お客様 「そうですよね!」
私 「わかりました。私が市役所に連絡して確認してみますね。」
お客様 「よろしくお願いします。」
市役所 「はい○○市役所です。」
私 「住民税の納税通知書のことでお聞きしたいのですが」
市役所 「それでは税務課におつなぎいたします。」
担当者 「はい、税務課です。」
私 「住民税の納税通知書のことでお聞きしたいのですが」
担当者 「通知書に記載された個人番号はお分かりですか?」
私 「○○○番です。」
担当者 「はい○○さんですね」
私 「住民税が所得税に比べて多すぎではないかと思うのですが、どのような計算をされていますか?」
担当者 「今お調べいたしますので少しお待ちください・・」
担当者 「あっ、医療費の控除が抜けていますね!間違いです。新しい通知書をお送りいたします。」
私 「どうしてそんな間違いが起こるのですか?」
担当者 「すみません、入力誤りとしか・・・」
人がやることですから稀に誤りがあることは仕方がないと思われるかもしれません。
ところが住民税や固定資産税は自分で申告するのではなく市区町村が計算して通知される税金については重大な計算誤りをしているケースが多数報告されています。
その一番の原因は計算する人が『シロウト』だからです。
役所では毎年人事異動があります。
通常同じ部署に3,4年在籍するのが通常ですが中には1年で異動する人もいます。
そのため、つい先日まで教育課や福祉課にいた職員が次の年から税務課に配属となることは当たり前のことで、つまりは税金の計算など初めてやる職員もいるのです。
長く在籍している職員でも4、5年ですのでシロウトに毛が生えた程度です。
そのため住民税については自分で簡単なチェックをすることをオススメいたします。
簡単なチェック方法をお伝えします。
1.所得を確認する
お勤めの方は会社からもらった特別徴収税額の決定通知書の所得欄の『給与収入』と前年末に同じく会社からもらった源泉徴収票の『支払金額』が一致しているかを確認してください。
給与以外の収入があり確定申告をした方は特別徴収税額の決定通知書の『総所得金額欄』と確定申告書第一表の『所得金額欄の合計』が一致しているかを確認してください。
2.所得控除を確認する
控除額は所得税の計算と同じものと異なるものがあります。
雑損控除・医療費控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除の4つは所得税も住民税も同じです。
源泉徴収票もしくは確定申告書に記載された金額と違いがあるかを確認してみましょう。
保険料控除・寄附金控除・扶養控除等は所得税と住民税とでは金額に違いがありますので、同額ではないまでも源泉徴収票もしくは確定申告書に記載がある場合には決定通知書の所得控除欄にも記載があるかどうかを確認してください。
所得税で控除があって住民税では何もありませんということはありませんので。
もしも、税額や計算内容に不明な点がある場合には市区町村の役所の税務課に連絡して見直していただくことをおすすめいたします。
自社の雇用について考えさせられる改正?!
「配偶者控除」が無くなったら、あなたはどうしますか?
皆さんご存知の「配偶者控除」ですが、ついに廃止の方向で検討されています。
以前から、時代の変化とともにその改正が議論されてきましたが、早ければH29年1月から改正となる模様です。
誰もが知っている「103万円」という給与のライン。
配偶者控除の廃止によって、このラインは当然になくなります。
このラインの消滅が、女性の働き方を大きく変える、(政府に言わせれば、このラインが女性の勤労意欲に歯止めを掛けていた、とのことのようですが)、ひっくり返せば、雇用する側の雇用のあり方も変わる必要が出てきます。
◆新しい制度の発足?
配偶者控除の廃止によって、現在検討されているのが「夫婦控除」です。
いくつかの案は出ているようですが、軸になるのは、配偶者の所得にかかわらず、一定金額を夫婦のいずれかから控除できる案で、これまでの配偶者控除の趣旨とは全く異なるものになりそうです。
◆主婦の収入の壁
先述の「103万円の壁」ですが、この税制の優遇を受けるため、このラインまでしか働かない(働けない)という主婦は、多くいらっしゃいます。
また、「130万円の壁」。
この用語もよく耳にする、ご主人の社会保険の扶養になるためのラインです。
実際にはこの、「103万円の壁」「130万円の壁」を上限に労働時間を調整しているというのは、どこにでもある風景ではないでしょうか。
また、大規模な企業では、H28年10月から、パートなどの短時間労働者の社会保険の適用基準の改正によって、年収106万円以上で社会保険加入となる可能性もありますから、働く会社の規模等によって「106万円の壁」「130万円の壁」が今後の一つのラインになることが予想されます。
◆雇用する側にも変化を求められる
現状では年収160万円を超えてくると、配偶者控除も受けれず、また、ご主人の社会保険の扶養にも入れないが、トータルでの手取りがグッと増えてくるライン、と言われています。
そうすると、今後は、
- 相変わらず、年収103万円あたりの労働時間がちょうどいい
- 社会保険の扶養になれる年収130万円弱まで労働時間を増やしたい
- 手取りを大きく増やすため、年収160万円以上、むしろ、フルタイム勤務を希望する
という、変更の希望があることが予想できます。
仮に会社がこの希望に対応出来ない場合には、例えばその希望を叶えるべく転職をされてしまう、そんなことも考えられます。
あるデータによれば、配偶者控除の廃止による増税によって、パートタイムではなくフルタイム勤務への希望の割合が、これまでの全体の13.1%から25.2%へと、ほぼ倍増するという情報もあります。
また、実際には、この年収が103万円以下の配偶者を持つことで、ご主人の給与に「扶養手当」などを支給している企業も多く存在しています。
個人への税負担の改正が、主に女性の働き方へ、さらには、この女性を雇用する側の体制にも変化を求めることになりそうです。
私個人的には、上記のような「手当て」があるとしたら、これ自体が今後は労働時間の調整をする大きな要因になると考えますが、企業としても労働者に不利にならない様な給与規定の改定が必要になるものと考えます。
また、「女性の社会進出を!」と謳うなら、税制改正の前に、例えば、子供を預けても安心して長く働けるような社会的環境を整備することの方が先のようにも感じます。
年収103万円のパートさんを多く雇用しているあなた、
「配偶者控除」が無くなったら、あなたはどうしますか?
必要な人材の確保、一人あたりの労働時間の増加による生産性の確保など、労働条件の変更の希望があっても、それに対応できる体制の準備が必要になりそうです。
シャープの減資
先月、シャープの減資が話題となりました。
シャープの現状を考えれば、減資自体は不思議なことではありません。今回は資本金を1,218億円から5億円にまで減資することになったようです。
減資の目的は多々あるのでしょうが、批判を受けたのは、資本金を1億円にまで減資して、中小企業並みの優遇税制を受けるという話が強調されたためです。
ベンチャー企業は、資金確保のためにベンチャーキャピタル等から出資してもらい、ドンドン増資することがあります。最近ではクラウドワークスなどがよく取り上げられますが、売上よりも資本金の方が多くなることも珍しくありません(このような状態の場合は、ほぼ赤字です)。
資本金を1億円以下に抑えれば優遇税制が受けられるのに、なぜ増資?? と思われる方も多いかもしれませんが、大雑把に言えば、返済義務のない資本金として資金を集めるか、返済義務がある借入金として資金を集めるかの資本政策による違いです。
従って、増資を続けるベンチャー企業にとっては優遇税制等どうでもよいことなのです。むしろ、そのようなことを気にしていては資金を集められません。斬新なビジネスモデルがあっても、実績のない会社に金融機関はお金を出してはくれませんので…。
また、上場・非上場にかかわらず、有名企業でも資本金が1億円以下の企業は珍しくはありません。資金を出資で集める必要がなく、資本金を高額にする必要がないのであれば、優遇税制を受けられる方が良いに決まっています。それが日本の税制です。そういう意味では、Googleやアップルが会社をアメリカ以外の海外に置いて節税している手法と、大きな違いはありません。
それだけ優遇税制のインパクトが大きいということです。
私も何度かお客様の減資をお手伝いしたことがあり、今回のシャープのように1億円超から1億円に減資したこともあります。
「なぜ、資本金2億円なのですか?」と確認させていただくと、
「資本金は多い方が良いと思って…」という回答、
「資本金1億円以下では、このような優遇税制がありますよ」とお伝えすると、
「では、資本金を1億円にしたい」という結論。
中小企業の出資者は、ほぼ例外なく親族のみです。つまり、誰にも遠慮する必要がありません。資金が必要なら、オーナーが貸し付けるか、金融機関からの借入で十分です。
では、そこまで話題になる優遇税制の内容は何か?
代表的なものを簡単にお伝えすると…
- 税率が低い
- 設備投資を行った場合の特別償却(減価償却を早めてくれる)
- 設備投資を行った場合の税額控除
(投資額の数%を税金から控除してくれる)
*ただし、資本金3,000万円以下の企業のみ - 雇用者数が増加したら税額控除
- 欠損金の100%が繰越控除(資本金1億円超は欠損金の80%のみ)
- 法人事業税の外形標準課税が適用されない
お読みいただいている方のほとんどは資本金1億円以下の中小企業と思われます。従って、お馴染の制度ばかりですが、法人事業税の外形標準課税はご存じない方も多いでしょう。これは、赤字でも発生する税金のことです。支払っている給料や利子、家賃などにより税額が決まります。
シャープの減資による税制面での目的は、この外形標準課税の回避と欠損金の100%繰越控除が大きかったと言われています。資本金1億円以下の企業が赤字の場合、法人住民税の均等割しか掛かりません。
つまり、とにかく税額を抑えたいのであれば、資本金は1億円以下が絶対です。税額控除のことを考えれば、ベストは3,000万円以下。ちなみに、売上高が7,000億円程度のヨドバシカメラの資本金は3,000万円です。
ただし、資本金が1億円以下の中小企業でも稀に見受けられるのが、本来適用できる優遇税制が適用されていないという事実です。これは、ご相談者の確定申告書を確認させていただいて我々も気付きますが、ご相談者は気付いておらず、単純に税理士の怠慢処理か税理士も気付いていないのです。優遇税制の多くは勝手に適用されるものではなく、自ら申告しなければなりません。ご注意ください。
そして、今回話題になったシャープの減資は、一つのターニングポイントになる可能性があります。
現在、日本の税制は主に資本金で中小企業と大企業を分けています。しかし、今回問題になったように、「資本金だけで中小企業と大企業を区分してよいのか?」という話は元々ありました。中小企業の中でさえ、資本金1,000万円の10人の企業と資本金1,000万円の100人の企業では、規模と活動内容の次元が違うことはお分かりだと思います。
それが、一民間企業の資本政策に政府が苦言を呈したくらいですから、税制に反映されていく可能性は十分にあります。
つまり、資本金が1億円以下でも中小企業とみなさない税制が導入される可能性があるということです。こうなってくると、中小企業の皆さまも無関係ではありません。
外形標準課税に関しては以前から適用拡大が検討されていますし、現在の政府が行っている法人税改革は大企業への影響が中心で、中小企業はほぼ無関係です。ですから、様子を見ながら、中小企業に対しても課税ベースを拡大してくる可能性は十分にあります。
「企業の大小を分ける基準に、資本金だけというのはやめよう」
という、本来当然でもある事が現実になったら、影響を受けるのは資本金1億円以下の企業です。中小企業の概念を資本金で判断しなくなったら、それは中小企業への課税強化の第一歩です。
資本金1億円以下という今まで当然のように存在した基準を変更するのは、国としても非常に困難な作業ですが、シャープの減資のように世間を賑わせ、「それは当然だよね」と世間が思い始めたときに手を打つのは簡単です。
それでも資本金での判断基準が全くなくなるということは考えられませんが、このようなタイミングで自社の資本金を含めた資本政策を再検討しておくというのは必要かもしれません。何事も、ムダに大きいということはコストが掛かるということです。
利益を削るだけが節税ではありません。「資本政策もあるのだよ」という教訓を改めてシャープは教えてくれたのではないでしょうか。
【追記】
『中小企業の税制優遇基準「資本金1億円」見直し』との記事が日本経済新聞に掲載されました(6月17日朝刊)。資本金に比べて操作しにくい売上高や所得を新たな指標にする案が出ているとのことです。早ければ2017年度にも変更されるようです。シャープ、やってくれましたね…。
「他の役員はいくらもらっているんですか?」と聞かれたときのために知っておきたい役員報酬の決議方法
質問です。
あなたの会社では役員同士がいくら報酬をもらっているかを知っていますか?
又は知らせていますか?
社長をはじめ役員全員が『親族』であるオーナー企業の場合には答えは「Yes」でしょう。
しかし、社長と副社長のみが親族でそれ以外の専務や常務、平取締役が親族外の会社では「No」というところも少なくない思います。
しかし、これを当然のことと思っていると後々面倒なことが起こることがあります。
今日はそんなお話をいたします。
業績低迷の折、コスト削減の一環として『役員の報酬削減』を行うことがあります。
このような場面で社長の一声で『全員一律10%カット』などと言われたときに月給100万円もらっている人と、月給30万円の人とでは金額の重みが違います。
そうでなくともサラリーマンであれば、俺はこれしか貰っていないけどあいつはいったいいくら貰っているんだ?と常に思っているものです。
そんな鬱積した気持ちが「他の役員はいくら貰っているのか全部教えてください!」と言わしめることとなります。
役員A「そもそも私は役員なのですから他の役員がいくら(給料を)貰っているのかも知る権利があるはずです。」
さて、このような場面であなたなら何と答えますか?
「そんなことをお前に教える必要はない!」と言ってしまって構わない相手ならそれでもいいのですが、ここは法律に基づいた理解をしておきたいところです。
そのためには、まず、取締役の報酬はどのようにして決めたらいいのかを理解しましょう。
取締役の報酬については会社法第361条において、『定款』で定めることを前提としたうえで、定款で定めていないときは『株主総会の決議』によって定めることとしています。
定款で役員報酬を定めることはまずありません。
なぜなら役員報酬を変更するたびに定款を作り変えることになり、面倒だからです。
そのため、株主総会で役員報酬を決めるのですが、株主総会の決議において報酬を定める場合、取締役全員の報酬の総額のみを定め、その具体的な配分は取締役会の決定もしくは代表取締役に一任することとしています。
株主総会で個々の支給額まで決議することが原則となりますが、役員個々の支給額を変更するたびに株主総会の決議をすることが大変なので、株主総会では総額のみを定め、その範囲内であれば、あとは取締役会もしくは代表取締役に一任するほうが実務上運用しやすいということです。
その他にも株主総会で個々の支給額まで決めない理由があります。
株主総会で個々の支給額まで決議したのならば、そもそも全員の支給額を本来知っていなければならないからです。
多くの中小企業では株主総会など開催していません。
書類上だけ開催したことにしているだけです。
そこが弱みとなります。
会社法では「取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。」と規定しています。(会社法314条)
説明をするためには株主総会に出席する必要があり、取締役も監査役も株主総会への出席義務があります。
そのため、株主総会において役員個々の支給額を決議した場合には、当然に他の役員もその決定を知っていることが前提であり、後日において他の役員から各人の支給額について質問がありその応答を拒否した場合には、その役員によって『決議不存在確認』又は『決議取消しの訴え』を起こされるリスクが生じます。
しかし、株主総会において役員報酬の総額の枠のみを決議した場合には、その総額の枠のみを伝えるだけで足りることとなります。
ただし、この場合においても適法に株主総会を開催していない場合にはその事実が覆ることはなく、その役員によって『決議不存在確認』又は『決議取消しの訴え』を起こされるリスクは残ります。
次に、個々の支給額について取締役会で決議する方法と代表取締役に一任する方法のどちらがよいのかですが、代表取締役に一任することがベターです。
何故なら取締役会で決議した場合には当然その役員も会議に出席している必要があり、上記の株主総会と同じ問題が生じるためです。
また、取締役会の議事については議事録を作成し、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならないこととなっています。(会社法369条)
以上の理由から中小企業が取締役の報酬を決定する手順としてベターな方法は次のとおりです。
- 株主総会で報酬の総額のみを定める。(少し大きめに定めておくこと。)
- 個々の支給額については「その配分は取締役会に一任することとする」としたうえで取締役会では「代表取締役に一任することとする」とします。
- 各人の支給額を決定し「報酬決定通知書」により各人に通知する。
取締役会において、個々の取締役の報酬額の決定を代表取締役に一任した以上、当該取締役会の構成員である役員に、後になって「その額を開示せよ」との権利が認められると考えるのは困難です。
以上のことを踏まえると個々の支給額の開示を求められた場合の対応は次のようになります。
「個々の支給額については取締役会において私に一任されており、その開示を求める権利はあなたにはありません。」
会社の規模もそれなりになってくると古参の従業員や活躍を期待する従業員を役員にすることで後継者対策や責任ある職位を与えることで更なる貢献を期待します。
何らのトラブルがないうちは社長の方針に逆らうことはなくこのような問題は起こりませんが、いざというときに備え普段から適切な株主総会、取締役会の開催と進行に努めてください。
賃上げと103万円の壁
6月1日の日本経済新聞に賃上げを拒否するパート社員の記事が掲載されていました。
「賃上げを拒否する!?なんで!??」と思う方が多いでしょうが、このお話、いわゆる「103万円の壁」が絡んでいます。
記事によれば賃上げの結果、年収が103万円を超えてしまうことによって夫の所得税を軽くする配偶者控除が使えなくなること、また、夫の会社からの配偶者手当が打ち切りになることを懸念して賃上げ拒否する人、賃上げを受け入れ、勤務時間を減らしたいと希望する人が増加しているとのことです。
増加する社会保険料の負担などを考えると、中小企業にとって優秀なパートスタッフの確保は非常に重要です。そのために時給を上げたら、勤務時間を短くしてほしいと言われてしまう・・・なんとも皮肉な話しです。
また、年末近くになると「103万円の壁」を理由に「休ませて欲しい」と願い出るスタッフのシフト調整に頭を悩ませている企業も多いはずです。
しかし、この「103万円の壁」、雇う方も雇われる方も「103万円を超えない方がいいんでしょ?」という非常にザックリな理解をしている方が多く、実際に103万円を超えると、どれくらい税額に影響があるのかを知らずに、頑なに拘っているケースが少なくありません。
実際の影響額を知っておけば、「103万円の壁」に必ずしも拘る必要がないという結論に至る人も少なくないはずです。そうなれば、企業も多忙な年末にシフト調整の必要がなくなります。では次の表をご覧ください。
この表は配偶者控除・配偶者特別控除を適用した場合、妻のパート収入金額に対して、実際に夫の所得税住民税が、いくら減るのかを計算したものです。
夫が課せられる税率は、所得金額に応じて異なります。所得控除は人によって異なるため、一概には言えませんが、税率5%は年収~400万円ほどの方、税率10%は年収500~600万円ほどの方、税率20%は年収700万円~800万円ほどの方がおおまかな目安になります。
夫の年収が500万円ほどで適用税率が10%の方の場合、奥様のパート収入が103万円以下であれば、夫の税金が所得税住民税合わせて71,000円減ることが表からわかります。同じ条件で、奥様のパート収入が118万円だった場合は、夫の税金は52,000円減ります。
次に、これを“妻のパート収入が103万円以下であった場合と、そうでなかった場合を比べると、夫の税額がどれだけ増加するのか”という観点で見てみることにします。
先ほどと同じ、夫の年収が500万円ほどで税率が10%の人の場合、妻が年収103万円以下に抑えた場合と、年収が124万円であった場合の夫の税金の増加額は29,000円であることがわかります。
確かに、妻の年収が21万円上がったことによって夫の税金は29,000円増加します。
しかし、世帯での手取り額についてはどうでしょうか。夫の税金は29,000円増加しますが、収入が増えたことによる妻の所得税・住民税の増加額3万円程度を考慮しても、世帯の手取り額は15万円程度増加するのです。
もちろん、妻の収入が103万円を超えると夫の会社で配偶者手当が出なくなるといったような場合には、そこも含めての検討が必要になりますが、もし、そうした事情が無い場合に税額だけで見ると、必ずしも103万円に固執せずに、妻の収入を増やすという選択肢が当然に生まれてきます。
ただし、ご存知のように年収が130万円以上になった場合、妻が自身で社会保険に加入する必要が出てきてしまいます。社会保険に加入した場合、手取り額は一気に減りますので、そういった意味では「103万円の壁」よりもむしろ「130万円の壁」の方が重要です。
多くの人は実際にどれくらいの影響が金額として出るのかを知ることなく「103万円の壁」という言葉に囚われてしまっています。実際の影響や感じ方は個々の状況等によって変わってはきますが、夫の会社での配偶者手当を気にする必要が無い方は、年収を130万円未満に抑えておけば、「103万円の壁」はそれほど気にする必要がないと言ってもよいのではないでしょうか。
今年も早いもので、もう半分が過ぎようとしています。年末まであっという間です。労働人口が年々減少していく現在、パートスタッフは貴重な戦力です。年末の忙しい時期にこそ活躍してもらえるよう、パートスタッフさんに正しい知識を持ってもらいましょう。
新設の「結婚・子育て資金の一括贈与」を斬る?!
最近、良く耳にする「贈与税の非課税の制度」ですが、ご存知の通り、今年のH27年4月より「結婚・子育て資金の一括贈与」の制度がスタートしました。
なんだか意味のない制度ができたものだ・・・と感じているところですが、つい最近(といっても2年前ですが・・)も、同じような贈与税の非課税制度である「教育資金の一括贈与」の制度が創設され、こちらも皆さん良くご存知だと思われます。
ところで、なんだか・・・似たような制度ですが、皆さんはこの2つの制度の違いをご存知でしょうか。
今回はこの違いを確認しながら、新制度の「使いよう」について考えてみたいと思います。
まずはこの制度の概要を簡単に比較してみましょう。
簡単にまとめると以下のようになります。
このように、制度の適用が出来る子供や孫などの年齢や、拠出できる金額、非課税となる用途等が違っていることが分かります。
また特に大きな違いは、表の最下部の「契約終了前に贈与した方が死亡した場合」の課税関係です。
まず、「教育資金一括贈与」の場合では、課税関係がありません。
すなわち、この制度で贈与した金額は、完全に将来の相続とは切り離しが可能になります。
こういう意味では、この制度を利用しておくことには「相続税の節税」という意味では大きな効果が期待できます。
一方、「結婚・子育て資金の一括贈与」の場合では、贈与を受けた子供や孫等に対してその残額に対して相続税が課税されてしまいます。
この点では、一括で贈与したことの効果は「相続税の節税」という観点では見いだすことが出来ない、ということが考えられます。
なぜなら、これらの用途のための贈与は、もともと贈与税の非課税だからです。
この2つの制度における用途、すなわち「教育資金関係の贈与」も、「結婚・子育て資金の贈与」も、扶養義務者相互間(父母や祖父母と子供や孫などの間)においては、その必要となった都度、通常必要な金額の範囲での贈与をする上では、この制度を利用しなくても、非課税となっているのです。
ここでは、この「必要となった都度」というのがポイントとなりますが、一括で贈与することのメリットが無いとしたら、その必要な都度、必要な資金を贈与してあげれば無税で済んでしまうことになるのです。
改めて、なんだか意味のない制度ができたものだ・・・と感じてしまいますが、ここで考えられるメリットを絞り出してみました。
(1)その都度、資金の贈与をお願いする手間と、都度、贈与する手間が省ける
(2)贈与をする祖父母等が元気なうちに資金移動ができる
(3)祖父母等から贈与があった場合には、「これだけの資金が既に準備されている」という意味で贈与を受けた両親へのメンタル的な余裕が生まれる可能性がある
(4)通常、確実に孫へ相続財産を残すためには、遺言書などでその旨を明記しておく必要があり、またこの場合には相続税額が2割増しになるが、この制度を利用した場合で契約期間中に贈与をした者が死亡した場合には、確実にその一括資金の残高は孫へ残されることとなり、また、孫には相続税が課税されるが、相続税額が2割増しにはならない
かなり無理やり感がありますが、このようなことが考えられます。
特に、(4) については、成就するための前提条件は厳しいものがありますが、例えば、「年齢50歳未満の孫にお金を残してあげたい、余命いくばくもない祖父母等がいる場合」などの場合には、その用途の利用予定がなくとも「結婚・子育て資金の一括贈与」の制度を利用して、孫へ相続した場合の相続税額の2割加算を回避しながら、かつ、確実に孫へ相続させる、というような、レアケースでの利用価値はあるのではないかと考えます。
とはいえ、やはり、なんだか意味のない制度・・・と感じないではいられません・・
このように、使いづらい制度ではありますが、両制度の違いをしっかりと確認して、ピンポイントでうまく利用してもらえればと考えています。
何もしないという対策
相続税増税により、相続税に対する注目度は高くなる一方です。なんとかして相続税を減らしたいと考えている方、相続した資産を運用して増やしたいと考えている方に、一つの考え方として知っておいていただきたい対策法があります。
それは、あえて「何もしない」という対策です。
私たちは基本的に自分が稼ぎ出した資産の範囲でしか資産の運用はできないものだということを知っていただきたいのです。それは、つまりこういうことです。
会社経営者が一生をかけて3億円の資産を蓄えることができたとします。ということは、この経営者が資産を運用できるのは3億円までなのです。当たり前過ぎてピンと来ないかもしれませんが、それがこの経営者の実力という意味です。
もちろん上手くいくケースもあるでしょう。ただそれはあくまでたまたま。不思議と多くは自分の稼いだ範囲での運用しか、うまく行かないものです。繰り返しになりますが、何故ならそれが“実力”だからです。
しかし、こうしたことは実際に自分で経営をして実力で稼いできた経営者はなんとなく肌で分かっているものです。実力以上の投資をしたりは、あまりしないものなのです。
気を付けなければいけないのは、相続により財産を手にした人。つまり、実力以上の資産を、ある日、相続という原因により手にした人なのです。夫である経営者が実力で稼ぎ出した3億円の資産を相続する妻や、その子供たちに3億円を運用できる実力はありません。
相続税を減らすために、または、相続した資産を増やそうと、相続した土地に借金をして賃貸物件を建設しようと考えている方。もちろん有効な節税方法の一つであることは事実ですし、上手くいけば資産を増やすことも可能でしょう。
通常、相続した土地に借金をして賃貸物件を建てようと計画する場合、その投資判断基準の一つとして誰もが利回りを考えます。ここで自分の実力とは関係なく、相続により土地を手にした人は、土地代を考慮することなく建築にかかる費用のみで利回りを考えがちです。これが大きな間違いであること、皆さんはおわかりでしょうか。
たとえ土地を相続で手にしたとしても、利回りについては土地を時価で購入したとものとして投資判断をしなければならないなのです。なぜなら、その土地建物を将来売却することになった時、その土地建物を購入するかどうか検討する買主は土地建物の金額で利回りを計算し、投資判断を行うからです。
実際に売却するか否かは問題ではありません。投資判断として当たり前のことなのです。土地を相続で取得したからといって、建物への投資金額だけで利回りを計算した物件は、まず、土地建物で利回りを計算して投資判断を行った他の物件にかないません。
実力で資産を手にした人は、こうした判断間違いはあまりしないものです。もちろん、頼りになる専門家を味方につけていれば、実力外で資産を手にした方もこうした間違いをせずにすみます。
ただ、考えていただきたいのです。「手にした資産と、その投資・運用は、ご自身の実力の範囲内なのか。」
実力を超えた投資・運用は多くの場合、資産を実力の数値まで目減りさせます。
何もせずに資産を蓄えておく。これだって場合によっては立派な対策の一つなのです。
中小企業において、社外取締役は必要か?
最近、皆さまも「どこそこの会社の社外取締役に、前〇×社の社長が就任した」という報道をよく見聞きするのではないでしょうか。
ご存知の方も多いと思いますが、5月1日から“企業統治(コーポレートガバナンス)”の強化を主な目的とした改正会社法が施行されました。簡単に説明すると、「社外取締役を増やして、経営の監視を強化してください」ということになります。近年、上場企業において様々な問題が起こったことも影響していることでしょう。また、金融庁と東京証券取引所も企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を決定し、社外取締役を2人以上選任するよう促しています。
つまり、大企業においては社外取締役を増やしていくのが流れであり、社外取締役には“CEO”(元も含む)という人材が理想と言われていますから、スター経営者が社外取締役に就任すると、冒頭のような報道が行われます。
しかし、社外取締役が経営強化にどれだけ有効に機能するのか?という疑問は誰にでも湧き上がるものですし、“あの”大塚家具にも社外取締役はいたそうですから、社外取締役という制度設計と、それが有効に機能するかどうかは別問題であることは明白です。
結局は、どれだけ社外取締役として適切な人材を確保できるのかということと、その企業の経営陣が社外取締役の意見をどれだけ経営に活かせるかどうかが問題になります。今後、社外取締役の本格的な導入に伴い、日本企業がどのように変わっていくのか(あるいは何も変わらないのか)、楽しみでもあります。
ということで、本題に移ります。
それでは中小企業において、社外取締役は必要なのでしょうか?
「いやいや。関係ないでしょ、中小企業は…」
と、皆さまがお考えのように、私も関係ないだろうと思います。
そもそも、自社の取締役とはいえ、オーナー経営者がどれほど他人の意見を聞くのか? やりたいことを即座に実行できるのがオーナー経営者の強みであり、止めろと言われるとやりたくなるのがオーナー経営者の気質ではないでしょうか(違う方も多いと思いますが、あくまでイメージということでご容赦を…)。
従いまして、「社外の人間には、うちのことは分からない!」というお考えの経営者は、上場・非上場にかかわらず、社外取締役は無用の存在です。むしろ、存在するだけで会社に混乱をもたらし、有害にもなり得ます。もちろん、他人の意見を排除する場合は、全てオーナー経営者の責任となるのは望むところでもあるでしょう。
これに対して、制度が要求している社外取締役の機能は…
社長「現在、このようなことを考えており、来年から実行に移す予定です」
社外取締役「ちょっと待ってください。それは〇×社が数年前に実行して大失敗しているじゃないですか。それをなぜ当社がいまさら? このような方向性の方が当社に合っているのでは?」
社長「それは…」
という具合に、取締役会などで社外取締役からの牽制とアドバイスの下、経営を進める必要があるということです。これが上手くいっても上手くいかなくても、評価を受けるのは経営者自身です。従って、得難い社外取締役を持つことは、会社にとって強みとなります。
そして、社外取締役は必要ないとしても、オーナー企業の弱みは、制度が要求する社外取締役のように「それはダメだよ!」、「こういう方法があるよ!」と明確に言ってくれる人材が皆無ということです。仮に外部でもそのような人材が身近にいればラッキーですし、社員にそのような人材がいたらそれは本当に幸せなことです。
もちろん、一般論的な正義感から「それはダメだよ!」と言うだけでは意味がないのは当然です。知識と経験に基づいた客観的な意見であることが重要です。
ここまで言えば分かるように、中小企業にとって最も大きな問題は、大企業における社外取締役のような機能を果たせる人材がいないということです(大企業も人材の確保に奔走しているようですが…)。
この点、中小企業の社外取締役には、自社の業績を把握している顧問税理士、契約している経営コンサルタントに白羽の矢が立つこともあります。しかし、これがベターな選択かというとそうではありません。
社外取締役にはCEO(元も含む)が適任と言われているのは、同じように組織を率いてきた経験と知識を見込まれてのものです。
これに対して、顧問税理士や経営コンサルタントがどれだけの組織を率いているのか?そもそも、顧問税理士や経営コンサルタントの会社の業績は万全なのか?
よーーくお考えいただければお分かりかと思いますが、9割以上の税理士も経営コンサルタントも大して社員を抱えていないですし(つまり一般企業に比べて組織の体をなしていない)、会社が私物化されているという意味では、一般企業よりも酷いのではないでしょうか(もちろん、例外となるような方はいらっしゃいます)。
また、持っている知識は専門特化されすぎていて、それ以外の知識はどこかの受け売り。顧問税理士や経営コンサルタントとして付き合っている分にはよいかもしれませんが、社外取締役という重責を担える職種かというと大いに疑問があります(職種として疑問があるというだけで、適任の税理士やコンサルタントがいらっしゃるのも事実です)。
以上から、基本的に社外取締役なんてものは中小企業に根付くことはないと考えますが、同様の機能を何らかの形で取り入れられる中小企業は、やはり成長・成功しやすいというのは間違いありません。
例えば、顧問税理士のアドバイス一つで、会社の財務状態が劇的に変わることだってあるくらいですから、本来求められる社外取締役の機能を果たしてくれる人材がいれば、経営に大きなインパクトを与えます。
そして、そのような人材を活かすために重要なことがあります。それは、その方に正確な業績や財務状態を開示できること。また、その方がその業績や財務状態を意味することを十分に理解できるということです(こういう意味で、税理士が選択肢に入ってしまうのは仕方がない面もありますが…)。
会社の正確な情報を把握できずに、適切なアドバイスを行うことはできませんし、アドバイスはできるけど業績や財務は少し分かる程度というくらいでは、アドバイス自体が正しくても、その会社にとって正しいものかどうかは別の問題になります。
いずれにしても、コーポレートガバナンス・コードが社外取締役を2人以上と促しているとおり、ただ1人だけの人材では、経営の監視やアドバイスは十分ではないということになります。
従って、中小企業には社外取締役は必要ないけれど、同様の機能を持てるのであれば好ましい。その際は、1人ではなく2人以上が好ましい。というのは大企業と変わりません。もちろん、取締役会なり、それに近い形式の会議が中小企業でも行われるというのが前提にはなります。無駄な会議は排除すべきですが、有用な会議のスタイルは構築すべきです。
皆さまの会社はいかがでしょうか?
外部の意見を柔軟に取り入れる仕組みはありますか?
社内に入るということは本気でなければできませんし、一緒に経営の強化を目指す以上、責任もありますので当然のことかと考えます。
もし、皆さまの会社でも社外取締役をご検討されているのであれば、付き合いとか顧問だからとかお金を払っているからということではなく、本気で皆さまに意見してくれる方をお探しになってください。