問題解決型交渉

3月12日の日本経済新聞に東京都心のオフィス空室率が5.31%で、20ヶ月連続で改善しているとの記事が掲載されていました。大企業の収益好転に伴い、業容拡大によるオフィス拡張の動きが引き続き活発とのことです。

私たち中小企業の収益が好転しているか否かはさておき、オフィスが手狭になった等々、様々な理由によりオフィス移転や開設を検討されている経営者の方もいらっしゃると思います。しかし、オフィス移転の際に経営者を悩ますコストの一つに「敷金・保証金」があります。

通常、「敷金・保証金」は個人宅で賃料の1~3ヶ月分、オフィスで賃料の6~12ヶ月分がおおよその相場になりますので、都内でそれなりの広さの物件を借りれば、かなりの金額になります。しかもこの「敷金・保証金」、支払った時には損金にならないのだから、参ります。

しかし、もし、この「敷金・保証金」を支払わずに済むのなら・・・
オフィス移転のハードルも、少なからず下がるのではないでしょうか。

ご存知のように敷金・保証金は入居者が家賃を滞納したり、退出時に入居者の過失による修繕費がかかったりした時の為に、大家さんが預かっておくお金です。繰り返しになりますが、入居者にとっては預けておくお金ですので、支出時において損金にすることはできません。

いずれ退去時に損金になるか、戻ってくるとはいえ、支出時に損金にならないキャッシュの流出は経営者にとって喜ばしいものではありません。

であれば、敷金・保証金を払わずに済むか、せめて減額できるように大家さんに交渉する方法は無いのか、考えてみましょう。

当たり前ですが、「絶対に滞納なんかしないから、敷金は勘弁してください!」と交渉しても、まず取り合ってもらえません。そこで、敷金の性質を理解したうえで交渉するのです。

再度確認しますが、敷金や保証金は「大家さんが家賃の滞納や入居者の過失による修繕に備えて預かっておくもの」です。つまり、大家さんにとって敷金は「担保」です。

ということは、家賃の滞納などに対する大家さんのリスク問題が、敷金とは別の形で担保、解決できれば、交渉が可能になるかもしれません。

そこで交渉に有効なのが「家賃の年払い」です。家賃は通常、月末に翌月分を支払います。これを1年分まとめて先払いする、つまり「年払い契約」にすることを条件に敷金を無しにする、若しくは減額してもらえないか交渉するのです。

大家さんにとっては、前もって1年分の家賃を受け取ることができれば、家賃滞納のリスクから、ある程度解放されるはずですので交渉してみる価値は十分にあります。
「家賃は1年分先に払うから、その代りに敷金無しにして!(減らして!)」と交渉するのです。

ちなみに、この1年分の先払い家賃、家賃が1年以内のものであるなど、一定の要件を満たせば「短期前払費用」といって、支払った時点で全額損金に算入することができます。前払費用として資産計上しなくてもよいのです。

もう一度繰り返します。敷金・保証金という形であれば、支出時に損金にはできません。
しかし年払いの家賃で一定の要件を満たしていれば、支出時に損金にできます。
仮にオフィス移転が、予想以上に利益が出た期の年度末と重なれば、それまで毎月支払ってきた家賃に加えて、年払いした1年分の先払い家賃も損金として計上することができ、結果として最大で2年分の家賃を、支出した期の損金とすることも可能なのです。

敷金・保証金は当然に支払うべきものと思って諦めていませんか?
同じ支出でも、支出時に損金にできるのと、できないのとでは会社にとって大きな違いです。交渉ごとは、ただこちらの利益だけを求めて行ってもうまくいきません。しかし、相手側の立場、抱えている問題を理解し、解決してあげる視点を入れることで、うまくいくことがあります。オフィス移転や開設の際は、ぜひ「ダメ元」で交渉してみましょう。