私事ですが、最近、妻からの提案で我が家の保険を見直すことになりました。
妻 「私の保険証券が届きましたよ。」
妻 「今のところはあなたが受取人になっていますから・・・。」
この言葉を聞いて今回の原稿を思いつきました。
みなさんは『相続放棄』という手続きをご存じでしょうか?
中小企業の社長でこの手続きを知らない方はいらっしゃらないとは思いますが、念のためにご説明いたします。
相続が起こり自分が相続人となった場合に、亡くなられた方が残された財産の一切を引き継がないための手続きです。
この手続きをした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
つまり、この手続きの利用シーンは次のとおりです。
- 現預金や不動産よりも借金のほうが明らかに大きい。
- 相続の揉め事に巻き込まれたくない。
中小企業の社長は会社で行った借入金について、必ず個人保証を行っています。
民法大改正によって『個人保証は原則禁止』となった今も中小企業融資の実態は何も変わりはしません。
社長はそれでも覚悟を持って臨んでいますからいいのですが、その陰でいつも生きた心地がしていないのは奥様なのです。
あるとき、社長からの電話で私が会社を訪問すると、社長との会話の合間をみて奥様が悲痛な面持ちで私に話しかけていらっしゃったことがありました。
それはちょうど社長が多額の設備投資を決められた直後のことでした。
経営は決して順風満帆とはいえない中での社長の決断でした。
奥様としては、社長の判断を理解しながらも、
毎月返済していけるのだろうか?
返済できなくなったらどうしたらいいのか?
社長も無理をしているし、社長に万一のことがあったらどうしたらいいのか?
と、不安は尽きないご様子でした。
社長が従業員より多額の役員報酬をとり、多少の貯蓄があったとしても、数億円もの借金を個人保証しているとなれば奥様としては気が休まりません。
そこで私は少しでも気が楽になればと思い、『相続放棄』についての話をしました。
私 「社長に万一のことがあったときのことを考えると不安で仕方がないんですね?」
奥様 「そうなんです・・・。」
私 「ご安心ください。」
私 「万一のときは相続放棄をすれば、ご家族に借金がいくことはありません。」
奥様 「でも、それだと家も現金も全て相続できないんですよね?」
私 「それは、その通りです。」
私 「そのために『生命保険』にご加入いただいているんですよ。」
奥様 「保険は相続放棄しても、もらえるんですか?」
私 「はい、保険金は受取人固有の財産です。相続を放棄したからといって、もらえなくなるということはありません。」
奥様 「そうですか。それを聞いて少し安心しました。」
法人で生命保険に加入してはいるものの、個人ではしっかりとした契約のない方をお見受けすることがあります。
法人で契約している保険金は会社が受取人となっていますので、いざというときには個人のもとにお金が入らず会社に入ってしまいますので注意が必要です。
(退職慰労金の固有財産としての判断については今回は説明を割愛いたします。)
一昔前であればこれだけで奥様の不安を少しでも軽くすることができました。
ところが、その後保険法が改正され、遺言によって受取人の変更ができるようになったのです。
これによって保険会社との契約上の受取人と遺言による新たな受取人の二人が存在する場合がでてきてしまったのです。
例外はありますが、一般的に生命保険会社では、正式な婚姻関係にある配偶者がいる場合には、『愛人』または『内縁関係』にある人を受取人とする契約は結ばせてくれません。
いくつかのハードルはありますが、保険法の改正によってそれが可能となってしまったのです。
万一の時に自分と家族を守ってくれると信じていた保険が、遺言書によって他人に渡ってしまうことがあるということを覚えておいてください。
保険は互いを思いやる絆があってこそのパートナーからの『最期のプレゼント』ではないでしょうか。
万一のときの備えは大切ですが、それ以上に相手を気遣う気持ちを大切にしたいと思う今日この頃でした。