「出国税」創設!!
有価証券やデリバティブ取引など、一定の金融資産を持つ人が海外へ出国する場合には、その金融資産を時価で譲渡等したとみなして課税します!!
なんと、国家は富裕層へのさらなる外堀を埋める改正案を出してきました。
その背景には、富裕層がその所有する資産とともに海外移転をはかり、国内での課税を逃れる傾向が多くなっていることが挙げられます。
たとえばシンガポールや香港では、一定の金融資産の譲渡益には課税しないなど、その課税方法が国によって違うことも大きな要因です。
なお、この改正案ですが、実はすでにアメリカやオーストラリアなど先進諸外国でもすでに導入されている課税方式で、いずれは日本でも採用されるであろうといわれていたものでした。しかし先日の税制改正大綱に盛り込まれたのは想定外の早さだといわれています。
それだけ国家にとって、富裕層への対策は急務であることがうかがえます。
さて、この出国税の内容ですが、簡単にご説明いたします。
●対象者
国外転出(日本に住所等を有しないこととなる場合)をする者
●要件
(1)有価証券やデリバティブ取引などの金融資産を1億円以上有する
(2)国外転出する日前10年以内に、日本に住所等を有していた期間が5年以上である
●課税方法
国外転出時に有価証券等の譲渡やデリバティブの決済があったものとみなして、その含み益に対して所得税を課税する
というものです。
ただし、次のような規定も予定されています。
●その後帰国した場合
国外転出後5年以内に帰国した場合において、上記の国外転出のときに課税された有価証券等を引き続き所有していた場合には、その課税を取り消すことができる。
●納税猶予
国外転出をするときに譲渡等があったものとみなして課税される場合に、納税猶予を受ける旨の記載をした確定申告書を提出し、相当する担保を提供した場合には、国外転出の日から5年間はその納税を猶予する。(さらに申請により10年間の納税猶予とすることもできる⇒そして10年以内に帰国した場合で有価証券等を引き続き所有している場合には、5年と同様に課税を取り消すことができる)
上記のように「国外移転をするときに課税する」といっても、最長で10年間の納税の猶予や、課税の取り消しを規定しています。
言い換えれば、何が何でも出国時に課税する!!ということではなく、課税逃れだけはさせないぞ!という国家の意思がうかがえる法案といえます。
そのほかにも、次のように富裕層への包囲網は厳しくなっています。
- 既に始まっている国外財産調書の提出にも、未提出者への罰則規定が適用される
- 金融資産を1億円以上有する場合等、一定の要件を満たす場合には、確定申告時に所有するすべての資産を詳細に記載した財産債務調書の提出が義務化される
- 所有する有価証券を国外証券口座へ移動した場合には、その金融機関がその情報を税務署へ通知する
- マイナンバーが付された預貯金口座の情報を個人番号等で検索できるような体制構築を、金融機関に義務付ける
既にH27年より、所得税や相続税の最高税率も引き上げられており、今後も、一般のサラリーマンを含めた広い層への個人課税の強化を図りつつ、富裕層への課税ベースは今後もますます強化されるのは間違いありません。
富裕層への課税強化が、結果として経済格差の是正と富の再分配機能を促進させることとなるのかどうかはわかりませんが、自分を守れるのは自分だけという意識のもと、今後の動向は注視しておきたいものです。