スカイマーク、民事再生法

皆さまご存じのとおり、1月28日に国内航空第3位のスカイマークが民事再生法の適用を申請しました。最高益更新から3年も経たないうちに…ということが強調されています。
JALのケースもそうでしたが、航空業界は政治も影響するので破綻の原因を業績だけに限定することができません。
とはいえ、業績を見ずには始まらないので、今回はスカイマークをケーススタディに過去最高益の更新という点と、勝負をかけた大型投資という点から考えてみたいと思います。
まずは、以下のスカイマークの業績推移をご覧ください。
(スカイマーク公表決算資料より)

【スカイマーク・実績】

スカイマークがエアバスと大型旅客機購入で契約を結んだのが2011年2月。
当時のIR情報では、カタログ価格で約1,150億円と記載があります(為替レートは83円換算)。
業績が大きく上昇を始めた年度で、その翌年である2012年に最高益を計上しています。つまり、この頃までは十分に支払いが可能であると踏んでいたということになります。
なお、エアバス購入のための前払金が建設仮勘定に計上されています。
契約後から毎年積み上がり、2014年の3月期には建設仮勘定の額が手持ちの現預金の額を超えてしまいました。
前払金の支払いは当初から予定されていたことですので、問題は現預金の急減です。当然、2014年3月期の赤字転落も大きな要因です。
そして、前払金の支払いが2014年4月から滞り始めました。
初回の納品予定は2014年10月。そして、2014年7月にエアバスから解約通知が届き…。後は報道されてきたとおりですが、解約通知から半年後に民事再生法の適用を申請しています。
ちなみに、2014年6月に発表した2015年3月期の業績予想は以下のとおり。

【スカイマーク・業績予想】

この業績でエアバスの前払金をまかなえるはずがなく、キャッシュの破綻は目に見えていました。
また、やはり注目すべきは円安という要因です。
エアバス購入当時の換算為替レートが83円で、2014年の年間平均レートは106円近くまで上昇しています。
ドル建てでの前払金の支払いのたびに購入価格が上がっているようなもので、当初の見込み額を大きく超えたはず。 購入当時に為替レートが現在のようなものだったら、ここまでの大型契約を結んだかどうかは疑問です。
さらに気になるのはスカイマークの有利子負債です。 借入れがありません。
航空機材などはリースでまかない、運転資金すらも借りておりませんでした。
これはいざというときに素早く支援してくれるメインバンクがないことと同じです。
仮に、スカイマークにメインバンクがあり、素早い資金調達が可能であれば、違った結果になったかもしれません。
LCCとの激しい競争がなければ…、赤字に転落しなければ…、急激な円安がなければ…、エアバスが契約変更に応じてくれれば…。メインバンクがあれば…、国交省がJALとの共同運航を認めてくれれば…。
エアバスからの大型旅客機購入は、将来を見据えての投資だったことでしょう。
しかし、あまりにも長期にわたる航空機の調達計画は、経営環境の激変により納品にすら至りませんでした。
最悪の事態に対応するための備えも不十分だったと言わざるを得ません。
徹底した効率化と剛腕で鳴らした西久保前社長でしたが、その剛腕ゆえに最後は柔軟な対応に徹しきれなかったのでしょうか…。もともと西久保前社長は自ら上場させたベンチャー企業の創業者でした。その後にスカイマークの社長に転身しています。従って、スカイマークはベンチャー企業特有の、極端な行動を取り続けてきました。
これが成功の要因でもありましたが、諸刃の剣でもあります。
また、大きな勝負に出なければ問題はなかったのかもしれません。
スカイマークの業績の推移や採用した方針は、中小企業でもよくみられるパターンです。ですから、中小企業の経営者の判断にとっても十分参考になります。

  • 自社の業績を左右する要因が何か分かっているか?
  • その要因が悪化したときの業績を想定しているか?
  • 身の丈に合った投資であるか?
  • 投資と回収の期間が長期に渡るとき、回収に至るまで耐えうる体力はあるか?
  • いざというときに支援してくれるメインバンクはあるか?
  • 最後まで意固地にならずに柔軟に対応できるか?

仮に、スカイマークがこの難局を乗り切り、エアバスの大型旅客機を手に入れ、国際線に参入すれば…逆転ホームランを打てたのかもしれません。
しかし、逆転勝ちの勝率は、先行逃げ切りの勝率を著しく下回ります。
中小企業が逆転勝ちを狙いに行くということは身の丈にあった勝負とは思えません。
以上、スカイマークの業績推移に、為替レートを付け加えるだけで、見え方が変わるはずです。
皆さまの会社も、業績推移に影響を与えているであろう要因をいくつか探してみてください。
その推移によって、計画の見直しが必要かもしれません。計画が動き始めてから逆転ホームランを狙うような事態にならないように…。