平成27年。いよいよ相続税改正による増税が幕を開けました。しかし増税とはいっても、相続税がかかる人は改正後も7%程度で、ほとんどの人に必要なのは、相続“税”対策ではなく、相続“争い”対策であることを先月のメールマガジンでお伝えしました。
このこと自体は事実です。しかし、相続において必要な対策は、相続“争い”対策であるということも、今や既に時代遅れになりつつあります。では、相続において、今この時代に本当に必要な対策とはどのような対策なのでしょうか?
繰り返しになりますが、以前からお伝えしているように、相続“税”対策が必要なのは、ほんの一部の富裕層といわれる人達です。そして、相続人間の争いを避けるための相続“争い”対策は全ての人達に必須です。しかし、現代において相続争いよりも、まず優先して対策すべきことがあります。それは“生きること”への対策なのです。このことは、私達人類の「寿命」が大きく関係しています。
日本人の平均寿命は1960年代が65歳前後、1970年代が70歳前後、1980年代に入ると75歳前後になり、ご存知のように、今や80歳を超えています。つまり、一昔前は60歳の定年を迎えると、多くの方は早ければ数年から10年ほどで相続を迎えるという事実に直面してきたわけです。そうすると当然に、定年後若しくは定年前から早めに「相続税対策」「相続争い」対策が必要になったわけです。
しかし、日本人の平均寿命が80歳を超えた現在、多くの方には定年を迎えた後、20年近い、いわゆる第2の人生が待っているのです。つまりこのことは、私達は定年後20年もの「働かない」、「収入が無い」時間を生きていかなければならないことを意味しています。
つまり、生きていくための対策、“生存対策”が必要なのです。
相続対策は財産を次の代に移転することを基本に考えていきますが、“生きること”の対策は財産を手放さないことを基本に考えなければなりません。
孫や子に贈る1人当たり1,500万円までの教育資金について贈与税が期間限定で非課税になる制度など、生前贈与を活用して相続財産を減らす対策を取る方が増えています。しかし、相続税対策を目論んで生前贈与をした結果、自分自身の老後資金が不足気味になってしまうといったケースも散見されるようになってきました。“相続税対策”を急ぐあまり、“生きることへの対策”が疎かになってしまうケースです。
“生きること”への対策の必要性が意味するところは、なにも「生きていくために必要な生活費を残しておくこと」に限りません。子供や孫に大切にされるには、それなりの財産が必要です。
なんとも嫌な言いかたかもしれませんが、これは事実です。必ずしもそうとは言えないかもしれませんが、貧しくて子供に生活費を頼ってくる親と、ある程度裕福で子供に生活費などを援助してくれる親のどちらが大切にされるか、考えてみてください。
今年もきっと世間には様々な相続“税”対策が流布されることでしょう。その中身は必ずしも皆さんの相続に有用な内容とは限らないどころか、手を出すべきではない策まで含まれています。人生80年~90年の時代です。相続“税”対策よりも、優先すべきは相続“争い”対策、さらに最も優先すべきは、ご自身が“生きること”への対策なのです。