相続税増税が始まりました。書店には相続税関連の書籍が並び、新聞や雑誌でも頻繁に特集が組まれています。そこに書かれている内容のほとんどは相続“税”対策。しかし、ほとんどの方に本当に必要になるのは相続税対策ではありません。“相続争い対策”です。
相続争いというと、財産がたくさんある家庭に起こるものと思われがちですが、ある程度の資産を保有している、いわゆる資産家と呼ばれるような人達は比較的早い段階から相続“税”を意識し、対策を練っているケースがほとんどです。その結果、相続が争いに発展するケースはごく稀なのです。
『うちには、争いになるほどの財産はないから大丈夫だよ!』
こんな家庭が一番危険です。実は相続争いの約8割を遺産5千万円以下のケースが占めており、昨年については10年前と比べて50%以上も争いの件数が増加していることが統計から分かっています。遺産5千万円以下ということは現時点の税制では、相続“税”がかからないことを意味しています。
つまり、相続税がかからない、少ない遺産をめぐる争いが増えているのです。
相続“税”が発生しなくても、どの家庭にも必ず“相続”は発生します。相続税増税を目前に控え、今一度ご自身の周りの“相続”について考えてみましょう。
では、なぜ遺産5千万円以下のケースでの争いが増えているのでしょうか。これこそが相続税増税をきっかけとした、書籍等により巷に溢れる相続に関する“中途半端な情報・知識”の弊害といえるのです。今まで相続のことなど考えたことがなかった人でも、“相続税増税”“終活”などのキーワードを耳にすることが増え、『もしや、我が家にも関連するのでは・・・』と書籍等で相続について調べます。相続について関心を持ち、知識を得ること自体はとても良いことです。しかし、その結果、肝心の相続対策を十分にとっていないにも関わらず、遺留分など、相続する側の人間の“権利意識”ばかりが高まってしまっているのです。
対策が不十分にも関わらず権利意識だけが高まれば、争いにならないほうが難しいといえるでしょう。
相続争いとなりやすいのは、例えば遺産が自宅土地と自宅建物しかないといった場合です。仮に長男夫婦が、亡くなった父親と自宅建物に同居していた場合、長男は、自宅土地建物を相続し、そのまま住み続けたいと考えるでしょう。しかし、そうすると同居していなかった次男には何も相続する財産がないことになってしまいます。そうなれば、次男は土地建物を売却して金銭を分けようと言いだします。しかし、売却すれば長男は住処を失ってしまいますので反対をします。こうなると、もはや争いは避けられません。
また、子供がいない夫婦の場合、『全ての財産を妻のA子に相続させる』との遺言を残しておくだけで、何の問題も生じませんが、遺言がなかった場合、夫の兄弟に相続権が発生してしまいます。このケースで、仮に遺産が自宅しかなく、夫の兄弟が相続権を主張してきた場合には、結果として自宅を売却せざるを得なくなるなど、争いは避けられなくなってしまいます。
上記のような場合でも、生命保険や遺言書を活用するなどして争いを避ける手立ては必ず存在します。相続税増税といっても課税の対象となる方は全国平均で7%程度です。そういった意味では引き続き相続“税”対策が必要なのは、ごく限られた人達といえます。
しかし、相続争い対策は全ての家庭に必要です。権利に対する知識を得るだけでなく、親族全員が幸せになれる遺産相続を実現するためには各家庭に合わせた相続対策が必要であることを認識し、必要に応じて専門家に相談してください。
相続の話は家族が死を迎えた時の話であり、当たり前ですが楽しい話ではありません。しかし、誰もがやがて死を迎えることは間違いありません。また、自分が亡きあと、家族が争うことを望む人など1人もいないはずです。家族が病気になり、相続が間近に迫ってからでは、対策が間に合わないばかりか、あまりに露骨に感じてしまい、誰もが相続の話をしづらくなってしまいます。相続の話は、『まだまだ先の話』と思っているうちにしておくべきなのです。
今年も残すところあと僅か。普段、親族皆が顔を合わせる機会は、そう多くはないはずです。今年の年末年始は、親族皆さんで相続について考えて話しあってみてはいかがでしょうか。それが、円満な相続の第1歩になるかもしれません。