今回は経営計画のうち数字面での考え方についてお伝えします。
皆さまが一般的に経営計画と呼ばれるものを立てる場合、その内実は大きく分けて二つの表現の仕方があります。一つは「目標」。もう一つは「予算」。
「目標」という表現については売上高や利益に使われるケースが多く、「予算」という表現については費用に使われるケースが多いと言えます。今回は話を分かりやすくするため、売上計画を目標と表現し、費用計画を予算と表現します。
皆さまの中にも、目標という表現はポジティブで、予算という表現はネガティブなイメージがあることでしょう。しかし、目標は期待に過ぎません。そして、期待は推測に過ぎません。つまり、目標は絶対のものではなく、あくまで方向付けだということです(byドラッカー)。
もちろん、目標は必要です。しかし、言い換えれば、期待を前提にした計画というものは危険だということを皆さまもお気付きのはず。過去にイケイケドンドンの経営計画を立てられ、実績との差に落胆された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これに対して、予算はどうでしょう。
予算に関しては、過去の実績をベースに必要と思われる数字を積み上げて決まるケースがほとんど。どの企業においても前年に比べて予算の削減はあまり行われず、現状維持か増加が基本です。これは国や地方公共団体の予算編成を見ていてもお分かりのとおり。
実際、計画で立てられた予算も、重要性が低いものを除いて実績が予算を下回るということはなく、予算どおり消化されるか、売上目標の達成のために予算オーバーが行われるということになります。
期待も何も関係なく、予算は“予定どおり”という表現がぴったりです。つまり、厳しい言い方をすれば、“努力を怠った”ということになります。
「予定どおりが、なぜ努力を怠ったことになる?」
そう思われる方も多いかもしれません。しかし、予算で計画を立てるのは費用です。少なければ少ないほど利益に回ります。期待ではありません。現実です。
例えば、当初、増員しなければ仕事が回らないと考えていたところ、既存スタッフの頑張りで増員をせずに仕事が回った。その分、予定していた人件費予算が余り、利益に回った。既存スタッフに還元することができる。
だから根性論で頑張れ、と言いたい訳ではありません。効率よく仕事が回る工夫を行うべきだということです。
つまり、予算どおりということは、自社の効率を上げる努力を怠ったということを客観的な数字で証明したということにつながるという見方ができます。現状維持や予算オーバーは、“誰でも”可能ですから。
予算を立てたら消化するのが当たり前。売上目標を下回っていたら予算増加が当たり前。これでは国や地方公共団体の予算と変わりません。これは、財政難で予算をカットすることとは違います。努力ではなく、そこで終わりというだけです。
企業活動は、予算を下回る努力をしてこそ、そして、予算どおりで目標を上回る努力をしてこそ利益が上がります。
この目標と予算の関係性こそ、経営計画の達成につながります。
しかし、現実は、予算は立てたら終わり。予算どおりであればOK。あとは目標(=期待)を達成するだけ。このような関係性につながりはなく、目標の達成にも根拠がないということが分かるはずです。つまり、計画の立て方が期待と予定で出来上がっています。
予算が与えられ、予定どおり消化していたら社員も怒られることがない。これでは効率も上がりませんし、コスト管理も上手くいきません。また、予算に依存することは、間違ったもの、古くなったもの、陳腐化したものの廃棄も難しくします(byドラッカー)。
そして、年々、予算が増加していき、数年後には複雑になり過ぎて手を付けることすら難しくなる…。
その悪循環が、期待をさらに高めざるを得なくなる…。
このような場合、経営計画の利益は、売上高の目標と費用の予算の差額から求められることになります。これは、目標とする利益が先にあり、費用の予算を積み上げて、結果として売上高の目標が求められる場合も同様です。
高い売上目標を立てる。これはOKです。しかし、投入する予算を使い、最大限の効果が上がるように努力するという意識が希薄であれば、目標など達成されません。
当初立てていた予算も、ムダだと判断した瞬間に切り捨てる。当初立てた予算を大幅に増加させることが更なる成果に結びつくのであれば躊躇なく追加投入する。社員には、常に予算を下回るよう努力を促す。さらに、労働時間を増やすことなく成果を上げられるよう改善策を検討させる。
極端な言い方をすると、経営計画など厳密である必要はありません。計画を立てた後のモニタリングによりコントロールすることが重要だからです。計画はあくまで最初の基本方針であり、いかに予定どおりに行かせないか、それを上回る成果を上げられるかということが求められます。
もし、これを行わずして目標を達成できたときは、“外部環境の要因が大きい”。そう考えておくのが無難です。
経営計画を立てることに意味はないとお考えの中小企業の経営者も多いのが現実ですが、このような考え方を前提にすると、予算を下回るような行動を取ることが、自社の改善活動を促すことにつながるということは理解していただければと考えます。
今まで一度も経営計画を立てたことがないのであれば、あるいはこのような考えで経営計画を立てたことがないのであれば、一度試してみてください。その効用に気付かれるかもしれません。