二重基準による業績不振要因

それぞれの立場によって、求めている目標、求められている目標が異なるのは当然です。

例えば、経営者が自身で重視するのは経常利益であったとしても、営業部長に求めるのは売上高…というように。

営業部長は経営者から与えられた目標売上高を達成するため、広告費の予算増加や営業社員の増員、そして車両・携帯電話などの追加手配を会社に要請します。もちろん、それに関連して他の固定費も増えていきます。

しかし、これだけのリソースを投入しても、それに見合う売上高が上がるかどうかは別の問題というのは皆さまもご存じのとおり。取引数が増えても、競合により単価が下がっていく今の状況から考えればインパクトが薄くなるのは当然です。

そして、社員も売上高も増えているにもかかわらず、経常利益が伴わない現状に経営者は頭を悩ませる…。これはどこの会社でも見かける光景です。現実的には、売上高が上がれば経常利益もついてくるという会社は“ごく稀だ”ということを改めて認識していただく必要があります。ごく稀な会社というのは、そもそも経常利益が上がる構造が出来上がっているのです。

では、経営者が重視をする経常利益を上げるにはどうすればよいのでしょうか?

一般的に、経常利益を上げるアプローチとして「売上高を上げる」、「限界利益率を上げる」、「固定費を下げる」ことが叫ばれます。

この中で一番簡単なのは、売上高を上げることです。もちろん、簡単にというのは、お金を掛ければということであって、実際にお金を掛けられるかどうかは別の問題であり、掛けたお金に見合う売上高の増加が見込めるかどうかは前述のとおり。

また、限界利益率を上げるというのは、経常利益を上げるために一番効率的なアプローチなのですが、現在一番難しいと考えられるのもここになります。競争の激化による値引き、円安による原料高、人件費高騰に連動する外注費の増加など、悪化要因を上げたらキリがありません。税理士やコンサルタントは簡単に限界利益率を上げろとは言いますが…。

そして最後に固定費を下げること。固定費を下げろなんてことは聞き飽きているとは思いますし、今どき無駄な固定費がたくさんある会社の方が珍しい。また、繰り返しとなりますが、売上高を上げることは固定費の増加も伴います。衰退企業は例外として、基本的に固定費は上がるものであって、下がるものではありません。

つまり、これらを一つ一つ改善に取り組むというのは、必要ではあっても現実的な効果としては薄いということになります。それでも改善する会社だってあるというのは言うまでもありませんが、それこそ“ごく稀だ”ということになります。

「売上高」、「限界利益率」、「固定費」がポイントになることは間違いありませんが、経常利益を上げるためには、売上高や限界利益率を上げることが常に正しいとは限りません。同じように固定費を上げることが経常利益を下げる要因になるとは限りません。

要は、経常利益を上げるためには、「売上高」、「限界利益率」、「固定費」をどう上げ下げするかということに尽きます。

話を最初に戻すと、営業部長は売上高を上げるために、営業部門で部分最適を行います。なぜなら、権限がそこまでしか及びませんし、経営者に売上高の目標を達成しろと言われたら、そのように動かざるを得ません。

営業部長にとっては、売上高と限界利益率を上げるために、固定費を上げるということが最善の手段となります。それによって経常利益が上がるかどうかは営業部長にとってそれほど意味があることではありません。当然ですが、営業部長の管轄外のコストも同時に引き上げてしまう可能性も高いため、見えないところで状況を悪化させているかもしれません。

従って、売上高も社員も増えている、だけど経常利益が伴わないという会社の場合、この辺りのギャップを確認する必要があります。つまり、経営者が要求する目標が、むしろ経常利益を押し下げている可能性があるということです。

極端な話ですが、営業部長に「経常利益が最大化するよう考えて行動して欲しい。それであれば目標売上高を下回っても構わない」と伝えてみたらどうでしょう? おそらく営業部長は混乱するとは思いますが、視野は広げざるを得ません。自分の管轄外のことまで考えて動き始めたとしたら、むしろ売上高は下げた方がいいのではないかと思考し始めるかもしれません。

営業部長にそこまで求めるのか?

「目標経常利益を達成するために、目標売上高を達成しろ」という二重基準は、むしろ混乱をもたらします。会社として最優先すべきは一つだけであって、会社が望んでいるのは経常利益の最大化だということを伝えるのは、むしろ必要なことなのではないでしょうか。

ある意味では、経常利益を求めるのであれば、売上高を捨てなければなりません。売上高を求めるのであれば経常利益を捨てなければなりません。私たちは大企業ではありません。中小企業です。二兎を追えるリソースなど存在しないのです。

そして、最も優先すべきものを判断するのは経営者しかいません。

余談ですが、岡本もよく口にする、中小企業の経営者は「自分だけかっこに括る」ということをやりがちです。社員には無駄な経費は使うなと言いつつ、経営者は自分が有利となるような経費の使い方を行います。

「その分、仕事をしている」とはよく耳にしますが、本当に生産性が高いのかどうかは再度検討が必要ではないでしょうか。

「社長は利益が出ないと言っているけれど、“あれ”をもっと抑えてくれれば利益に回るのに…」と、社員が思っていることが問題なのです。

「経常利益の最大化? その前に公私混同を止めて欲しい」

聖域を自ら容認するのであれば、その分は差し引いて目標経常利益を設定しなければなりません。

また、過度な節税を行う会社は、目標とする経常利益と実際の経常利益に乖離が生じます。皆さまもお分かりのように、節税にも意図が重要ですので、言っていることとやっていることに乖離が出ている会社の経常利益が最大化するとも思えません。

経営者が有利となるような経費の使い方を優先するのか、節税を優先するのか、経常利益の差大化を優先とするのか…。これらに一番厳しい目線を送るのは、皆さまの会社のスタッフの方々です。

基準はあくまで一つ。

何を最大化するのか?

これが業績不振と“思っている”ことの打開点となるかもしれません。