税務上の「賃貸借契約」とするには?!

「固定資産税の2~3倍の賃料を払っておけば大丈夫!!」

このフレーズを聞いただけで「ピン!」とくる方も多いかと思いますが、この「固定資産税の2~3倍の賃料」で、本当に税務上の賃貸借契約は成立するのでしょうか?

これは、個人所有の土地を同個人の経営する法人等に貸し付ける際に、その賃料を設定するときに巷でよく聞くフレーズなのですが、そもそもこの目的は、主には将来の相続のときには貸宅地(貸付用の土地)として土地の評価額の引き下げ、さらには、その個人の事業用の土地として小規模宅地の評価の減額を受けるなどの、相続対策としてのものが多いかと思います。

先日、お客様からこのようなご質問がありました。

「法人に賃貸している土地に買い替え特例の規定(課税の繰延)の適用を受けたいのですが、私の土地はその適用対象となるでしょうか」

お聞きすると、法人への賃料は、その土地の固定資産税の年額の3.5倍程度、とのことでした。

事業用買い替えの適用資産につては、国税庁のHPでは以下のように記されています。(一部簡略化)
https://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3402.htm

1 事業用資産の買換えの特例における事業用資産の範囲
事業用資産の買換えの特例を受けるためには、売った土地建物等が事業に使われていたもので、また、買換資産も事業に使うことが必要です。この事業には農業、製造業、小売業などの他、事業に準ずるものの用途に使われている土地建物等も特例が受けられる事業用資産となります。

2 事業に準ずるものとは
例えば不動産の貸付けなどの場合で事業といえるほどの規模ではないものの相当の対価を得て継続的に行われるものをいいます。
(1) 相当の対価を得ているかどうかは、不動産の貸付けなどの場合、減価償却費や固定資産税などの必要経費を回収した後において、なお相当の利益が生じているかどうかにより判断します。
(2) 継続的に行われているかどうかについては、原則として、貸付けなどに係る契約の効力が発生した時点の現況において、その貸付けなどが相当期間継続して行われることが予定されていたかどうかにより判定します。
また、対価を一度に受け取りその後全く賃料などの対価を受けていないときは、継続的に対価を得ていることにはなりません。

このように、ポイントは「相当の対価を得て継続的に行われるもの」というところになりますが、今回のテーマである「固定資産税の2~3倍の賃料」は、果たしてこの「相当の対価」と成り得るのでしょうか。

実は、この判断基準の基となったといわれている規定があります。
法人税法では、その第二条において、「収益事業」の定義をさだめていて、政令等において次のように記しています。  

政令で定める事業は、次に掲げる事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)とする。
◎不動産貸付業のうち次に掲げるもの以外のもの
⇒土地の貸付業で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の財務省令で定める要件(当該事業年度の貸付期間に係る収入金額の合計額が、当該貸付けに係る土地に課される固定資産税額及び都市計画税額で当該貸付期間に係るものの合計額に三を乗じて計算した金額以下であること)を満たすもの

言い回しが少し難しいですが、要約すれば「固定資産税の年額の3倍以下の賃料での賃貸は、法人税法上では収益事業とならない」ということになります。すなわち裏を返せば「固定資産税の年額の3倍超であれば収益事業」ということになり、「相当の対価を得た」事業という解釈ができるものと考えられるのです。

先のご相談の例は、個人の所得税の話であり税目は異なりなますが、「固定資産税の2~3倍の賃料を払っておけば大丈夫!!」(厳密には3倍超になりますが・・)という根拠は、実はこの法人税法上の規定によるものと言われています。

この解釈に則れば、先のご相談の「固定資産税の3.5倍」というのは法人税法上の収益事業ということになり、所得税法に置き換えても「相当の対価」としての判断はできるものと考えられます。

その他にも「相当の対価」の基準となりうるものに「通常の地代」というものがあり、
★直前3年間の自用地の相続税評価額の平均額×(1-借地権割合)×6%
で計算することができます。

要は、「底地部分の価格(自用地価格-借地権価格)の平均額の6%相当額」ということになりますが、賃料の設定に関しては説得力のあるものと考えられます。
先の固定資産税の2~3倍(厳密には3倍超)に、この算式の金額を考慮に入れれば、さらに説得力のある「相当の対価」となるものと考えられます。

今回は、お客様のご質問から、「賃貸借契約となりうる賃料」について考えてみました。
法人からの賃料は最低限に抑えつつ、賃貸借によるメリット(評価減や小規模、買い換えなど)を享受したい場合など、ご参考になれば幸いです。