皆さんの会社では、どの程度システムのクラウド化が進んでいらっしゃいますでしょうか。
前回、中小企業の採用は致命的な状態であり、今後もさらに悪化する可能性が高いという内容を書きましたが、人材がいないとなれば、何かで補完する以外方法はありません。そして、補完のための有効な選択肢の一つがシステム化です。そして、今は新しいシステムや既存のシステムが続々とクラウド化しています。
システム化やクラウド化が全て良いという訳ではありませんが、今後は従業員一人当たりの生産性を高めることが至上命題ということを考えると、やはり中小企業も各業務のシステム化及びクラウド化を進めざるを得ないのではないかと考えます。
当社でも、人材不足は“永遠に解消されない”とみなして、近年、各業務のシステム化、そしてそのシステムのクラウド化を急速に進めてきました。
基本的な方針は、「今は困っていなくても、長期的に生産性に影響があるものは全てシステム化、クラウド化を図る。そして全てのシステムを連携させる」というものです。
ということで、今回は、中小企業においても比較的システム化が早いと言われている会計ソフトについて、税理士業界の現状と絡めてお伝えします。
実は、ここ1年半くらいで、クラウド型の会計ソフトへの移行が加速しました。
既にご存知の方も多いかと思いますが、freee(http://www.freee.co.jp/)というクラウドの会計ソフトがリリースされてから、一気にクラウド化が盛り上がりを見せています(もちろん業界的に…)。スマートフォンの対応アプリもリリースされています。ご興味がある方はwebサイトをご確認いただければと思いますが、一番良いところは会計ソフトっぽくないところです。良い意味でも悪い意味でも粗っぽい。専門家からすると使いづらいのですが、それ故に将来性を感じます。
ちなみに、freeeに続けと言わんばかりに、クラウド型の会計ソフトが次々にリリースされていますが、どう考えてもfreeeを模倣しつつ、既存の会計ソフトの枠組みにあてはめ、税理士とのタッグで開発と販促を行っているという印象を拭えません。つまり、いいとこどりを狙っているという感じでしょうか…。
私見ですが、既存の会計ソフトの構造に近くしたり、税理士とのタッグで進められる会計ソフトの問題点は、微妙に税理士側の部分最適が行われる可能性にあります。
税理士事務所の生産性が非常に低いというのは有名な話ですが、税理士事務所の生産性を上げるために、顧客にクラウド会計ソフトを導入していただき、「WIN-WINで行きましょう。そうすれば、税理士報酬が低くなりますよ」という使い方がされています。
さらに、クラウドの会計ソフトなのに税理士事務所が記帳代行の一部として利用するというのもおかしな話です。もちろん、やり方としては“あり”ですが、部分最適の最たるもので、会計ソフトがクラウド化して、企業も税理士も帳簿の入力が便利になる、ただそれだけで会計ソフトをクラウド化するという思考はいかがなものでしょう。税理士事務所がその先に受注したい業務があるのも分かりますが、それにしても…。
それに引き換え、freeeのスタンスは、税理士ともちょっとだけ協力するけど開発に関しては関係ないよ、あくまで企業側の利便性重視で税理士の利便性は考慮しないよというスタンスが貫かれているように感じます(あくまで私の勝手な推測です)。私はこのスタンスが正しいと考えます。
freeeリリース以前にもクラウド型の会計ソフトはありましたが、普及していなかったというのが現実です。それは、クラウド化といえども、既存の会計ソフトと同様の構造のものがインターネット上で使えるだけだったからです。企業側からすれば、それだけのためにわざわざ切り替える必要がありませんでした。
また、中小企業においては、会計ソフトの選択についても税理士が影響力を行使します。TKC(http://www.tkc.jp/)のように、TKC会員の税理士しか扱えない会計ソフトを筆頭に、税理士に扱っていないと言われれば、企業側が使いたい会計ソフトがあっても使えないというケースが多いというのが現実です。
それでも最近は企業側に会計ソフトの選択権も出てきましたが、企業側が選択した会計ソフトが本当に良いのかどうかは別の問題です。そもそも、経営者にとって都合がよい、経理担当者にとって都合がよいというのでは、税理士にとって都合がよいというレベルと変わりません。このような思考での会計ソフトの選択では、他の部分で歪がおきてしまう可能性があります。つまり、そこに関連する人、関連する仕事にムダが生じる可能性があります。
たかが会計ソフト、されど会計ソフト…。
基本的に、全ての企業行動の結果は数字として表現されます。そして、行動の評価の基準となる数字は、会計ソフトに入力されるべき数字となります。会計ソフトをどう考えるかは企業の方針次第ですが、企業が利用するシステムとして絶対外せないものの一つが会計ソフトになります。
そして、各業務とのつながりという意味では、会計ソフトは中心に据えやすいということは間違いありません。主に大企業で導入されているERPと同じ思考です。
例えば、freeeが打ち出している特徴の一つに仕訳の自動化があります。インターネットバンキングやクレジットカードのデータと連動し、明細が自動的に仕訳を計上してくれるというものです。また、請求書機能、給与計算機能、経費精算機能も実装しており、ここで行われたデータも自動で仕訳化されます。
そして、もう一つはスマートフォンやタブレット等のアプリやシステムとの連携です。例えばこれらのシステムに入力された売上データもfreeeに取り込み、仕訳を自動化します。
つまり、極論で言えば、freeeによって、仕訳を入力しなくても会計データが出来上がる環境が整備されつつあるということになります。
仕訳の自動化というレベルでは、あくまで経理の効率化ということにしかつながりません。しかし、会計ソフトを業務のど真ん中に据え、他のシステムとの連携を前提に、横断的にクラウド環境を構築するということはとてもインパクトのある効率化になります。なぜなら、各業務がつながりを持つということは、部分最適が行われにくく、全体最適が図られやすいからです。本当の意味で可視化されるはず。
もちろん、あくまで理屈上の話ですが、小回りと力技が利く中小企業であれば、実現はそれほど難しいものではありません。当社もそれぞれ別のシステムですが、会計ソフトはクラウド型で、預金はもちろん、売上、給与、経費精算は会計ソフトと全て連動させており、仕訳は概ね自動化されています。ですから今は専任の経理担当者はおりません。
現在、freeeの利用者の多くは個人事業主かと思われますが、給与計算、経費精算という機能まで実装してくると、法人利用の拡大も進んでいくはず。
例えば、年商規模で1億円を超えてくると経理担当者が専任でいる中小企業も多くなりますが、経理担当者は既にスタンドアロン型の会計ソフトを使いこなしているため、既存の会計ソフトを捨て、あえてクラウド化する必要があるのかという点がポイントになってきます。
それこそ、会計ソフトの問題よりも、連携させる業務のシステム化を行えるかという方が問題として大きくなってきます。
中小企業でも、システム連携を行っていかないと業務効率が悪くなる年商10億円規模辺りを境目に、システム連携が容易なクラウド型の会計ソフトの導入が進んでいます。その場合は、freeeのようなオープンなクラウド型ではなく、アクセスが制限される環境でのクラウド型となります(例えばhttp://www.tkc.jp/fx4/)。
繰り返しますが、会計ソフトのクラウド化の最大の利点は、クラウド化・仕訳の自動化よりも、他の業務ソフトとの横断的な連携の可能性と、それに伴い各現場での人員を最小限に抑え、生産性を上げることにあります。
従って、会計ソフトはクラウドが最善なんてことはなく、連携が可能であればスタンドアロン型でも何も問題はありません。ただし、将来的にはクラウド型の方が連携させやすいのは間違いありません。
当社でも、システム間連携を進めるにあたって、一部スタッフには「システム化する方が時間が掛かる。手でやった方が早い」と何度も言われてきました。
ですが、「いま、あなたがやっている仕事はいずれなくなる。いずれなくなるなら今からなくした方が良いし、あなたが一生この仕事をやる訳ではない。それならシステムで自動化しておけば、引き継ぐ必要もない」と言い放って、半ば強引にシステム化を進めてきました。もちろん、上手くいかないこともあります。
今後、人が足りなくなるということを前提にした場合、限られた労働力を振り向ける先を集中させる必要があります。人がやると生産性が低い仕事は全てシステム化し、人でないとできないところに戦力を集中させなければ、中小企業など吹き飛んでしまいます。
これは、分断されている各業務、各スタッフの仕事を、システム化、クラウド化することによって横断的に連携させ、各業務のみ各スタッフのみで行われていた部分最適を、全体最適に替えるためです。各業務を連携させることによって、各業務、各スタッフの問題点も浮かび上がるというメリットもあります。
そういう意味で、freeeのコンセプトは、中小企業にとって生産性向上のためのお手本となるものと考えます。もちろん、年商数千万円クラスの小規模事業者以外が、いきなりfreeeに移行するというのは、現時点では無謀というのは付け加えておきます。
当社は業務上、たくさんの中小企業の現場を見ておりますが、横断的なシステム連携を行っているところはトコトン行っておりますし、行っていないところは全くと言っていいほど手を付けていません。
これは、ある一面では、常に全体最適で会社を運営していこうとしているか否かの分かれ目にもつながります。もし、まだこのような思考で生産性向上を模索されていないのであれば、一度検討していただくのもよいかと考えます。