平成25年から税務調査の際に、調査官が「必要がある」と判断した場合に作成される『質問応答記録書』について、税務職員用の「質問応答記録書作成の手引」の一端が明らかになりました。
この書類は税務調査において必要がある場合に、納税者の理解と協力を得て作成するものであり、その作成趣旨については「調査において聴取した事項のうち重要なものについて、事実関係の正確性を期すために、その要旨を調査担当者と納税義務者等の質問応答形式等で作成するものである。」としています。
文面的には、なんだか、もっともらしく聞こえますが、課税庁側が本当に意図するところはズバリ「課税するための客観的な証拠資料がない場合に、証拠を作る。」ことにあります。このことを理解せずに安易に協力してしまうと、それが原因で、みなさんにとって思いがけない、不利益な結果を招くことになりかねません。
では、この『質問応答記録書』の作成に応ずるべきか否かの判断ポイントはどこにあるのでしょうか。
もし調査官が作成する『質問応答記録書』の内容が事実であり、指摘事項について素直に修正申告に応じるつもりであれば、指摘事項に係る『質問応答記録書』の作成には応じた方が、調査がスムーズに進み、早く終了すると予測出来ます。税務調査対応が長引けば、事業に支障を来しかねません。内容が納得のいくものであれば、作成に応じて、早くけりをつけてしまったほうが得策と言えるかもしれません。
しかし、問題は課税庁側の指摘事項について、みなさんが十分に納得していない場合です。
繰り返しになりますが、この書類を作成する課税庁側の本当の目的は、例えば『調査時に納税者から得た回答などにより重加算税の対象となり得るような事案が発覚したが、客観的な証拠資料がない。』といったような場合に、その内容を記し、納税者からの署名・押印を得ることで、これを証拠資料として課税しようとすることにあります。
指摘事項に納得していないのであれば、みなさんにとって『質問応答記録書』の作成に応じるメリットは何一つありません。それどころか、指摘事項に納得しておらず、どう主張すればよいのか、頭の中の整理もついていない段階でこれに応じることは、後々、みなさんにとって不利な証拠として残るかもしれず、大きなデメリットになり得ると言えます。
この書類はあくまで、納税者の理解と協力を得て、調査官が作成するものであり、みなさんが協力するか否かは任意です。
「私は、今回の指摘事項に現段階では納得ができていません。それに、今はまだ、私の主張も十分に検討も整理もできていませんので、今この場で『質問応答記録書』の作成に応ずることはできません。」
もしも指摘事項に納得していない段階で『質問応答記録書』の作成への協力が求められたのであれば、このように、応じることができない理由をはっきりと伝えましょう。
『質問応答記録書』は完成後に後日、納税者が訂正・変更の申立てをしても、いったん完成した『質問応答記録書』の訂正、変更等はできず、訂正、変更等の主張については新しい『質問応答記録書』を作成することによって対応することとされています。
つまり、一度完成した『質問応答記録書』は内容に誤りがあったとしても、削除されることはないのです。
税務署の指摘に対して、十分に納得ができていない時点で、安易に『質問応答記録書』の作成、署名・押印に応じるようなことがないように注意しなければなりません。