消費税の増税のインパクトにかき消されて、意外に注目されていないようですが、「消費税の簡易課税についての改正」が行われ、増税となっているのをご存知ですか?
消費税額の計算方法には原則的な課税方式のほか、課税売上高が5,000万円以下の比較的小規模な事業者の場合には、この「簡易課税方式」という計算方式の適用が、その選択により認められています。
この度の改正で、H27年4月1日以後に開始する事業年度から、一定の業種については実質増税されることになりました。
国税庁「消費税法令の改正等のお知らせ」より
結論から言えば、上記のように、「金融及び保険業」がこれまでの第四種から第五種へ、「不動産業」が第五種から新設の第六種へ改正されることになり、結果として、みなし仕入れ率の減少による実質的な増税となります。
したがって、これらの業種に該当し既に簡易課税の適用を受けている方や、これから適用の検討をされる方は、その見直しが必要になってきます。
さらに、この改正に伴い経過措置も設けられています。
国税庁「消費税法令の改正等のお知らせ」より
上記の様に、平成26年9月30日までに、新たに「簡易課税選択届出書」を提出した場合には、その後の二年間は改正前のみなし仕入れ率が適用され、増税による負担を回避することができます。
本来の届出の期限は、適用したい事業年度の開始の日の前日・・すなわちその前の期の最終日までに届け出ればよいことになっていますので、上記の例で言えば、H27年3月31日までに届け出れば簡易課税が適用できることになっています。
しかし、この経過措置による特例を受けるには、平成26年9月30日までに新たに提出する必要がありますので注意が必要です。
あなたの会社は該当しそうでしょうか。
是非、適用の可否とその有利判定をおこなってみてください。
今回の改正の背景には、会計検査院の報告書によりますと、サンプル抽出した法人を対象に、業種によって設定していたみなし仕入れ率と本則課税の場合の実際の課税仕入れ率の差異の集計を行ったところ、特に第五種の業種については、大きな開差が顕著な状況となっているという状況があったようです。
また一方では、簡易課税の適用により計算された税額が、本則課税で計算された税額より少ない場合には、本来は国庫に入るべき税金が「益税」として国民の手に残ることとなるので問題である、とする指摘も以前からあったのも事実です。
本則課税しか適用できない会社からみれば、簡易課税により事務負担の軽減がなされ、さらに益税も手に出来るとなれば、その不公平さには疑問を持ってもおかしくありません。
そもそも、簡易課税方式は、中小企業の事務負担の簡素化のためであり、決して納税額を少なく済むように設定されたものではないのです。
しかし、本来は全体から見れば決してよろしくない益税ですが、経過措置の適用により恩恵を受けられる場合には、これを受けない手はありません。。。
今後、その他の業種についても、みなし仕入れ率との乖離を是正する改正は必ず行われると考えています。
今後のさらなる公平な税制の確立の期待をしつつ。。。
御社でも適用の可否等、見直しをされてみてはいかがでしょうか。
月: 2014年9月
ちょっと待って!税務署の本当の意図、ご存知ですか?
平成25年から税務調査の際に、調査官が「必要がある」と判断した場合に作成される『質問応答記録書』について、税務職員用の「質問応答記録書作成の手引」の一端が明らかになりました。
この書類は税務調査において必要がある場合に、納税者の理解と協力を得て作成するものであり、その作成趣旨については「調査において聴取した事項のうち重要なものについて、事実関係の正確性を期すために、その要旨を調査担当者と納税義務者等の質問応答形式等で作成するものである。」としています。
文面的には、なんだか、もっともらしく聞こえますが、課税庁側が本当に意図するところはズバリ「課税するための客観的な証拠資料がない場合に、証拠を作る。」ことにあります。このことを理解せずに安易に協力してしまうと、それが原因で、みなさんにとって思いがけない、不利益な結果を招くことになりかねません。
では、この『質問応答記録書』の作成に応ずるべきか否かの判断ポイントはどこにあるのでしょうか。
もし調査官が作成する『質問応答記録書』の内容が事実であり、指摘事項について素直に修正申告に応じるつもりであれば、指摘事項に係る『質問応答記録書』の作成には応じた方が、調査がスムーズに進み、早く終了すると予測出来ます。税務調査対応が長引けば、事業に支障を来しかねません。内容が納得のいくものであれば、作成に応じて、早くけりをつけてしまったほうが得策と言えるかもしれません。
しかし、問題は課税庁側の指摘事項について、みなさんが十分に納得していない場合です。
繰り返しになりますが、この書類を作成する課税庁側の本当の目的は、例えば『調査時に納税者から得た回答などにより重加算税の対象となり得るような事案が発覚したが、客観的な証拠資料がない。』といったような場合に、その内容を記し、納税者からの署名・押印を得ることで、これを証拠資料として課税しようとすることにあります。
指摘事項に納得していないのであれば、みなさんにとって『質問応答記録書』の作成に応じるメリットは何一つありません。それどころか、指摘事項に納得しておらず、どう主張すればよいのか、頭の中の整理もついていない段階でこれに応じることは、後々、みなさんにとって不利な証拠として残るかもしれず、大きなデメリットになり得ると言えます。
この書類はあくまで、納税者の理解と協力を得て、調査官が作成するものであり、みなさんが協力するか否かは任意です。
「私は、今回の指摘事項に現段階では納得ができていません。それに、今はまだ、私の主張も十分に検討も整理もできていませんので、今この場で『質問応答記録書』の作成に応ずることはできません。」
もしも指摘事項に納得していない段階で『質問応答記録書』の作成への協力が求められたのであれば、このように、応じることができない理由をはっきりと伝えましょう。
『質問応答記録書』は完成後に後日、納税者が訂正・変更の申立てをしても、いったん完成した『質問応答記録書』の訂正、変更等はできず、訂正、変更等の主張については新しい『質問応答記録書』を作成することによって対応することとされています。
つまり、一度完成した『質問応答記録書』は内容に誤りがあったとしても、削除されることはないのです。
税務署の指摘に対して、十分に納得ができていない時点で、安易に『質問応答記録書』の作成、署名・押印に応じるようなことがないように注意しなければなりません。
新たなる選択に備えて ~『103万の壁』の崩壊は何を変えるのか?~
いよいよ『配偶者控除の撤廃』をめぐる議論が本格化してきました。
この国の税金の行方を決める、『税制調査会』では、現在、専門の検討委員会をもうけて配偶者控除存続の是非を話し合っています。
現行制度は配偶者の就労の中立性を阻害している等の理由から、長年に渡って検討事項にあげられていましたが、高齢化に伴う生産年齢人口の減少、課税ベースの見直し、ダブルインカムの拡大による税収確保等の必要性から見直しに向けた議論が本格化しています。
男女を問わず、扶養親族になっている配偶者の年収が103万円以上となると、年38万円の所得控除ができなくなります。
所得税の最低税率5%と住民税の税率10%の計15%が最低税率だとすると。税額に対する影響は最低で5万7千円となります。
この控除額を巡っての給与収入の上限がいわゆる『103万円の壁』と言われているものです。
103万円の壁を超えることによる影響は税金だけではありません。
税金上の扶養親族となっていることを要件として基本給に上乗せで『配偶者手当』を支給している企業も多いことから、年収が103万円を超えた場合の影響額は10万円を超えることも少なくありません。
そのために、パート社員の中には、年末にかけて103万円を超えないように就労調整をする者がいるため、業務に支障が生ずることもあります。
そこで、政府では103万円の壁を超えて収入を得ても、控除額が変わらないようにすることを検討している訳ですが、これは税金の計算上の話だけなので、配偶者手当の問題は企業毎に解決していかなければならない課題です。
さらに問題は続きます。
103万円の壁の向こうには『130万円の壁』というものが存在しています。
夫もしくは妻が会社で社会保険に加入しており、その配偶者のパート収入が年130万円未満である場合には、保険料を支払わずに、その配偶者は国民健康保険、国民年金に加入できる『3号被保険者』という制度があります。
この3号被保険者についても度々制度の改正が騒がれているところですが、今回の検討会では議論の対象とはなっておりません。
130万円を超えて収入を得た場合には、それまで支払っていなかった国民健康保険と国民年金の支払義務が新たに生ずることから、収入が130万円未満だったときの差引手取り額を維持するためには、大幅な収入増をしなければならないこととなります。
具体的な収入金額のシミュレーションは以下のとおりです。
見ていただいてお分かりのとおり、以前の収入を維持するためには、最低でも約160万円以上の年収が必要となり、これを仮に時給800円、週休2日でで計算した場合には、一日あたりの労働時間が8時間を超えることになります。
これだけ働いて、やっと130万円未満のときと同じ手取り額を維持できるだけですので、手取り額を増やしたいと思うのであれば、さらなる労働が必要ということです。
ここまでのお話を聞いていただいてお気づきになられた方もいらっしゃるかもしれませんが、1日8時間を超える労働が必要になるということは、正社員と同じく、社会保険の被保険者に該当してくることになります。
社会保険に加入した場合には、健康保険料と厚生年金保険料を支払うこととなりますが、国民健康保険、国民年金と異なり、保険料の半分を企業が負担してくれることとなります。
この場合には、収支を維持するための分岐点は国民健康保険、国民年金の場合と比べると低くなります。
しかし、保険料の半分を企業が負担していることを考えれば、企業にとっては給料を増やしたこととかわりませんので、将来に向かっての昇給に少なからず影響をしてくることは容易に想像がつきます。
ただし、従業員の立場から見た場合には、国民年金よりも給付額が大きい厚生年金に加入してもらっているということで、将来の年金給付に期待をする方もいらっしゃると思います。
このように、年収を変えることで税金だけではなく、保険制度の適用関係にも影響を与えるため、その選択にあたっては十分なシミュレーションが必要となりますが、この話の主人公が『オーナー社長の奥様』である場合には、話はさらに複雑になってきます。
今までの話に加え、給与、社会保険料会社負担分の増加にともない会社の利益は減少することから、法人税等の節税効果が期待できます。
オーナー経営者の奥様の場合には、増える税金と減る税金の両方を考慮したうえで決定をする必要があります。
この点について、弊社岡本の著書『長く稼ぐ会社だけがやっている「あたりまえ」の経営』に詳しく説明がされていますのでご参考にしてください。
税理士、あるいは担当者の見極め方 ~ある視点~
自社の税理士を見極める基準につき、何よりも優先されるべきはコミュニケーションが円滑に取れるかどうかという点であることは、皆さまもお気付きのことと思います。
ただし、これは、あくまでも税理士を自社の又は経営者のパートナーとして考える場合に限られてきます。
「税理士にそこまで求めていない。申告を正確にやってもらえれば十分」
という場合には、実務能力を重視すべきであり、無理に税理士とのコミュニケーションの円滑さを求める必要はありません。
ここで、税理士であれば実務能力に差は生じないだろうとお考えの方がいたら、それは大きな間違いです。それこそ、例えればレベル1から10まで差がありますし、税理士という有資格者よりも、無資格者の担当者の方が実務能力が高いことも一般的にあり得ます。
コミュニケーションが円滑に取れるか否かは、皆さま自身がすぐにお気づきのことでしょう。しかし、実務能力については、よほどひどい仕事をする税理士を除き、“何か”問題が起こるまでは気付かないことの方が多いと言えます。
この、“何か”として一番頻度の高いのは税務調査ですが、税理士も税務調査がきっかけで解約にまで発展するケースが多いという事実を知っています。従って、近年は税理士自身が“税務調査対策”に力を入れるという変わった現象も起きています。
このように“何か”が起きない限り、皆さまには税理士の実務能力を見極めることが困難であるというのが現実でしょう(これを簡単にお伝えすることもできないのでご容赦を…)。
私は、税理士を替えたいとご連絡をいただいた際など、決算書や確定申告書のみならず、帳簿書類一式を確認させていただくこともありますが、顧問税理士が正確な書類を作成している場合は、その旨をお客様にお伝えするようにしております。
「書類を確認させていただくと、今の税理士様は、誠実なお仕事をされていると考えられます。どこにご不満がございますか?」
と来れば、当然ながら、パートナーとして物足りないというお話が出てきます。
もちろん、パートナーとしての資質(あえて能力とは言いません)、かつ、実務能力の両方を兼ね備えているのが理想ですが、現実的にそのような税理士は滅多におりません。
また、仮にパートナーとしての資質を兼ね備えていたとしても、相性の問題もあります。どんなに優秀な税理士でも、あらゆるタイプの経営者と“馬が合う”などあり得ません。
この点、一人で仕事をしている税理士は別として、ある程度のスタッフがいる税理士事務所では、お客様の担当を誰にするかを検討する際、その難易度や規模を基準に決めるのが一般的です。相性という視点で担当を決められることは数少ないと言えます。
当然ですが、難易度が高く、規模が大きいお客様には、ベテラン・中堅スタッフを中心に担当者を据え、難易度が低く、規模が小さいお客様には、そこそこのスタッフ又は新人スタッフを担当に据えることが多くなります。
これは、どんなに優秀な担当者でも、担当できるお客様の数に限度があるため、税理士事務所の経営を考えると、致し方ない面もある…とここでは言っておきます。
しかし、お客様からすると、この基準こそが「新人スタッフなんかを担当につけて、ふざけるな!」と言いたくなる元凶となっております。
とはいえ、優秀と言われる担当者と全てのお客様の相性が良いかどうかは別問題です。いきなり、新人のスタッフが、手強い経営者に気に入られることなども実際にありますので。
さらに、こうなってきたときによく起こるのが、優秀な(あるいは相性が合う)担当者が独立又は移籍する際に、お客様もその担当者に付いていってしまうことです。
これは事務所側からすると、非常に頭が痛い問題であり、税理士業界の永遠の課題と言っても過言ではありません。
お客様からすると、今まで問題がなかった担当者が辞めて、能力的に疑わしい担当者が付いてしまうくらいなら、辞める担当者に付いて行ってしまおうというのは当然のことです。
このような場合、お客様を奪っていった担当者が責められがちですが、本質的には事務所側の管理運営の問題です。
ただし、辞める担当者に付いて行く企業側には注意しなければならない点があります。
まず、担当者が独立した場合ですが、この税理士が勤め人であるときと、自ら事務所を構えたときでは“言うこと”、“対応方法”が変わる場合も見受けられるということです。
例えば、勤め人であったときにはそれほどうるさいことを言わなかったにもかかわらず、独立してからは、やたら専門用語を使うようになったり、慎重姿勢を取るようになったりするケースが増えるということです。
ある意味これは当然で、勤め人であったときは自ら最終責任を負う立場ではなかったため、積極的な提案が可能であったが、自分が最終責任を負う立場になると、無意識にリスク回避傾向が生じてくるため、以前よりも消極的な提案が増えるケースが見受けられます。
「そのようなことはない!」
と、独立したての税理士に怒られそうですが、あくまで私の経験則に基づいたお話です。そもそも、独立したら専門用語が増えるのは、自己防衛の現れですから、企業側はその税理士の対応の変化に注意しておく必要があります。
また、税理士事務所の移籍に伴って、その担当者に付いて行く場合は、さらに注意が必要です。そもそも税理士事務所ごとにやり方も異なりますし、報酬基準もバラバラです。最初は今までどおりが認められていても、徐々に移籍先の事務所方針に従うよう求められるケースがあります。
もちろん、せっかく馬が合う担当に付いて行ったのに、担当自体が変更することもありますので、注意が必要です。
このような問題は、税理士事務所側が、担当者に任せきりではなく、事務所全体でお客様をフォローする体制を採り、お客様に安心感を与えることが必要なのは言うまでもありません。
そして、企業側も担当者だけではなく、所長税理士又は幹部クラスともコミュニケーションを取り、「今の担当者が辞めたとしても、よろしくお願いしますよ」程度は牽制しておくというのも方法の一つです。
最後になりますが、近年は税理士も相見積もりが当然となってきましたので、コストを基準に税理士を選ぶ企業も増えてきました。
当然、コストで選ぶのは悪くありません。税理士だけが例外ではないのですから。ただし、
良い専門家に頼むには、相応のコストを覚悟しなければならないというのは、税理士に限らず、何事に対しても共通です。
以上、今までにもお伝えしてきたものもありますが、少し角度を変えて、税理士の見極め方をお伝えしてきました。
普段は頼りない税理士も、“何か”があったときには、最優先で自社の味方になってくれるのであれば、それは頼りがいがある税理士と言ってもよいでしょう。
自分を守らず、お客様を守ってくれる税理士…。
このような税理士に出会えたら、皆さまも一安心ですね。