「え!?贈与税がかからないのって年間110万円までなんですよね!?」
それはそうなのですが、実はそれ、そもそも「贈与」ではないんです。だから110万円に縛られる必要ないんですよ・・・
孫や子に贈る1人当たり1500万円までの教育資金について、贈与税が期間限定で非課税になる制度が、昨年4月から始まっていることはご存知の方が多いと思います。この制度が始まって以降、贈与について質問をいただく機会が増えていますので、皆さんの関心が高いことがわかります。
この制度、いわゆる“富裕層”にとっては複数のお孫さんに1500万円ずつ教育資金を贈与するなどすれば相続財産を一気に減少させることができるので、いくつか注意すべき点があるものの、基本的に有効な手段である場合が多いでしょう。
しかし、“準富裕層”とも言うべき比較的豊かな生活を送っている中流層の方々にとっては、この制度の利用にあたっては十分な検討が必要です。
なぜなら、これから始まる相続税増税の影響を心配して、教育資金の贈与税が非課税になる商品を使用して贈与をしたことによって、結果として自分自身の老後資金が不足気味になってしまうケースが少なくないからです。
そこには贈与税についての、ちょっとした理解不足があることも1つの要因です。贈与税を正しく理解すれば、教育資金贈与の非課税制度を使わなくても、可愛いお孫さんの教育を助け、手元の老後資金を確保しつつ、相続財産を無理なく減らしていくことが可能です。
前置きが長くなりましたが、今回は“贈与と扶養義務”についてのお話です。
贈与税については年間110万円までの基礎控除があり、贈与税がかからないことは、皆さんご存知の通りです。しかし、子供や孫にまとまったお金を渡しても、そもそも贈与にならない、つまり贈与でない以上、110万円に縛られる必要がない。そんな財産の渡し方があるのです。
親子や祖父母・孫といった親族間には、お互いに助け合う“扶養義務”があります。扶養義務とは言い換えれば生活の面倒を見る義務です。つまり、親が子供の生活費や教育費を負担しても、それは生活の面倒を見ているのであり“贈与”ではありません。同じように祖父母が孫の教育費を出しても扶養と見なされるのです。
例えば大学に進学した場合、初年度にかかる費用は入学金などもありますので贈与税の基礎控除額110万円を上回ることが多いでしょう。しかし前述したとおり、これを祖父母が負担したとしても、扶養義務による負担であり、そもそも贈与にはなりませんので、もちろん贈与税はかからないのです。ただし、大学4年分の学費をまとめて先渡しすれば、初年度の費用を除いて手元に貯蓄として残りますので、贈与と見なされてしまいますので注意が必要です。必要な金額を必要な時にその都度渡し、もらった側は使い切るのが鉄則なのです。
贈与にならない教育費は、塾代や教材費、部活や習い事など学校の授業料以外でも問題ありません。ただし、贈与に当らない生活費については通常必要と認められるものに限られますので、車などのぜいたく品は贈与と見なされます。
このように、扶養義務に着目して、お孫さんの生活費や教育費を必要な都度、必要な金額を援助してあげることによって、徐々にではありますが財産を減らしていくことができます。繰り返しになりますが、これは扶養義務による負担であり、贈与ではありませんので、年間110万円の基礎控除枠に縛られることもありません。またその都度、援助するかしないか、するのであれば、いくら援助するかについて検討・判断することができますので、自分自身の老後資金が不足するまで必要以上に財産を渡し過ぎてしまう危険性は無くなります。
納税者にとって魅力的に見える税制であっても、必ずしも自分自身に合った制度であるとは限りません。正しい知識と冷静な判断で、みなさんの財産を守りましょう。