消費税増税による損得と納税の資金繰り!?

消費税の増税が始まりました。
お金の動きを日々経理されている会社さんでは、すでに8%での経理処理がはじまっていることでしょう。
増税の始まる直前の2月~3月には、お客様からは「消費税が5%の今のうちに、仕入れを沢山しておいたほうが得ですか?」というご質問をよく受けました。
みなさんもご承知のとおり、答えは「NO」です。
消費税は、所詮は国へ収める預かり金の収支ですので、結果的には支払う時点が違うだけ(仕入れで抑えられた消費税相当額は、後に納税で出ていきます)であり、損得はありません。
損得があるとすれば、消費税の納税義務がない事業者か、簡易課税方式という納付方法を選択している事業者さんだけでしょう。
もうひとつ、よくご質問のあるのが、【増税による納付額の増大と資金繰り】です。
消費税が5%から8%に上がるので当然に納税額は増えることになります。当り前ですが、理論上は1.6倍の納税が必要、ということになります。
では、次の決算時には昨年の決算期の1.6倍の納税資金が必要なのでしょうか。
決算期の1事業年度の間に、5%の税率と8%の税率が混在している場合や、5%であった事業年度にかかる消費税の「中間納付」をされている場合などでは、答えは「NO」です。
中間納付額は前年度の消費税の納付額をベースに(年1回の中間納付の場合には)、その1/2が納付額として計算されます。従って、決算時に必要な納税額は前期の単なる1.6倍にならないということになります。

毎年の業績が同じであると仮定しても、上記のように思わぬ納税額となることが考えられます。
★資金繰り対策
(1)任意の中間申告制度
このような、納税者の資金繰りを圧迫し納付の滞納が懸念されることから、本来は中間納付の必要のない消費税の納付額の少額の事業者でも、任意で中間納付することで、決算時の資金繰りを緩和させる制度が創設されました。
税務署へ一定の届出書を提出することで、自主的に半期の中間納付ができるようになります。法人についてはH26.4.1以後の開始事業年度から、個人事業者はH27年分から適用できます。
(2)定期積金などの利用
非常にベタな方法ですが、納付見込額を毎月自動的に定期に積み立ててしまう方法があります。地味ですが効果は大きいものと考えます。
★損得と資金繰り
このように、増税による資金繰りは、特に改正直後の決算時には、想像以上に大きなインパクトになる可能性があります。
また、本来の資金繰りで言えば、適正に増税による転嫁がなされれば、理論上は資金繰りに影響はないという論点は存在します。
しかし、本来は預かりである消費税も運転資金として廻っているというのが、ほとんどの中小企業の実態です。
増税分を売上に転嫁できなくては、そこには間違いなく増税分を自己負担する【損】が発生します。さらに、前述の納税の資金繰りがやってきます。
そこで消費税の適正な転嫁、あるいは価格の見直し、そして、納税資金のための準備、この3つについて、早めの準備を行い増税の影響を乗り切っていただきたいと考えています。
この4月以降からでも、決して手遅れではありません。

税理士吠える!?

私のところに来られた相談者から聞いた話によれば、
「そんなことしたらスゴイ税金になるぞ!!」
税理士はそう言って吠えたのだそうです。
いったい税理士と相談者の間に何があったのでしょうか?
皆さんは『名義株』という言葉をご存じでしょうか?
言葉はご存じなくとも、字を見ていただければ、何のことかはおおよその察しがつくと思います。
その昔、株式会社の設立には7人の発起人(株主)が必要な時代がありました。
7人集まらなければ会社が作れなかったのです。
しかし、本当にお金をだすのは、オーナー社長だけで、あとは、親戚や知合いの名前を借りて、株主名簿に名前だけを載せておくということをしていた時代があるのです。
それによって生まれたのが『名義株』であり、名義株主です。
その他にも節税が温床となって、うまれた名義株もあります。
節税の世界にもトレンドがあります。
今では信じられないことですが、その昔、相続対策のとして『株式の分散』が勧められていた時代がありました。
これによって、実際には売買等が行われた事実がないにもかかわらず、株主名簿だけを書き換えるということが行われたのです。
ところが、最近では、中小企業の株式対策についてのトレンドは『分散から集中へ』です。
従来は何の問題視もされていなかった名義株ですが、会社法の改正以後、その存在が重要視されるようになり、一時は『モノ言う株主』という言葉も聞かれるようになりました。
つまり、会社経営は『税法』でするのではなく『会社法』で行うのだということです。
それでは、今まで重要視されてこなかった名義株が問題となってくるのはどういうときなのでしょうか?
それは、会社が儲かってきたときや、事業承継を意識したときです。
当初は一株数万円だった株価が、数十倍になっていることも珍しくありません。
そこで、本来の名義人である経営者は、名義株の名義を自分自身に戻そうということを考えるのですが、それに、今回の税理士が吠えたという訳です。
「そんなことをしたら贈与だから贈与税がかかる!」というのです。
つまり、税務上は、お金のやり取りがなく、株の名義変更が行われたときは、原則としてこれらの行為は贈与として取り扱われ、贈与税の認定がされるというのです。
しかし、これは名義株でない株の名義変更が行われた場合の話です。
名義株の名義変更は、『真正な名義回復』のための行為です。
そのためには、株式の真実の所有者が名義人以外の者であったことを証明することが必要です。
名義株の事実を証明するためのポイントは次の通りです。
・出資をした事実が、通帳等で判明するか。
・(株券を発行している場合)株券は誰が保管しているか。
・(配当が行われている場合)配当は誰が受取っているか。
・(配当が行われている場合)税務署に誰の名前で報告しているか。
・名義株主は株主であることの認識があるか。
・名義株主に株主総会の通知を出しているか。また、総会に出席していたか。
以上は、すべて状況証拠であり、間接証拠に過ぎません。
上記を裏付ける強力な証拠は、名義株主として登録されている本人から、『私は株主ではありません。』という“直接証拠”をとることです。
もちろん口頭ではなく、書面で残る証拠をとらなくてはいけません。
そのためにもっとも重要なことをいいます。
“死人に口なし”という状態になる前に、当事者が生きているうちに名義変更をしてしまうということです。
卑近な事例をお話いたします。
私の祖父が亡くなったとき、金庫の中にあった遺品の整理をしていると、地元では名前の知れた建設会社の決算書がでてきました。
決算書を見るとかなりの内部留保があり、株価もそこそこであることはすぐにわかりました。
すぐにその会社に連絡をとり、株主名簿に祖父の記載があるかの問い合わせをしました。
回答はすぐにあり、株主として記載されていることと、株数がわかりました。
ここでポイントになってくるのが、祖父が亡くなった今、この株が名義株なのか、それとも本当に祖父が出資したものなのかが、相続人にはわからないということです。
その後、相続による名義変更を申し出るとともに、変更後の株主名簿を送ってもらいました。
そこの社長さんからは、その後、何度か「株式を買い取らせていただきます。」という連絡をいただきましたが、その都度、「祖父から引き継いだものですので、大切に持たせていただきます・・」とご遠慮させていただいております。(笑)
皆さんの会社に将来問題となりそうな株主はいませんか?
株主が親族ばかりであれば安心ということは決してありません。
親族だからこそおこる問題もあります。
もしかしたらという目で、一度株主の点検をしてみてください。

それ、贈与ではありません。

「え!?贈与税がかからないのって年間110万円までなんですよね!?」
それはそうなのですが、実はそれ、そもそも「贈与」ではないんです。だから110万円に縛られる必要ないんですよ・・・
孫や子に贈る1人当たり1500万円までの教育資金について、贈与税が期間限定で非課税になる制度が、昨年4月から始まっていることはご存知の方が多いと思います。この制度が始まって以降、贈与について質問をいただく機会が増えていますので、皆さんの関心が高いことがわかります。
この制度、いわゆる“富裕層”にとっては複数のお孫さんに1500万円ずつ教育資金を贈与するなどすれば相続財産を一気に減少させることができるので、いくつか注意すべき点があるものの、基本的に有効な手段である場合が多いでしょう。
しかし、“準富裕層”とも言うべき比較的豊かな生活を送っている中流層の方々にとっては、この制度の利用にあたっては十分な検討が必要です。
なぜなら、これから始まる相続税増税の影響を心配して、教育資金の贈与税が非課税になる商品を使用して贈与をしたことによって、結果として自分自身の老後資金が不足気味になってしまうケースが少なくないからです。
そこには贈与税についての、ちょっとした理解不足があることも1つの要因です。贈与税を正しく理解すれば、教育資金贈与の非課税制度を使わなくても、可愛いお孫さんの教育を助け、手元の老後資金を確保しつつ、相続財産を無理なく減らしていくことが可能です。
前置きが長くなりましたが、今回は“贈与と扶養義務”についてのお話です。
贈与税については年間110万円までの基礎控除があり、贈与税がかからないことは、皆さんご存知の通りです。しかし、子供や孫にまとまったお金を渡しても、そもそも贈与にならない、つまり贈与でない以上、110万円に縛られる必要がない。そんな財産の渡し方があるのです。
親子や祖父母・孫といった親族間には、お互いに助け合う“扶養義務”があります。扶養義務とは言い換えれば生活の面倒を見る義務です。つまり、親が子供の生活費や教育費を負担しても、それは生活の面倒を見ているのであり“贈与”ではありません。同じように祖父母が孫の教育費を出しても扶養と見なされるのです。
例えば大学に進学した場合、初年度にかかる費用は入学金などもありますので贈与税の基礎控除額110万円を上回ることが多いでしょう。しかし前述したとおり、これを祖父母が負担したとしても、扶養義務による負担であり、そもそも贈与にはなりませんので、もちろん贈与税はかからないのです。ただし、大学4年分の学費をまとめて先渡しすれば、初年度の費用を除いて手元に貯蓄として残りますので、贈与と見なされてしまいますので注意が必要です。必要な金額を必要な時にその都度渡し、もらった側は使い切るのが鉄則なのです。
贈与にならない教育費は、塾代や教材費、部活や習い事など学校の授業料以外でも問題ありません。ただし、贈与に当らない生活費については通常必要と認められるものに限られますので、車などのぜいたく品は贈与と見なされます。
このように、扶養義務に着目して、お孫さんの生活費や教育費を必要な都度、必要な金額を援助してあげることによって、徐々にではありますが財産を減らしていくことができます。繰り返しになりますが、これは扶養義務による負担であり、贈与ではありませんので、年間110万円の基礎控除枠に縛られることもありません。またその都度、援助するかしないか、するのであれば、いくら援助するかについて検討・判断することができますので、自分自身の老後資金が不足するまで必要以上に財産を渡し過ぎてしまう危険性は無くなります。
納税者にとって魅力的に見える税制であっても、必ずしも自分自身に合った制度であるとは限りません。正しい知識と冷静な判断で、みなさんの財産を守りましょう。

起業大国、ニッポン!

日本は起業大国を目指すのだそうです。
先月、中小企業庁から2014年版『中小企業白書』が公表されました。
注目すべき程のものではありませんが、国が中小企業の現状と今後についてどのように考えているのか、参考になる場合もあります。
*ご興味のある方はこちらまで>>
その中で、国は起業“希望者”が急激に減少していることを憂い、開業率が低い理由として以下の3つの課題を伝えています。
1.起業意識
「教育制度が十分ではない」、「安定的な雇用を求める意識高い」、「起業を職業として認識しない」
2.起業後の生活・収入の不安定化
「生活が不安定になる不安」、「セーフティーネットがない」、「再就職が難しい」
3.起業に伴うコストや手続き
「起業に要する金銭的コストが高い」、「起業にかかる手続きが煩雑」
そして、「起業大国」に向けた3つの課題の対応策として以下を提言しています。
【課題1】起業意識の変革
対応策1 ⇒ 起業家教育
対応策2 ⇒ 起業に対する社会的評価の改革
【課題2】起業後の生活・収入の安定化
対応策1 ⇒ 起業のセーフティーネット
(1) 経営者保証のガイドラインの見直し
(2)小規模企業共済制度
(3)起業後の収入の安定化(失業保険)
対応策2 ⇒ 兼業・副業の促進
【課題3】起業に伴うコストや手続きの低減
対応策1 ⇒ 誰もが起業家応援社会の構築
対応策2 ⇒ 起業することでメリットのある仕組み
対応策3 ⇒ 起業に関する相談体制の拡充
実際に起業してきた皆さんは、これらの対応策を目にされて、どのように感じますでしょうか?
私個人的には、リスクが低ければ起業するという考え方は、ものすごく違和感があります。
そもそも、このようにリスクを低くしたとして、起業後に一体どれだけの方が食べていけるようになるのでしょうか?
しかも、ご丁寧に兼業・副業のアンケートまで採り、

(2014年版『中小企業白書』19頁)

フランスでは、近年これほどまでに起業数が増えているのだ!のダメ押し。

(2014年版『中小企業白書』19頁)

開業数が増えると潤うかもしれない税理士の息でも掛かっているのかと疑ってしまいます。
まず、フランスでの起業数の爆発的な増加は、2009年に導入された『個人事業主制度』が大きく影響しています。ここで詳しくは述べませんが、この制度は、税金や社会保障費を一定期間優遇することによって起業を促し、失業者対策や副業を奨励するためのものでした。そうしたところ、登録が簡単だったこともあり、失業者やサラリーマンが大勢起業したということです。
このフランスの制度が長期的に成功を収めるかどうかはまだ分かりませんが、日本も同じようなことを狙っているのかもしれません…。
とはいえ、起業数を増加させることによって弊害がない訳ではありません。フランスでも問題視されているのは、企業に勤める従業員を退職させ、個人事業主として起業させた上で同じ仕事をさせるという点です。
当然、安易に起業できる制度ができれば、正規雇用から非正規雇用へのシフトが問題視されたように、雇用から契約(事業者同士の)へのシフトが問題となってきます。お金も人もない起業者が、手っ取り早く仕事を取るには下請けが早いのですから。
おっ! そう考えると、中小企業白書の裏側には、大企業の思惑も見え隠れするのか…。
ちなみに、この10年間で、製造業の給与所得者数は265万人減少したのに対し、サービス業の給与所得者数は285万人増加。そして、平均給与は、製造業が2万円の微増に対し、サービス業は46万円の大幅減少とのこと(2014年版『中小企業白書』10頁)。
供給が減れば価格は上がり、供給が増えれば価格は下がるのは当然のこと…。
そうであるならば、起業者数が増えれば、一人当たりの平均所得が減るのも必然ではないでしょうか。
それで潤うのは、そのような起業者に仕事を頼む企業側だけのような気がします。
もちろん、起業が増えることによって、今まで想像もできなかった新しい物やサービスが誕生するかもしれません。ただし、前述したように、起業のリスクが低くなったから起業するというような方々から、そのような革新性のあるものが誕生するというのはあまり想像ができません。
さらに言えば、経営者からすると、兼業や副業に励んでいるような社員を雇いたいとは思わないのではないでしょうか。
働き方の多様化というのは必然的な流れとはいえ、それが構造的に低所得化を促しているとも言えます。
個人の働き方と同様に、企業の事業展開も多様化の様相を見せていますが、自社が抑えておくべきポイントを理解しておかないと知らぬ間に…ということになりかねないかもしれませんね。