私がある企業様を訪問していると、応接ブースから社長と営業マンの商談が聞こえてきました。
営業:「社長、今ならまだ3月中に納品できますよ!」
営業:「4月以降になると、増税になりますから3%分損しますよ!」
社長:「どうせ買うなら今買ったほうが得だよな?」
営業:「間違いありません!」
営業:「単純計算で○○万円も得ですよ!」
増税前には、どこの会社でも交わされていたであろう、ありふれた会話です。
皆さんはこんな会話をし、そして設備や材料を購入しませんでしたか?
もし、そうなら騙されたという意味において、詐欺にあったのと同じです!
4月に入り、とうとう消費税の税率が8%となりました。
3月の最後の週末には、私の住む田舎でさえ、まとめ買いの人たちでごった返していました。
消費者にとっては、あと数日もすれば、一気に3%もの値上げになる訳ですから、当然のことです。
私もカミさんを説得できるこの絶好の機会を何とか利用しようと思いましたが、買うものが見つからず諦めました(泣)
世の中の消費者が増税前にまとめ買いをするように、一般消費者の誰もが持っている、この当たり前の認識につけ込んだ『悪徳営業』ともいえる行為が行われていいたことを皆さんはご存じでしょうか?
ただ、営業マンの中には、悪意ではなく、単に知識の欠落によって、善意で営業をされている方が多くいるのも事実です。
しかし、これこそ、私たちが消費税の納税の仕組みを知らないが故に引き起こされた、悲劇と言えます。
消費税の計算の仕組みを知っていれば、会社でこんな駆け込み買いをする必要がないことが分かります。
最初に、結論からお話いたします。
前回のメールマガジンにおいても簡単に触れたことですが、消費税は、原則として、売上に係る消費税から仕入・経費に係る消費税を控除した金額が納税額となるため、増税による消費税をちゃんと売上に転嫁できていれば、増税によって損益に影響がでることはありません。
図で示すと以下のとおりです。
以上のとおり、増税による損益への影響がないということがわかります。
ところで、請負工事等のように経過措置を適用し、販売側は5%の税率を適用し、それに係る材料仕入れ等は、新税率の8%が適用される場合があります。
この場合には、差額の3%分はやはり損になるのではないかとの疑問を持たれる社長さんが多いのですが、これについても下図のとおり、損益への影響はまったくないこととなります。
最後に、今までの話には例外が2つありますのでご注意ください。
一つは、簡易課税という方法によって消費税を計算している会社。
もう一つは、消費税を納めていない、売上高が1000万円未満の小規模会社。
これらの会社にとっては、増税分の消費税を控除できる機会がありませんので、一般消費者同様、まとめ買いをする意味はあると言えます。
また、損得には影響はありませんが、資金繰りに影響がでる場合があります。
粗利が極端に低い取引の場合、売上の消費税を5%しかもらっていないにもかかわらず、仕入れに係る消費税を8%で支払っている場合には、消費税が還付となるケースがあります。(上記、図を参照。)
この場合には、納付期限を迎えるまでの間、一時的に資金繰りが悪化することが考えられますのでご注意ください。
社長たるもの、あいまいな情報を鵜呑みにせず、消費者の頭と経営者のアタマの2つを上手く使い分けていくことが必要です。
月: 2014年6月
セミナーメモ
現代経営の根幹は、収支の帳尻を合わせることと人を動かすこと
これ以上でも以下でもない
~岡本吏郎『組織コミュニケーションセミナー』~
ときどき、「伸び悩んでいるな…」と思う企業を目にします。これは、単純に業績が上がらないという意味ではなく、表面上受けるその企業の印象と、実際の収支にギャップを感じるという意味です。
つまり、もっと売上げが高くてもおかしくないし、もっと利益が出ていてもおかしくないと思われる企業です。
このような企業の経営者とお話しをすると、やることはやっていそうです。やることはやっていそうなのですが、最終的には、「でも、人がね…」という言葉を口にします。
逆に、表面上の印象と実際の収支が、良い意味でギャップがある企業も存在します。言葉は悪いですが、この企業がこれほどまでに…と驚いてしまいます。
そのような企業は、見栄えも何も気にせず、単に経営者が「でも、人がね…」と口にするような問題がないという印象です。
先日、自社主催の『組織コミュニケーションセミナー』に参加してきましたが、岡本が言うように、経営の根幹が「人を動かすこと」にあるのだとしたら、「動かされる人」の問題だけではなく、「動かす人」の問題もあり、より大きいのは「動かす人」の問題だということに改めて気付かされます。
私も、人事、コミュニケーション系のセミナーには色々参加してきましたが、ほとんどのセミナーが(コンサルタントが)、「組織の問題」をシステムや仕組みに落とし込むことによって解決させることを目的にしていました。
セミナーで紹介されるシステムや仕組みは、とてもロジカルで見栄えも耳障りもよく、まるで魔法のようなものに感じます。
しかし、実際にはそれで問題が解決する企業は数少なく、問題が解決しないにもかかわらず、システムや仕組みの運用に膨大な時間とコストが投入され続けます。
これは、システムや仕組みによって「動かされる人」をコントロールすることを目的にしていますが、「動かす人」=経営者本人のことを横に置いて解決を図ろうとしている限り、本当の問題は解決しないということがよく分かります。
とはいえ、外部から組織に何らかの刺激を与えることによって、問題を抱える社員を浮かび上がらせることには役立つかもしれません。これは、コンサルタントや経営者が意図していることではありませんが、システムや仕組みを導入することによって、業務がより複雑になり、それについて来れない又は反抗する社員が出てくるからです。
中小企業の場合、それでも救いがあるのが、やろうと思えば経営者はほとんど全ての社員に目が届くということです。つまり、経営者が社員の問題に気が付いて修正する機会があります。
そうなってくると、社員の問題を修正するには、「人を動かす」経営者自身の問題に気付かなければなりません。
以上、『組織コミュニケーションセミナー』にて、これらを自分の問題と照らし合わせました(苦笑)
私は「収支の帳尻」の専門家ですが、数字遊びをしていてもお客様の業績は良くなりません。
税理士の中には、経営計画やコンサルティングなどをお客様に提供すれば、お客様の問題は解決すると勘違いしている方々がたくさんいます。
そして、役に立たないと分かっていて、これらを提供している税理士もいます。
システムや仕組みに依存する経営が伸び悩むのは当然のことだとしたら、間違っても税理士がシステムや仕組みに依存させてしまうのだけは避けなければなりません。
大した人数を雇用していない税理士が、より大きな組織を運営するお客様に「人を動かす」経営の何たるかを語るなどおこがましいですから…。
経営者保証が外れる?
中小企業が金融機関から融資を受ける際、切っても切れないのが経営者の個人保証…。
まだ一般的ではないため、ご存じではない方も多いと思いますが、昨年末に『経営者保証に関するガイドライン』が公表され、2月1日から適用されました。
これを簡単に説明すると、経営者の個人保証について、
- 法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
- 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
- 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援することを目的とするとのことです(経済産業省webサイトより)。
→ガイドラインはこちら
“朗報!”と言いたいところですが、当然ながら、これは法律ではありません。従いまして、これを取りまとめた研究会が“経営者保証に関する中小企業、経営者及び金融機関による対応についての自主的自律的な準則”(太線強調は筆者)と自ら言うように、経営者保証の取り扱いについて大きく何かが変わるわけではありません。
「残念ながら、御社では難しいですね…」と金融機関から言われれば、「はい、そうですか…」とならざるを得ません。
ただし、金融機関もこれを無視するわけにもいかず、各行のwebサイトを見れば、「尊重し、遵守する」との文言が記載されています。
つまり、「経営者保証を外して欲しい」と言わない手はないということです。そこから金融機関との交渉は始まります。
そして、ガイドラインには、経営者保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合には、以下のような経営状況であることが求められるとしています(長文ですが引用します)。
■法人と経営者との関係の明確な区分・分離
主たる債務者は、法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。
また、こうした整備・運用の状況について、外部専門家(公認会計士、税理士等をいう。以下同じ。)による検証を実施し、その結果を、対象債権者に適切に開示することが望ましい。
■財務基盤の強化 経営者
保証は主たる債務者の信用力を補完する手段のひとつとして機能している一面があるが、経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。
■財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
主たる債務者は、資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。
なお、開示情報の信頼性の向上の観点から、外部専門家による情報の検証を行い、その検証結果と合わせた開示が望ましい。
また、開示・説明した後に、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告するなど適時適切な情報開示に努める。
中小企業において、法人と経営者の明確な分離というのが現実的には困難であるというのは金融機関も理解しています。ですから、各企業につき個別判断にならざるを得ません。ということは…、金融機関も相手を見ながら判断する場合もあるということです。
今までも、金融機関に粘り強く経営者保証を外して欲しい旨を持ち掛け、成功していた中小企業もあります。もちろん、ある程度の財務水準に達していてこその成果ではありますが、「経営者保証は外れないもの」と、そもそも交渉すらしていなければ成果は上げられません。
これは、融資は信用保証協会の保証が必要であって、プロパーでの融資は無理と決めつけているのと同じです。
「プロパーで融資を受けたい」と交渉すればよいだけであって、この程度でも中小企業ごとの対応に大きな差が出ます。これはそれ程難しいことではありません。
ガイドラインができた以上、今後は経営者保証を外すために財務状況を整備する中小企業も増えてくるでしょう。また、金融機関の選択において、経営者保証を外してくれるというのも大きな判断基準になり得ます。
では、経営者保証を外すための財務状況の整備はどうすればよいのか?
それこそ、企業ごとにやるべきことは異なるため、一概には言えませんし、金融機関ごとに基準が違うでしょうから、正解はありません。金融機関と交渉しつつ、顧問税理士とも対応を検討する必要があります。
法人と個人の税負担のバランスが大きく変化してきた以上、経営者保証なども考慮した上で節税等の対応も見直すことは、地味ですがとても重要なことです。
また、事業承継において、後継者にとっては経営者保証がネックとなる場合も見受けられますので、いずれにしても無視するには影響の大きい問題です。
ただし、経営者保証を外すにあたって、若干の利率上乗せを求められることも想定されるので、それならば経営者保証はあってもよいという方もいらっしゃるかもしれませんね。
これを機会に、今後の経営者保証について検討されてみてはいかがでしょうか?
消費税増税に関する注意点のポイント!!
消費税の増税も間もなくですね。
今回はこの時期でもお問い合わせの多い、増税に関する事業者の注意点についてお伝えます。
(1)消費税の転嫁拒否等の行為の禁止
平成26年4月1日以後の、継続的な取引を行っている事業者から受ける商品やサービスの供給に関して、次の4つの行為は禁止されています。
出典:日本商工会議所「消費税の転嫁対策特別措置法5つのポイント」より
このように、消費税の増税に関して増税分を価格に転嫁せず、不当にその分の負担を求めること等を禁止しています。仮にこのような不当な行為を受けた場合には、商工会議所、公正取引委員会、中小企業庁等の専用窓口で相談が受けることができ、これらの行為は取締の対象となります。
(2)消費税還元セールの禁止
平成26年4月1日以後に、自社の商品やサービスの広告等への表示に関して、「消費税」という単語を使用した、次のような表示が禁止されました。
これは、消費者に誤認を与えたり取引先への転嫁の阻害や買い叩きをしたりしないように、消費税に関連して安売りや広告を出すことを禁止したものです。
・消費税は転嫁しません!
・消費税還元!
・消費税は当社が負担!
・消費税分値下げ!
しかし、消費税とは関連しない内容での
・3%値下げセール!
・8%ポイントサービス!
など、たまたま率が同じになっただけのセール等は問題がないといわれています。
ポイントは、「消費税の還元」「増税に関連する相当分の値下げ」等の意味にとられない表示にすることが重要です。要は、消費税の転嫁はしなくてはならないのです。
(3)総額表示の義務が緩和され、「外税表示(税抜表示)」が認められます。
消費者(エンドユーザー)への価格表示に関して、事業者は「総額表示」すなわち税込価格での表示の義務があります。しかし、今後8%への増税後にも10%への増税も控えていることなどから、その表示上の煩雑さを考慮し、平成25年10月1日から「外税表示(税抜表示)」することが認められるようになりました。
出典:日本商工会議所「消費税の転嫁対策特別措置法5つのポイント」より
このように、税抜価格を前面に出すことで「値ごろ感」を強調する効果も期待できます。しかし、税抜価格であることを明確に表示しなければなりませんので注意が必要です。その価格が税込みなのか税抜きなのかわかりづらいような曖昧な表示は禁止されています。
また、消費税率を表示しないこの表示方法により将来10%に増税した場合でも、広告の版下等の変更なく対応が可能となります。
今回は消費税の増税に関連した注意点を3つ確認してみました。
特に(3)に関しては、売上高を構成する税抜き本体部分の見直し、要は、価格設定の見直しの機会にもなるものと考えています。
増税前の駆け込み需要もまもなく落ち着くことでしょう。
本当の勝負は4月以降です。今回取り上げた転嫁拒否等の不当な圧力も、既に水面下では行われているのかもしれません。
しかしこのような相手に屈することなく、価格設定の見直しも、是非とも出来る範囲で実行されてみてはいかがでしょうか。