値付けのジレンマ

「適正価格」。自社製品やサービスの値付け。目の前の消費増税を控え、改めて考えさせられている中小企業の経営者の方が多いのではないでしょうか。「果たして今の値段は適正なのか・・・」「値上げが必要なのでは・・・」「値下げをしなければ生き残れないのでは・・・」
結論から言えば、ほとんどの中小企業では値付けを誤っているといってよいでしょう。価格設定が低すぎる場合が多いのです。とはいえ、「そんな簡単に値上げなどできないよ・・・」
というのが中小企業経営者の本音ではないでしょうか。
悩んだ結果、値下げに踏み切る経営者はいても、値上げに踏み切れる経営者は多くありません。そこで、今回は少し視点を変えて、経済学に応用されている「ゲーム理論」から「囚人のジレンマ」を用いて値付けについて考えてみたいと思います。
「囚人のジレンマ」についてはご存知の方が多いと思いますが、簡単に説明させていただきます。
ある犯罪を犯した共犯者「囚人A」と「囚人B」がいます。この2人は別室で警察の取り調べを受けています。そこで警察官はこの2人に次のように話しを持ちかけます。
「もしお前らが2人とも黙秘したら、2人とも懲役2年だ。」
「だが、お前らのうち1人だけが自白すれば、そいつは無罪にしてやる。この場合、自白しなかった方は懲役10年だ。」
「ただしお前らが2人とも自白したら、2人とも懲役5年だ。」
捕まった2人はそれぞれ別室でこのことを告げられているため、お互いに一切相談はできません。さてこの時2人の囚人は共犯者と強調して黙秘すべきか、それとも共犯者を裏切って自白をするべきか、悩むことになります。囚人A、Bの行動と懲役の関係を表にすると次のようになります。

さあ、この時、囚人A、Bはそれぞれどのように考えるでしょうか。
1)お互いに黙秘すれば懲役2年で済むが、自分が黙秘して、もしも相手が自白した場合、自分は懲役10年になってしまう。
2)相手が黙秘した場合、自分も黙秘すれば懲役2年で済むが、自分が自白すれば無罪になれる。
3)相手が自白した場合、自分が黙秘したら懲役10年になるが、自分も自白すれば懲役5年で済む。
つまり、2人とも黙秘をすれば2人とも懲役2年で済むのだから2人とも黙秘したほうが得するはずであるにもかかわらず、相手は自白するのではないかと疑心暗鬼になり、2人ともが自分が自白したほうが得だと考え、お互いに「自白する」という結論を導き出してしまい、結果として、どちらも懲役5年の刑を受けることになってしまうのです。
囚人のジレンマとは、このように「各々は自分にとって最適な答えを選んだのに、全体を見たとき明らかに最適でない結果が出てしまう」という状況であり、言い方を変えると「互いに協調する方が裏切り合うよりもよい結果になる事が分かっていても、皆が自身の利益を優先している状況下では、互いに裏切りあってしまう」という状況です。
さて、この構図、囚人を自社とライバル企業に、強調を値上げに、裏切りを値下げに置き換えるとどうでしょう。企業間の価格競争の問題が分析できます。

自社、ライバル社ともに値上げを実行すればともに売上はアップし、お互いに高い利益を得ることができますが、自社が値上げを行い、ライバル社が値下げを実行すれば、値下げしたライバル社にシェアを奪われ売上がダウンします。
この場合、先程の「囚人のジレンマ」同様、お互い増収増益という結果を得るには値上げがベストにも関わらず、お互いにライバルに値下げされた時の影響を憂い、値下げに踏み切り、やがて業界全体が低価格競争に突入、売上は横ばいか下降、値下げしているため減益という結果に陥ってしまうのです。
もちろん実際の経営において、値決めによる影響はこんなに単純ではありませんし、一口に値上げと言っても、商品、サービスが他社よりも付加価値の高いものでなければ、簡単に値上げなどできません。
しかし、世間の低価格路線に惑わされ、同業者の安値に怯え、適正な値付けを誤り、業界全体で自らの首を絞め合っていると感じながらも、そこから抜け出せずにいる経営者は少なくないはずです。
消費増税を控え、消費が冷え込むことを心配し、値下げを検討している経営者の方もいらっしゃることでしょう。しかし、果たして値下げした価格は本当に適正価格でしょうか。
私達、中小企業が生き残るために必要なことは、高い付加価値の商品を適正な価格で販売し、可能な限り限界利益を高めることに他なりません。そこで、もう一度自社商品の価値とそれに対する値付けが適正であるか考えていただきたいのです。
決してみなさんがジレンマに陥らないために。