○○は事業承継の“カンフル剤”となり得るか!?

今回は事業承継問題を解決するためのあるスキームをご紹介いたします。
はじめに、事業承継問題と一口に言っても様々なパターンがありますが、代表的なものは次のとおりです。
ケース1 親族内に後継者がいない
ケース2 経営の承継したものの、(株価が高く)株が移せない。
ケース3 兄弟間で経営権の取得を巡って争いがある
今回ご紹介する手法は、ケース2とケース3を問題を解決するための手法です。
次のような家族構成の同族会社を前提とします。

長男は代表取締役社長、次男は取締役副社長です。
株式は全て会長である父親の名義となっています。
長男である社長の要望は、経営権(株式)を取得したというものです。
いうまでもありませんが、代表取締役の地位など経営権をもっていなければ、ただのお飾りに過ぎません。
このような場合に、生前に株式を動かすことには2つの問題があります。
ひとつは、贈与税でもうひとつは、譲渡承認手続についてです。
株価の計算方法については省略しますが、時価以下の金額で株を譲渡した場合には、譲渡を受けた人は贈与税がかかります。
そこで、株価の高い株式を生前に移転する方法として、『事業承継税制』の活用が考えられます。
この制度を使うことによって株の移転に贈与税がかからないようにすることができます。
しかし、この制度で贈与税が免除されるのは、発行済株式総数の3/2までです。
それを超える株式の贈与については贈与税が発生します。
2/3を取得できれば経営権を取得できることは間違いありませんが、少数でも株式をもっていれば相当の権利が認められています。
次に、譲渡手続き上の問題についてお話します。
株式会社で株式譲渡制限を設けている場合、譲渡の承認は原則として、つぎの機関で受けることとなります。
取締役会非設置会社・・ 株主総会
取締役会設置会社・・・ 取締役会
したがって、経営権の獲得を巡る争いがある場合、株主でもあり取締役である次男が、譲渡承認について正式な手続きを経ていない株の移転についての訴えをおこすことが可能です。
この2つの問題を解決する手法が、『遺言代用信託』です。
“遺言”というと、死んでから効力が発生するように思われがちですが、遺言の代わりという意味ですので、信託の委託者が生存している間から効力を発揮する信託のことです。
一般的な株式は『配当をもらう権利(受益権)』と『経営を決定する権利(議決権)』の2つの権利をあわせ持っています。
遺言代用信託を利用した事業承継手法とは、議決権を行使する権利のみを長男とし、当初の受益者を父親、父親の死亡時には長男と次男がが受益権を取得するものです。

長男が取得する議決権については、信託契約によって取得する権利ですが、相続税法上の株式評価においては、原則として、議決権の有無を考慮せずに評価することとされていますので、議決権の取得について贈与税は発生しません。
しかし、このスキームが租税回避を目的とするものではなく、あくまでも事業承継を円滑にすすめるための手段として利用を検討することが必要です。

意外な盲点!?

取締役が1人しかいない会社で、その取締役が急に亡くなってしまった!
そんな事態を考えてみたことはありますか?
実はこうなってしまった時には、
想像を超えたリスクがあることをご存知でしょうか。
皆さんご存知でしょうが、平成18年の会社法の改正以来、株式会社の取締役は1人だけでも可能になりました。いわゆる「一人取締役の会社」です。
この改正以来、会社運営上のその取り回しの良さからこれまでの取締役が複数いた形態から、この一人取締役の形態に変更された経営者も多いのではないでしょうか。
しかし、この形態の抱えるリスクを認識しないまま、とんでもないことになってしまった方がいらっしゃいます。
そう、「この一人取締役が亡くなってしまった」場合です。
この場合、最悪、どんな事態が待っているのでしょうか?
会社の業務執行は止まり、取引先との取引も停止してしまいます。
「そんな、大げさなー!」
なんて思われるかもしれませんが、実際に起こりえます。
一人取締役がいなくなってしまったので、新たに取締役を選任する必要があります。
選任するのは株主総会です。しかし、株主総会を招集する取締役が不在のため、この招集自体ができません。
実際には株主による招集も可能ですが、その場合には「裁判所の許可」が必要になります。
仮に、先の亡くなった一人取締役がこの会社の100%株主であった、なんて場合には、その株主も不在ということになり、やはり株主総会の招集ができません。
そうすると次に、この株式の議決権を相続する相続人を確定させる必要が出てきます。この場合には、相続すべき株式の議決権は、相続人同士の分割の協議によって決めていくことになります。
この亡くなった一人取締役には2人の息子がいますが、
しかし、実は仲が悪い・・・
最悪です。
どのように分けるかの話し合いがまとまり、かつ、その引き継いだ相続人による同意(総会の招集と議決権の行使)がないと、
結局は次の取締役の選任はできず、会社は動けない状態になってしまうのです。
こうなると、実際に会社の業務執行は停止状態に陥るだけでなく、
取り引き先からも、取引を停止される可能性もでてきます。
会社の謄本(履歴事項証明書)は、法務局で誰でも簡単に手に入れられます。
すなわち会社の基本的な情報は誰でも入手可能なのです。
ここには、取締役に関する事項があり、過去から現在の取締役の状況(いつ、誰が取締役になったか)がわかります。
取締役が不在となり、その後任も決まらないような会社との取引をする会社は・・そうは無いはずです。
では、どうしたらよのでしょうか。
●一人取締役の持つ株式の相続先を、遺言によって指定しておく
●一人取締役の形態をやめて、複数の取締役を選任しておく
結局は、主にこのどちらかになってしまうと考えられます。
そのうち考えよう。。。。
こういう返答を頂く経営者さんは多いように見受けられます。
しかし、こういう事態はある日突然にやってくるものです。
あなたの会社は一人取締役でしょうか。
もしそうであれば、一度考えてみることをお勧めいたします。

コーヒーブレイク ~税理士探しのための、業界事情~

今回は、税理士業界のお話をさせていただきます。
今年の税理士試験も8月上旬に終わりました。
税理士業界の就職及び転職活動は、税理士試験が行われる8月前後と、合格発表が行われる12月から1月に掛けてがピークです。
しかし、近年、どの税理士事務所も採用活動で悩まされます・・・。
それもそのはず。下記データをご覧ください。

(注)平成25年度データについては、近年の平均データを利用して算出。
下の折れ線グラフが税理士試験の受験者数の推移ですが、ものの見事に減少傾向です。受験者数の減少は、この業界で働く人数にも直結します。
就職難、資格人気の時代といえど、税理士試験の人気がなくなっているのは、その試験の難易度に比べて、年収が割に合わないといわれるのも要因です。
弁護士試験、公認会計士試験ほど難しくないといわれますが、1科目ごとの科目合格制が採られ、さらには1度合格した科目は継続的に有効なので、働きながら受験する人が圧倒的に多いのが税理士です。そのため、逆に5科目全てに合格するまでには長い期間が必要となります。合格まで10年掛かるというのも珍しくはありません。
また、受験しながら働くため、実務経験も中途半端になります。従って、一般的な事業会社で働く30歳での社会人経験年数と、税理士事務所で働く30歳での社会人経験年数を比べた場合、半分にも満たないというのが現実です。
世間一般では最も戦力になり始める年齢でも、まだルーキークラスというのが税理士業界なのです。
さらに、税理士の収入は、一般の会社員に比べても大差はありません。
税理士事務所自体、小規模経営(10人未満が9割前後)がメインですので、中小企業の会社員と待遇は変わりません。大手税理士事務所に入れる人数などごく限られています。
また、最近はブラック企業が話題ですが、この業界はブラックが当たり前だよというくらいの状況です(詳しく説明すると色々問題がありそうですので・・・)。
独立税理士となると少しは状況は変わりますが、開業して間もない税理士など、勤め人よりも収入が少ない場合もあり、高収入の税理士は“古き良き時代”から事務所を構えている高年齢の方がほとんどではないでしょうか。
こうなってきたら、若者には夢も希望もない・・・。
また、お客様から頂ける報酬も減少傾向にあり、事務所経営が苦しい中、人件費の削減と共に、とにかく効率化を図ろうとします。お客様からの余分な業務は対応せず、事務的な対応に終始する。
せっかくこの業界に入ってきた若者に、このような事務的な仕事を叩き込めば、どんなに素材が良くても、型にはまった仕事しかできなくなります。
税理士業務というのは、やはり経験がものをいうので、事務作業だけを叩き込まれた“事務処理屋”が増えれば増えるほど、中小企業の経営者が求めるアドバイザーはどんどん減少していきます。
若手に、経営者ときちんと話せる人材が少なくなってきているのも、このような業界の傾向が反映されているように感じます。
ただでさえ、そのような人材が集まる業界であるにもかかわらず・・・。
また、どんなに経験豊富なベテランの税理士が良いとはいえ、事業承継で世代交代した若手経営者や、ベンチャー企業の若手経営者にとっては、やはり50~60代の税理士はとっつきにくいものです。
当然のことながら、税理士登録者数は増えていますが、受験者数が減れば減るほど、税理士の平均年齢は上がります。
平成16年の税理士実態調査では、20~30歳代の税理士の割合は約11%(40歳代でも約16%)です。これが約10年前のデータであり、この間に増加した税理士の割合が全体の約7%くらいですので、現在は20~30歳代の税理士の割合が10%を切っていてもおかしくありません(しかも、実務経験年数は10年未満が大半!)。
正直、これは業界の危機的状況ともいえるのではないかと思いますが、この状況がお客様である中小企業の経営にも悪い影響を与えかねません。
税理士をお探しの経営者からお話をうかがうと、フットワークの良い若手税理士を探されている場合が多いですが、業界的にはこのような事情もありますので、そう簡単には見つからないということもご理解いただいておく方がよろしいのではないかと考えます。
また、経営者にとっては税理士報酬は低ければ低いほど良いと思われるので、現在のような報酬減少傾向は歓迎すべき状況でしょうが、業界的には、付加価値が高い業務を行いにくい環境ともいえます。
さらに、WEB等を利用して積極的に広告展開を行う税理士は若手に多く、営業も比較的こ慣れていますが、実際の実務能力的にはいかがなものでしょうか・・・。
少し疑問があります。
実務経験もしっかり積み、フットワークもよく、現在の経営環境にも精通しているとなると、アラフォーあたりの中堅どころからが一番バランスが取れているように感じます。
日常のやり取りもさることながら、非常時の対応能力は経験がものといいます。
そういう意味では、報酬を比較的高く設定している中堅税理士というのは、その辺の構造も理解した上で、自分の能力に自信を持っている証拠かもしれません。
これらの事情はあくまで傾向を踏まえた上でのお話であり、報酬が高い税理士を探せという訳ではありませんが、これも税理士の探し方の手段の一つといえるのではないでしょうか。

『決算確定の日』が重要なワケ

みなさんは、税務署に提出する申告書に『決算確定の日』というものを記載するところがあるのをご存じでしょうか?
恐らくほとんどの社長さんはまずご存知ないはずです。
実は多くの場合、税理士が勝手に日にちを決めて記載しているケースが多いのです。
ただし、税理士にその事実を確認すれば、「社長に聞いたら、いつでもいいって言ったじゃないですか!」と答えるでしょう。
中には『空欄』という申告書もあるかも知れません。
決算確定の日はここに記載されています。

この決算確定の日とは、会計事務所が申告書を完成させた日ではありません。
これは、株主総会において決算が承認された日を意味します。
さらに踏み込んだ言い方をすると、会社の決算は、決算日から2ヶ月(又は3ヶ月)以内に開催される『株主総会』において承認を受ける必要があります。
つまり、決算確定の日とは、『株主総会が開催された日』ということになります。
法人税法では、「内国法人(略)は、各事業年度終了の日の翌日から二ヶ月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき~申告書を税務署に提出しなければならない。(以下略)」と決められています。
ここで言っている『確定した決算』というのが、まさに株主総会で承認された決算のことです。
株主総会!? ウチの会社は株主も役員もすべて家族だからそんなのやったことないよう!という声が聞こえてきそうです。
確かに、中小企業の大部分はオーナー親族によって支配されている『同族会社』のため、株主総会の開催等の手続きは省略され、監査役による監査についても形骸化しています。
では、株主総会をちゃんと開催しなかった場合にはどうなるのでしょうか?
一般的には株主総会を開催しなかったことによって問題になることはありません。
なぜなら、それを問題にする人がいないからです。
しかし、親族間において何らかの争いが生じた場合には、株主総会の決議について効力を争う、裁判を起こされることがあります。
それが、『株主総会決議取消しの訴え』や、『株主総会決議不存在確認の訴え』といったものです。
そして、ひとたび裁判を起こされれば、ほとんどの中小企業が正式な総会手続きをとっていないため、株主総会決議は取り消しとなってしまいます。
その場合、税務署に提出した申告の効力はどうなってしまうのでしょうか?
この点について、過去の裁判例を見る限り、実務的には、その申告の効力を有効とするものが多数あります。
その中でも、近年における代表的な裁判例としては、福岡地方裁判所平成19年1月16日判決があげられます。
この判決では、「確定した決算」に基づくことは、申告の要件ではなく、「申告の正当性を確保するため」あるいは「正確な所得が得られる蓋然性が高い」ためであるとしています。
さらに、別の判決においては「確定申告自体が、実質的に、法人の意思に基づきなされたもの」であれば有効な申告であるとして、納税者である法人の意思を重視しています。
いずれも当初申告の効力を有効と指示していますが、だからといって株主総会の会社を省略してもよいということにはなりません。
適切な株主総会の開催と決算承認を行い、議事録の作成、保管を心がけてください。

首都圏の家庭を直撃!迫りくる相続税改正の影響!

首都圏においては、なんと10人に4人が相続税の申告の必要が出てくるかもしれない時代に入ろうとしています。今まで相続税と言えば一部の富裕層以外には縁のないもので「相続税!?うちには関係ないよ~。」という人がほとんどでした。しかし、平成25年度の税制改正によって、首都圏に住むみなさんにとっては特に、相続税は身近なもの変わろうとしています。
みなさん既にご存知のように平成25年度の税制改正で、相続税の基礎控除額が40%引き下げられることが決まりました。現行の基礎控除額は5,000万円+1,000万円×法定相続人の数ですが、平成27年1月1日以降の相続については3,000万円+600万円×法定相続人の数となります。法定相続人が妻と子供2人で合計3人のケースで基礎控除額は、なんと8,000万円から4,800万円に減ることになります。(図1)

現行制度下では、このケースの場合、相続財産が8,000万円以下であれば相続税はかかりませんが、平成27年以降は相続財産のうち4,800万円を超える部分に相続税がかかることになります。首都圏に少し広めの不動産と貯金があればすぐに越えてしまう金額であることがわかります。
それでは実際にどれくらいの人が相続税を納めることになると予想されているのでしょうか。
平成23年の死者数のうち、相続税の課税対象となった人の割合は全国平均で4.1%でした。改正により平成27年以降、相続税を納めなければならない人は全国平均で6%~7%になり、人数にすると3万人前後増加すると言われています。しかし、これはあくまで全国平均の数字であり、東京、名古屋、大阪など不動産の評価額が高い首都圏において相続税の課税対象となる人は10%~15%になるのではないかと見られているのです。
相続税を納める必要はなくても相続税の申告は必要という人については、さらに増えることが予想されています。相続税は財産が基礎控除の金額の範囲で納まっている人は申告の必要はありません。しかし、基礎控除が下がれば、財産が基礎控除の金額を超えて相続税の申告が必要になる人がかなり増えるのです。
ここでは説明は省きますが『配偶者の税額軽減』や『小規模宅地の特例』などの特例を使えば、結果として税金を納める必要がある人は、かなり減ります。しかし特例を受けて納税をなくすためには必ず『申告が必要』なのです。そこで冒頭で触れたように、首都圏においては10人に4人が相続税の申告の必要が出てくるということが予想されているのです。
また、基礎控除の40%カットに加えて最高税率が55%に引き上げられ、税率は8段階に分かれます。この基礎控除の40%カットと税率の引き上げによる相続税額の影響については(図2)を見てください。

これだけでも大きな影響があることが分かりますが、更に大きな影響が見込まれるのは2次相続、つまり妻や夫が亡くなった1次相続の後の相続、子供達世代が相続する段階です。
なぜなら1次相続、夫婦間の相続では税負担が大幅に軽減される「配偶者の税額軽減」という制度があり、税額を抑えることができますが、2次相続、子供世代への相続ではそうした軽減制度がないからです。(図3)

今回の改正を目の前に控え、今、まず皆さんがやらなければいけないことは、まず相続財産を把握し、個々の資産がどれくらいの評価額になるのか、そしてどれぐらいの相続税がかかるのかを知ることです。相続財産の評価額が分かれば、次は個々の資産を、いつ、誰に、どのような方法で渡していくかを考えて行きます。
相続を“成功”させるには大きく分けて(1)節税(2)納税資金(3)争族の3つの対策が重要であり、事前準備が不可欠なのです。
繰り返しになりますが、相続対策はもう一部の富裕層だけの問題ではありません。まずは相続財産の把握と評価、相続税額の試算を行うことを、今始めることが、みなさんの相続を“成功”へ導く第一歩です。