節税の作法

みなさんよくご存知の米アップル社。
米上院の行政監察小委員会は5月20日、米アップルが海外子会社などを活用して、巨額の課税逃れを行っていたとする調査報告書を公表し、翌21日の公聴会にティム・クック最高経営責任者(CEO)を呼び、この問題を追及しました。
新聞やテレビで報道されていましたので知っている方も多いと思いますが、アップルの節税方法とはどのようなものだったのでしょうか。
アップルの節税方法は、アイルランドと米国の税制の違いを利用したものです。企業は法人税を住所が存在する国に支払うのが原則です。しかし、実はこの課税上の「住所」がアイルランドと米国では異なるのです。
アイルランドでは、法人の実態がある場所が課税上の「住所」となります。一方米国では書類上、企業を設立した場所が「住所」になるのです。
アップルの節税方法は、国によって税金徴収の方法が違うことを利用しています。
アップルはアイルランドに会社を設立して、法人の実態はアメリカに置いたのです。つまり、運営の実権を米国に残したまま、アイルランドに会社を設立したため、米国にもアイルランドにも課税上の「住所がない」という状態になり、法人税を払わなくて済むというわけです。二重課税ならぬ「二重無課税」状態です。
さて、ここでのポイントはこのアップルがとった方法ですが、決して違法ではないということです。違法でないとういうことは、すなわち脱税ではありませんので合法的な立派な“節税”ということになります。
報告書によると、アップルは、2009年から12年に740億ドル(約7兆5000億円)の利益を米国から海外に移転しています。そのうち440億ドル分(約4兆5000億円)について課税を逃れたとし批判を受けています。繰り返しになりますが、違法ではありません。合法です。
では何故、アップルはこんなに批判を受けることになってしまったのでしょうか。
それは、違法ではないからといって「やり過ぎだ」ということではないでしょうか。
今回のような法の隙間をつくような節税手法である場合、節税効果が多額になればなるほど、何か言いたくなるのが人情です。違法ではないかもしれないが、そんな手法を使うなんて「けしからん!」ということです。
私は広く認められた節税方法はもちろんのこと、このような手法も、違法でない以上、ある程度積極的に行っていくべきであると考えています。しかし、同時にこうした種類の節税には、ある種の“作法”のようなものがあると私は考えています。
それは「やり過ぎない」ということです。
取引態様が多様化している現在、古い税法では対応しきれない部分があり、法の“隙間”が生まれているようなケースは、多くの場合、既に課税庁側もそのことを把握しています。しかし、法律の改正は簡単にはできない為、どうにも課税出来ないのが実態です。
しかし、ある法の隙間をつく節税方法が広く世間に知れ渡り、あちこちで使われ、それが多額になってくれば、当然課税庁側も動き出します。法改正です。
こうした場合課税庁側は、こうしたグレーな節税方法を場合によっては裁判で負けることが分かっていても否認します。なぜなら、負ける事が分かっていても、裁判に持ち込み問題を表面化させることによって法改正に導く事ができるからです。
中にはグレーな節税方法を得意満面に本に書いたり、インターネットを使って発信する専門家もいます。こうした行為は結果として、その節税手法に網がかかる時期を早めることになります。
グレーな節税方法は「ひっそり、こっそり、やり過ぎない。」これがポイントなのです。