税務調査の現場では「取り引き」が行われることが少なくありません。
若い、経験の浅い調査官であれば、まずそのようなことはありませんが、経験豊富で、ある程度現場での判断を任されている調査官の場合、それは日常的に行われています。
調査官 : 「今回の調査で修正申告の対象となるのはこれと、これと・・・合計で5つの事項ですね。ただ、まあ今回は初めての調査ですし、故意ではないことも理解できますので、今後は気を付けていただくということで、2つの事項だけ修正してもらえませんか?この2つは重加算税の対象になりますが、残りの3つの事項につきましては目をつぶりますので。」
税理士 : 「うーん、5つの事項全てを修正すると本税が・・・約50万円と過少申告加算税10%で約55万円。重加算税の条件を飲んで2つの事項を修正すると、本税20万円と重加算税35%で約27万円か・・・どうです社長さん、重加算税の条件を飲めば納める税金は半分以下になりますよ。」
社長 : 「そりゃあ助かります、先生、それで行きましょう!」
この場合、調査官の持ちかける“取り引き”に応じれば、確かに納税額は半分以下なりますので、取り引きに応じたくなる気持ちは良くわかります。
しかし、このような取り引きに簡単に応じてはいけない、ある事実があります。
みなさんの会社は全国の税務署をオンラインでつなぐ国税総合管理システム(KSK)によって、過去の申告内容や税務調査結果の詳細等のデータを管理されています。
そしてこのKSKではみなさんの会社を次のようにグループ分けしているのです。
第1グループ:過去の税務調査の結果が良い会社
第2グループ:10年に1回位のペースで調査対象とする会社
第3グループ:過去の税務調査の結果が悪く、3~4年ごとに調査対象とする会社
通常の会社は第1グループか第2グループになります。しかし重加算税が課された場合、第3グループに分けられてしまうのです。
つまり、一度重加算税を課されると、過去に「仮装・隠ぺい」を行った会社としてレッテ
ルを貼られ、以後税務調査に入られやすくなる、とういうことなのです。
しかも、一度第3グループに入ってしまうと、そう簡単にはそこから抜け出せません。
以前このメルマガでも書きましたが、調査官は重加算税をかけられれば「不正を発見した」として、査定のポイントが上がるので、重加算税の賦課を条件にこのような取り引きをもちかけることがあります。
今回のケースで、修正する2つの事項が間違いなく重加算税の対象であるならば、残り3つの事項に目をつぶってもらえることは助かりますが、グレーどころか、そもそも重加算税の対象でないことも十分に考えられます。むしろ、重加算税の対象と言い切る法的根拠が薄いからこそ、このような取り引きを持ちかけてくることが容易に想像できます。
仮装・隠ぺい行為がないのに重加算税の賦課を認めてはいけません。
目先の納税額を減らしたいがばかりに、調査官のもちかける“取り引き”に安易に応じることのないようにしましょう。