私「社長、今日は体調が悪そうですね。」
お客様「昨日はお得意さんの接待で、久しぶりに飲み過ぎちゃって・・・。」
取引先との飲食や、お中元・お歳暮のやりとり。
そのような行為が、今後の商売の潤滑油となることもあるでしょう。
これらは税法上『交際費』として、一定の制限が設けられています。
■ 年間600万円までしか経費として認めない
■ 600万円までについても、10%は経費として認めない
なぜ制限が設けられているかというと、このような接待行為は、商売との直接的な因果関係をもたない冗費(むだな費用)であり、贅沢な支出であるからです。
つまり、税法的な視点からも「お酒は、ほどほどに・・・」ということです。
(参考)
各国の交際費の制限について
そんな交際費について、H25年度税制改正大綱において拡充案が提出されました。
改正の内容は次の通りです。
■ 年間600万円の経費限度額を800万円に
■ 限度額までの支出について、「10%は経費として認めない」の廃止
つまり、800万円までであれば、全てが経費として認められるということです。
国のねらいは、交際費の限度額を拡充することで、(飲食費等が増え)飲食店を中心に街を活性化させる、ということです。
しかしながら、このようなインセンティブが有効に機能するのか、甚だ疑問に感じます。
「よし、交際費の枠が増えたので、これからはもっと取引先と飲みに行くぞ〜」
果たして、このような思考をする経営者がいるでしょうか?
「あの取引先を接待すれば、確実に売上向上を見込めたのだが、枠があったせいで我慢していた。これからはもっと戦略的に接待ができる!」
確実に成果を期待できたのであれば、枠に関係なく、実行していたはずです。
つまり、国が意図しているような結果(枠が増えた事により、接待行為が増え、飲食店等が潤う)にはならず、偶然、600万円を超えて交際費を使っていた会社の納税額が減る、という話にしかならないのです・・・。
この改正を受けて、持つべき思考はただ一つです。
「交際費の枠が増えたから、もっと飲みに行くぞー」ではなく、この改正によって、「いくらのキャッシュを捻出できたか」を理解する事です。
支出交際費別にみるキャッシュ捻出額は次の通りです。
支出額によっては僅かなキャッシュかもしれませんが、今までと何も行動を変えず、税制が変わっただけで、“棚ぼた”的にキャッシュが捻出できるのですから、これを理解した上で、そのキャッシュを有効に活用していきましょう。
「交際費拡充のおかげで、×××円キャッシュが浮くから、前年は予算の関係で見送った、〇〇投資を具体的に進めてみよう。」
新規設備、人材、社内インフラなど、様々な投資活用があり、それらの支出に充てる事で、(それこそ)国の望んでいる経済の活性化へと繋がっていくわけです。
一昔前までは400万円だった交際費限度額が600万円となり、これからは800万円になろうとしています。ただし、国の勧めるままにお酒を飲んでしまっては、法人も“体”を壊すことになってしまいます。
あくまでも「お酒は、ほどほどに・・・」
月: 2013年6月
税理士に期待をすると痛い目にあうかも知れない
今年も税制改正が発表となりました。
皆さんは税制改正の内容を、誰から、どのように聞かされているでしょうか?
顧問の税理士がいらっしゃる方は、「うちは税理士がいるから大丈夫!」と思っていらっしゃいませんか?
しかし、それは、大きな間違いです。
顧問の税理士は、税制改正が皆さんにどんな影響があるかなど考えてはいません。
もちろん、すべての税理士がそうだとは言いません。
税理士は親切に、「○○さん、こうすれば得だよ!」とは教えてはくれません。
先日も、こんな出来事がありました。
新しく、私どものお客様となっていただいた会社の社長さんとお話をしていたときのことです。
笹川「社長、新しく人を採用した場合、税金が安くなるのはご存じですか?」
社長「エッ、そうなの?」
笹川「エッ、ご存じなかったんですか?それじゃあ何の手続きも・・・。」
社長「そんな改正があったなんて全然聞いてなかったよ!」
社長「なんで○○先生教えてくれなかったんだろう?」
社長「300万も損したよ・・・ヒドイでしょ!」
以前の顧問税理士から、昨年の税制改正で新しく導入された制度についての説明を受けていなかったために、本来は受けられるはずだった特例が受けられなくなったというのです。
これは決して特別な話しではありません。
表面化していないだけで、皆さんも受けられるはずの特例を受けていない可能性は十分にあります。
税制改正による恩恵を受けることができるのは、問題意識をもって自ら情報を求めた人だけです。
それでは今回の改正内容のうち、知らなかったでは済まされない、経営者にとって関わりが大きい項目のみをピックアップしてご紹介いたします。
○会社関係
1.給与が増えたら税金を減らす制度を新設
2.人が増えたら税金を減らす制度が拡大
3.生産設備を導入した場合の特例を新設
4.試験研究を行った場合の税金の控除額を引き上げ
5.ソーラー設備等の投資減税について、対象資産を追加、適用期限も延長
6.全額損金算入となる交際費枠を増額
7.領収書に貼る印紙の免税点を5万円(現行3万円未満)に引上げ
○個人関係
1.最高税率を45%に引き上げ(5%UP)
2.住宅ローン控除を400万円に倍増(認定住宅は500万円)
3.私募債等の利子等について20%源泉分離課税から除外
4.上場株の売却損と非上場株の売却益との損益通算禁止
5.少額の株取引が非課税となる口座の開設期間を延長
○相続関係
1.相続税、贈与税の最高税率を55%に引き上げ(5%UP)
2.基礎控除額が現行の6割に引き下げ
3.教育資金の一括贈与が非課税となる
4.相続時精算課税制度が孫まで可能に
5.事業承継税制の適用要件が緩和
ご覧いただいたとおり、今回の改正は『減税の大バーゲンセール』です。
しかし、安心をしてはいけません。
所得税、相続税の最高税率の見直し等、今後の経営に与える影響が大きい項目もしっかりと入っています。
しかも、政府はしっかりと隠し玉も潜ませていました。
一部の知っている人だけが得をしている、あの節税スキームにも網を掛けてきました。
もう時間がありません。
税制改正は一見すると価値のないものに見えるかも知れません。
しかし、私たちの視点から見ると大きなビジネスチャンスに見えるものもあります。
そこで、今年もいち早く税制改正のポイントを皆さまにお伝えしたく、岡本と笹川による税制改正対談をお届けいたします。
中小企業経営者のための
『新しい税金はどうなるのか?- 平成25年度税制改正セミナー -』
単なる改正の解説ではありません。
経営にどのような影響があるのか、そしてどうのように利用していくべきか?
すべてが経営者目線! 実務家目線でベテラン二人が言い過ぎ覚悟でお届けします!
ご期待ください。
税務調査では・・税理士をよく見てみましょう
顧問先「先生~、このまえ税務署から電話があって、来月の下旬に税務調査になっちゃいましたよ~」
先日伺った、顧問先での会話です。
顧問先と言っても、当社とはセカンドオピニオンサービス契約での顧問契約ですので、 当社に通知は来ません。
私「そうですかー。もう5年くらい経ちますものねぇ」
「ところで、顧問の先生にも連絡は行ってるんですよね?」
顧問先「いえ?来てないって言ってましたよ?」
私「え?そんなはずは・・・」
みなさん、なぜ私が驚いたかおわかりでしょうか。
実は平成25年1月から税務調査の手続きが変わりました。
変わったというより、不明瞭であった部分が明確になった、
というのが正しいでしょうか。
税務調査がある場合には、税務署から納税者と税務代理人に対して
事前に通知することが明文化されました。
文字通り、納税者(会社)と税務代理人(税理士)に税務調査がある旨を
通知しないといけないわけです。
これまでも、一般的にはそうされてきましたが、
実はそれを規定するものは存在していませんでした。
また、これまでは事前に伝えられなかった事項についても、
事前に通知されるようになりました。
1実地の調査を行う旨
2調査開始日時
3調査開始場所
4調査の目的
5調査の対象となる税目
6調査の対象となる期間
7調査の対象となる帳簿書類その他の物件
8調査の相手方である納税義務者の氏名及び住所又は居所
9調査を行う当該職員の氏名及び所属管署
10調査開始日時又は調査開始場所の変更に関する事項
11事前通知事項以外の事項について非違が疑われることとなった場合には、
当該事項に関し調査を行うことができる旨
全部で11項目。
これだけの項目が事前に通知されることになっています。
「こんなに聞かないといけないの?」
そんな声が聞こえてきますが、御心配はいりません。
顧問税理士等の税務の代理人がいる場合には、
「通知の内容は代理人を通じて聞きます」
と申し出れば、上記の1以外の10項目については直接聞く必要はありません。
また、上記の2の調査の開始日時については、従来通りその変更は可能です。
すべて、税務代理人である税理士に任せればいいのです。
もし、税理士に任せずにご自分で聞きたい、という場合には、
最初から上記の11項目のリストを作っておいて、順に聞きながらメモを取る、というのがよろしいでしょう。
さて、冒頭の「調査の事前通知の来なかった顧問税理士」は
その後どうしたのでしょうか。
特になにもせず、そのまま当日の税務調査に立ち会うようです。
おかしなことをしている税務署に対し、『ちょっと待て』とモノイイできないのでしょうか。
それが正当な行為ではないでしょうか。
本来であれば、なぜ代理人である自分に通知が無いのかをはっきりさせるべきでしょう。
仮にそのまま税務調査が行われた場合には、その調査の有効性自体が問われることになるかもしれません。
もしかすると、こういう先生の場合には実際の税務調査の時にも
その悪影響が出ているかもしれません。
例えば、本当はケチのつけられないような正当な経費に対して、
調査官「これって、税務上の寄附金じゃないですか?」
顧問税理士「ん~・・そうかもしれないですねぇ・・」
というようなやり取りで、追徴税額を払わされたりしてはいないでしょうか。
税務調査ではある意味、「税理士の真価」が問われるといえます。
あなたの顧問税理は大丈夫ですか?
弊社では、「セカンドオピニオンサービス」も行っています。
・こうならないために事前に準備したい
・税理士は替えられないが、ちょっと頼りない
・第二の税理士を使って、万全を期したい
などのご要望にお応えします。
ご興味がある場合には、当社までお問い合わせください。
あなたの顧問税理士は・・・本当に大丈夫ですか?
手取りの取扱いを変えてみる
例えば、源泉所得税を会社で負担してくれる給与の受取り方があるとしたらどうします?
繰り返しお伝えしているとおり、25年度から給与所得控除額の上限が設けられました。
もちろん、年収1,500万円以下の方は関係のない改正ですが、会社役員等で年収1,500万円を超える方は・・・諦めてくださいということです。
さらに、今月から所得税額に対して復興特別所得税額2.1%が課され、所得税の最高税率が40%から45%へ引き上げられることが進んでいます。
さらに、さらに、社会保険料の増加・・・。
「どれだけ給与から天引きされるんだ!」
と、毎年減少していく手取り額を見て、溜め息をつかれる方も多いはず。
おや? 天引き?
そういえば、天引きされない給与の受取り方がありました。
念のため、皆さまにお伝えしておきます。
現金だけが、給与ではない。
これはご存じの方も多いかと。
いわゆる現物給与と呼ばれる「ブツ」で受け取る給与が分かりやすい例です。
商品券や高額製品を会社から受取ったときも、給与とみなされ所得税が掛かります。
年末年始の忘年会やイベントで受取られた方も多いのではないでしょうか。
例えば、1万円の商品券を受取った場合、これについても会社は源泉所得税を天引きする必要があり、税率10%として1,000円を本人から徴収します。
この1万円と1,000円を通常受取っている給与と合算し、年末調整等で最終的に精算することになります。
こういうケースでのお問い合わせはよくありますが、このことをご説明しても納得できない方が多いようです。
もちろん、私だって当事者でしたら嫌です!
しかし、「法律上」はそうなっているため、判断が難しいところ・・・。
ただし、源泉徴収しないでもよい処理の仕方があります。
これが「グロスアップ」と言うものです。
例えば、ピッタリ1万円の商品券をあげたいのに、同時に1,000円の源泉所得税を徴収しては意味がない。
このような場合、税率10%と仮定して、1万円を90%で割り返します(=11,111円)。
そして、この11,111円を給与とみなし、源泉所得税1,111円、差引支給額1万円(=商品券)とすることが可能です。
この1,111円は源泉所得税として納税する必要があるため、会社の支出額は1万円から11,111円に増えてしまいますが、受取る側からすればうれしい処理です。
しかも、年末調整等で1,111円の一部が還付されるかもしれない。
福利厚生と考えるのであれば、これも選択肢の一つです。
「従業員ばっかりずるい! 役員にもないのか! 役員は定期同額給与というものがあるから無理なんだろ!?」
確かに、社員と役員では取り扱いが違います。
ただし、中小企業の役員の場合は、もっと「大きな額」のグロスアップが可能です・・・。
いわゆる節税法人と言われる企業において流行した手法に、生命保険の契約方法の利用があります。
これは、会社で契約して会社が受取る生命保険契約ではなく、会社で契約して、“役員が受け取る”保険のことです。
これについては、当社の笹川が『保険で節税をしてはいけない!』というセミナーでも養老保険のパターンをご紹介したので詳細な説明は省きますが、
例えば、保険契約者を会社、保険金受取人を役員とする生命保険契約を締結したとします。
通常、会社が契約する場合には、『保険料』という費用となりますが、保険金受取人を会社ではなく役員個人に指定すると、『給与』とみなされます。
つまり、給与とみなされる以上、1万円の商品券と同様に所得税の徴収が必要です。
通常、受取人を個人とする保険契約は、給与から社会保険料や源泉所得税を差引いた手取り額から保険料を支払います。
しかし、この契約パターンの場合、保険料を会社から生命保険会社に直接支払われるため、役員個人のお金は減少しません。
しかも、この場合もグロスアップが使えます。
例えば、毎月50万円の保険料を保険会社に支払う場合、これを仮に20%を源泉徴収するとして、80%で割り返すと625,000円になります。
この625,000円を給与とみなした上で、500,000円を保険会社に直接支払い、125,000円を源泉所得税として納税する。
年収として計算した場合の税率設定の問題はありますが、役員個人としては保険料も源泉所得税も負担せず、保険金の受取人となることができます(ただし、個人住民税は自己負担です)。
役員を受取人とする生命保険契約はときどき見受けられますが、源泉所得税の問題があるために実質的に自己負担を強いられるところ、ここでグロスアップを利用して源泉所得税まで回避しているケースは中々ありません。
もちろん、この源泉所得税分も損金として認識されるため、法人税の減少要因となります。
ここで疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんので説明しておきますが、この保険料は役員に支払われる訳ではなく、保険会社に直接支払われるものです。
そのため、実際には定期同額給与が適用される「役員報酬」とは別に、「経済的利益」として定期同額給与の判定を受けます。
つまり、役員報酬の改定は、原則として株主総会等で一定の時期に行わなければならないのに対し、生命保険契約等の「経済的利益」は、いつ契約してもよいのです。しかも年払いでも問題ありません。
以上、今回は、給与とみなされるものとグロスアップの組み合わせで、手取りの取扱いを変えてみました。
これを節税とみなすか否かは皆さまのご判断にお任せしますが、課税方法の組み合わせでも色々な選択肢が生まれるという点を知っておいていただければ幸いです。
400万円納めるよりも、350万円納めるほうが損に感じてしまう?
私は税務の現場で、たびたび次のような場面に出くわすことがあります。
私「今期の決算は1,000万円の所得ですが、予定納税でたくさん納付していますから、今回の決算では還付になります。」
お客様「納税にならなくてよかった!むしろ、税金が戻ってくるなんて!」
私「予定納税で500万円納付しているおかげで、今回は100万円の還付ですが、1年を通せば400万円納めていますよ。」
お客様「そうなるのかね?とにかく納税ではなくてよかった!!」
同じお客様の翌期の決算において・・・
私「今期の決算は、900万円の所得ですから350万円の税金になります。ですが、予定納税で200万円納めていますから、差額の150万円の納付になりますね。」
お客様「そうか・・・、納税なのね。仕方ないか・・・。」
私「前期は400万円の納税でしたから、それに比べれば、50万円少ないことになりますね。」
お客様「違うでしょ?前期は税金が戻ってきたよ。」
私「それは予定納税が多かったからであって、通年で見れば400万円ですよ。ですから今年は50万円少ないことになります。」
お客様「そういえば、そうだったね・・・。しかし、納税か・・・。」
このテンションの違いは何故に起こるのでしょうか?
下のグラフは、行動経済学において有名なプロスペクト理論の価値関数を表したものです。
損得の増減に対して、人が感じる価値の動きを表したものであり、このグラフから読み取れることは次の3点です。
(1)参照点依存・・・
損得の価値は絶対的なものではなく、その人がもっている独自の基準を参照点として、そこからの距離で決まります。
年収1,000万円のAさんにとって、1,000万円は絶対的な価値ではありません。
ライバルだと思っているBさんの年収が900万だった場合には満足感を得ることになりますが、もしもBさんの年収が1,100万円であれば、不満を感じてしまうことになります。
(2)価値の逓減・・・
幸福度も不幸度も、増えていくに従って、感じる価値は鈍化していきます。
一杯目のビールはとても美味しく感じますが、三杯目にもなれば・・・、ということです。
(3)損失性回避・・・
人は利得よりも損失のほうに大きく反応します。
例えば、同じ100万円であっても、100万円を得る喜びより、100万円を失う痛みのほうが大きく、回避しようとする傾向にあります。
冒頭の決算時のやりとりにおいても、これらの効果が大きく作用しています。
お客様にとって、参照点は『この決算において1円でも納めることになるのか否か』であり、損失性回避から、(通年でいくら納めているかは関係なく)『目の前の納税をとにかく回避できてよかった』という心理になります。
実際、決算時のタイミングだけを見れば、通年で400万円納めている期(決算時には100万円の還付)よりも、通年で350万円納めている期(決算時には150万円の納付)の方が、ものすごく損をした気分になっているのです・・・。
これから消費税の増税等で世の中のモノの値段が変わってくるわけですが、このような価格に対する人の感情の動きを知っているかどうかは非常に大切になります。
販売サイドであった場合、「税込価格1,050万円が、消費税の増税で1,080万円になりました。」と提示するよりも、「増税後の税込価格1,110万円ですが、当社は増税相当分値下げしますので、お値引きをして1,080万円にて提供します。」というだけで、消費者の受ける印象は変わります。
消費サイドであった場合、「A社は『基本料金2年間タダ』と言っているが、B社は『前機種5万円で買い取り』と言っている。今すぐ5万円もらえるなんて非常に魅力的だと思うのだが、目の前の単純な損得に関わらず、トータルでお得なのはどの会社なのだろう?」といった冷静な思考が必要になります。
まずは、『人間の行動は不合理である』と認めることが出発点になります。
そもそも、経済学が前提としている『完全で合理的な人間』などいないのですから。
見えないコスト
「コスト削減」に取り組んだことのない会社はないでしょう。しかし、多くの場合それは「見えるコスト」の削減にとどまり、結果として思うような効果を得ることができないばかりか、従業員の士気を下げてしまっただけなどということが少なくありません。
ここで言う「見えるコスト」とは損益計算書上に計上される消耗品費や接待交際費などの販売費及び一般管理費と呼ばれるものです。
これに対して「見えないコスト」とは損益計算書上に載ることのないコスト、一言で言うと「ムダ」です。つまり「見えないコスト」の削減は複雑で非効率的な業務をシンプルにしたり、または思い切って業務自体を無くしてしまうことにより「ムダ」を削減し「見えない人件費」を減らそうとするものです。
私たちが行っている業務の一つに経理事務の効率化のお手伝いがあります。弊社にいただく新規の顧問契約についてのお問い合わせの中には経理事務の効率化を求めていらっしゃる方も、そうでない方もいらっしゃいます。そうでない方の中には、既にしっかりとした効率化された事務を行っている会社と、非効率的な事務を行っているが、それが非効率的であることに全く気が付いていないといった会社があります。
そして、実際に経理事務の中身を見せていただくと、非効率的な経理事務を何年もの間、何の疑問も持たずに続けている会社が少なくないことに正直驚かされます。
例えば非効率的な事務の一つとして“経費精算”があります。経費精算についてルールが定められておらず、毎日のように経費精算を現金で行っている中小企業も珍しくありません。はっきり言ってムダです。この毎日の経費精算、年単位で考えると経理担当者が割く時間はかなりの量になっているはずです。これこそ「見えないコスト」の典型であり、今すぐ削減すべきです。
まず、経費精算は原則として月1回にします。また、その精算方法は現金ではなく給与と一緒に振り込みにします。方法は簡単です。社員には毎月1回、月末締めで、領収書を貼付した経費精算書を提出してもらいます。経理担当者は1ヶ月分の経費をまとめて確認し、給与と一緒に振り込めばそれで終わりです。
経費精算を月に1回にすると、経理担当者の業務を減らすことができるのと同時に、誰が毎月何にいくら使っているのかがはっきりするため、ムダ使いを発見することができます。
従業員が一時的に経費を立て替えることの金銭的負担について心配する経営者の方もいらっしゃいますが、実際に1ヶ月分の経費を立て替えることができないと言って、従業員が不満を漏らしているといった話は、ほとんど耳にしたことがありません。
ただし、遠方への出張などで立て替え金額大きくなってしまう時には、ルールを決めて、仮払いしてあげるなどの措置を採ってあげるようにしましょう。
他にも使用する預金口座の本数を減らす、ネットバンキングを利用して実際に銀行に足を運ぶといったことを無くす、など「見えないコスト」の削減チャンスはあちこちにあります。預金口座をたくさんもっている会社は本当に多いのが実態です。経費の引き落としがいくつもの口座に分散されていれば、毎月残高を気にして、資金移動する時間と手間が本当にムダです。
確かに預金口座を1本にできない様々な理由があることはよくわかります。しかし、その場合でも、できるだけメインで利用する預金口座を決めて、売上の回収と支払を集中させてください。そうすればメインの預金口座を見れば会社のお金の流れが一目で分かるようになります。前月に比べてお金が増えているのか減っているのか、儲かっているのか、そうでないのかが帳簿を見なくても分かるようになるのです。
経営において最も重要と言っても過言ではない“キャッシュ”が通帳を見るだけで、ある程度把握可能となるのです。
今回ご紹介した「見えないコスト」の削減例はほんの一部ですが、中小企業にはムダな業務、非効率的な業務が多く、特に経理などの管理部門にはムダも人員も多いという会社が少なくありません。
今まで疑問を持つことなく行ってきた業務についても、もう一度ムダがないか検証してみましょう。中には業務をシンプルにするだけで見えないコストを削減することが可能なものがきっとあるはずです。