8月23日の日経新聞に、センサーや測定器を作っているキーエンスが、あることを実行したことによって、なんと40億円の節税効果が発生する見通しとの記事が掲載されていました。果たして40億円もの節税効果が発生する、あることとはいったいどんなことなのでしょうか。
40億円の節税と聞くと、大抵の方はとんでもないウルトラCのような手段を想像するのではないでしょうか。しかし、今回キーエンスが取った方法はいたって簡単なものでした。
そう『決算期の変更』です。
税制改正により平成24年4月1日以降に開始する事業年度より、法人税率が5%引き下げられることになりました。キーエンスは3月20日を決算日としていた為に、新しい税率の適用を受けるのは平成25年3月21日から始まる事業年度からでした。
そこでキーエンスは平成24年度の決算期を変更し、3月21日から6月20日までの3ヶ月として、6月21日から新事業年度を開始させたのです。
これにより6月21日開始の事業年度は、平成24年4月1日以降に開始する事業年度に該当し、新しい税率の適用を受けることができます。事業年度を変更することにより、税制改正の恩恵を早い時期から享受し、結果として40億円のもの節税効果を得る事ができる見通しなのです。
新税率の適用を早く受けるためだけに決算期を変更する事が、良いかどうかは一概には言えませんし、これを聞いたからといって同じ手法をとる会社はごく僅かではないでしょうか。しかし、この事例を耳にしたことをきっかけにして自社の事業年度について改めて考えてみてはいかがでしょうか。
皆さんは会社設立の際に決算期をどうやって決めたか覚えていらっしゃいますか?
設立時及び事業年度開始日の資本金が1000万円未満の法人であれば、原則として1・2期目は消費税の免税事業者となります。その為、この恩恵をフルに享受しようと、たまたま設立の用意が整った設立月から12ヶ月後の月を決算期としている方がかなり多いのではないでしょうか。
もちろん、そのメリットは決して小さくありませんので、それも1つの選択肢と言えます。
しかし、そうして決算期を決めた会社であっても消費税の免税事業者でいられる期間が終わってしまっていれば、そのままの決算期に拘る必要はありません。
決算期の決定にあたっては様々な角度からの検討が必要になりますが、今回は税の観点から決算期を考えてみましょう。
経営者の皆さんは毎年、自らの役員報酬をいくらに設定すればよいのか、頭を悩ませていることだと思います。
その理由の1つとして、来期の業績予測が難しいということがあるのではないでしょうか。もし仮に来期の業績が完璧に予測できたならば、役員報酬の決定に悩む事は、ほとんどなくなるでしょう。
しかし、そんな事が不可能であることは言うまでもありません。
しかし、予測のブレを少なくすることは可能です。利益変動の大きい月を事業年度の最初に持ってくるのです。そうすることで年間の業績予測が、早い時期に精度が高いものとなるはずです。
法人税法上、役員報酬は原則として期首から3ヶ月以内に決めなければなりません。であれば、できるだけ早い時点で精度の高い業績予測をすることが出来れば、最適な役員報酬の算定がし易くなるのではないでしょうか。また、早い時点での業績予測が可能になれば、決算対策を行う上でも有利になることは間違いありません。
季節商品を販売する会社や、受験指導をする予備校、塾などを思い浮かべていただければイメージし易いと思います。受験予備校に集まる生徒の多くは4月から始まる新年度カリキュラムに合わせて3月や4月に入校します。ということは、この時期の生徒の数がわかれば年間の業績予測が立ちやすくなります。
それなのに、この会社の決算期が3月や4月であれば、利益変動の大きな時期が期末になるため、決算ギリギリまで業績予測がつきにくく、決算対策を行う時間もなければ、役員報酬が適正額であったかは最後まで判りません。
そこで決算期を2月にすれば、利益変動の大きな時期が事業年度の前半になるため、早い時期に精度の高い業績予測ができ、決算対策も余裕を持って行えます。また役員報酬の設定期限である期首から3ヶ月目の5月までには、今年度の生徒の人数も把握できることから、精度の高い業績予測を基に役員報酬を設定することが可能です。
決算期の変更は株主総会の特別決議等により定款の変更を行い、税務署等に異動届出書を提出すれば、それで終わりです。登記の必要もありません。
たったこれだけの手続きで決算期を変更することが、皆さんの会社にとって大きなメリットをもたらすことがあるかもしれません。
ただし、皆さんお分かりのとおり、会社は税金のみを考えて経営するわけではありませんので、必要以上にこだわらないようにしてください。
これを期に様々な角度から再度自社の決算期を考えてみてはいかがでしょうか。