『税務調査に強い!』という税理士について考えてみた

「うちは税務調査に強いよ。 国税OBの税理士がいるからね」
国税OBを抱える税理士事務所がよく使う口説き文句ですが、額面通りここには二つのアピールがあります。
・税務調査に強いというアピール
・国税OBの税理士がいるというアピール
国税OBがいなければ、おたくは税務調査に弱いのか?と突っ込みたくはなりますが、やはり企業側も気にするポイントの一つです。
「国税出身の先生はいらっしゃいますか?」
昔に比べれば国税OBにこだわる方は少なくなってきましたが、それでもときどき質問を受けます。また、税務調査に強い税理士を探すのは、企業としては当然の行動です。
しかし、私が初めて税務調査の立会いを行ったときから疑問でした。
国税OBの税理士に何かメリットがあるのか? そもそも、巷で言われている税務調査に強いとはどういうことなのか?
そこで、今回は“税務調査”ではなく、“税務調査と税理士”について考えてみます。
■考えてみた1 税務調査に“弱い”税理士
前回の「節税と税理士」の話とかぶりますが、税務調査に“強い!”という税理士がいる以上、税務調査に“弱い↓”税理士もいるということになります。
ここで、税務調査に弱い税理士とは、どのような税理士でしょうか?
A. 税理士が税務署寄りの発言をする (=企業側が悪者になる)
B. 税理士が調査官と闘ってくれない (=やる気がない)
C. たくさん税金を取られる (=申告が正確でない)
D. 調査官の言い分を全部認める (=交渉下手)
E. 調査官の圧力に屈する (=弱気) etc.
純粋な意味での“弱い”とは若干異なりますが、イメージ的には上記が該当します。
これに対して、税務調査に“強い”とは下記のイメージです。
A. 税理士が企業側に立ってくれる (=税務署寄りではない)
B. 税理士が調査官と闘ってくれる (=頼もしい)
C. ほとんど税金を取られない (=正確な申告をしてくれている)
D. 調査官からの指摘に対して、交渉して被害を抑えてくれる (=交渉上手)
E. 権威を使って調査官に圧力をかける (=半分冗談です)
あくまでイメージだけの単純比較ですが、それぞれを比較すると、税理士としての技術面でのポイントは「C.の税金をどれだけ多く取られるか否か」だけで、その他は「税理士としての税務調査に対するスタンス」としての問題になります。
税理士としての技術面については後で触れますが、基本的に「税務調査に強い!」とは、お客様のための行動を取ってくれるかどうかという単純な話です。
つまり、税務調査に強い税理士を探したければ、以下の質問を投げかければよいのです。
       「税務調査時のスタンスと、対応の方法を教えてください」
こう考えてみると、税務調査に強いというのは、それほど凄いことではなく、プロとして当然のような気もします。
また、対応能力の程度の差こそあれ、税理士の5割以上は、お客様の立場に立って税務調査の対応をしていると考えられます。
■考えてみた2 そもそも、税務調査を受ける“前”の問題
『考えてみた1』では、税務調査が始まった“後”のことを述べました。
それでは、税務調査に強いということと、税務調査を受ける“前”の問題、つまり日々の税理士業務は関連しているのでしょうか?
ここで、当然のことをお伝えしますが・・・、
       “税務調査で否認事項がないように適正な申告を行う”
というのが大前提です。
毎期適正な処理が行われていれば、税務調査が入っても何ら問題はありません。
つまり、私には、税務調査に強いという猛烈なアピールは、
     「税務調査のときには強いけど、申告の中身はちょっとね・・・」
としか聞こえないのです。
そもそも、申告自体に自信があれば、「税務調査に強い!」というアピールよりも、
     「税務調査が入ってもご安心ください。 
          否認されるような申告はしておりません」

というアピールの方が、お客様は安心します。
これが『考えてみた1』の技術面のポイントですが、問題になりそうなポイントを事前にガチガチに理論武装してしまいます。そもそも税務調査に入られる前に決着をつけているので、強いも何も、勝負にすらなりません。
基本的に税務調査自体は避けられないので、現場で税理士と調査官が揉めているよりも、穏やかに「調査の結果、御社の申告は適正でした」と言われる方が良いに決まっています。
いわゆる「申告是認」と言われるものですが、これは税務署に調査結果として記録されていくので、心証として、次回の税務調査時に偏見を持って来られるという可能性も少なくなります。
つまり、「税理士に強い!」とアピールする税理士が発する裏のメッセージは、「税務調査時に否認事項が出るのは当たり前だけど、いざ税務調査が始まったら、お客様のために働きますよ!」ということかもしれません。
「え? 最初から否認事項がないように申告してくれ? そこまで正確な申告を行うほど顧問料をもらっていませんよ・・・」
ここまでくると、本末転倒です・・・。
P.S. 申告是認で税務調査が終わるとはいえ、中身が全て保守的な処理(税制を駆使した攻めの処理をしていない)の場合には、同じ適正申告とはいえ、そもそも税務署が文句をつけない申告をしているので、これはこれで良し悪しがあるかもしれません。
■考えてみた(番外編) 税務調査は儲かる!?
ときどき耳にします。
「税務調査は儲かるんだよ!」
それはそうでしょう。
税務調査の立会いで日当をもらい、さらに修正申告を行って申告報酬をもらう。
税務調査は税理士にとってボーナスに等しいのです。
これはある一つの事実を浮かび上がらせます。
“適正申告で終わるよりも、修正申告で終わった方が、税理士の報酬が高い”
つまり、税務調査に強いとアピールする税理士ほど、税務調査から上がる売上高の比率が高いのかもしれません。
書面添付制度を利用し、税務調査が可能な限り省略されるような方針であったり、修正申告が発生しない適正申告を行っている税理士は、お客様にとっても負担が少ないと言えるのではないでしょうか。
■考えてみた3 国税OB
ここまで見てみると、国税OBのメリットについて改めて考える必要があります。
確かに、税務調査の現場を知り尽くしているという意味では国税OBには強みがあります。しかし、国税OBが調査官の手法を知り尽くしているとはいえ、そもそも適正申告を行っていれば、どんな手法を使い倒されても問題はありません。
また、税務調査時にミスや不正が発覚すれば、国税OBといえども何もできません。
こう考えると、「国税OBの税理士がいる」だけでは、あまり意味がないことが分かります。結局は、税理士としてのスタンスの問題であったり、税務調査の前の段階の問題であったりするのですから。
国税OBが税務署寄りではないは言い切れませんし(逆に話を上手くまとめてしまう・・・?)、申告実務は国税OBではない税理士の方が経験豊富です。
こうなってくると、国税OBがいるから税務調査に強いというよりも、国税OBがいるから一層適正な申告が可能となりますというようなアピールであって欲しいものですね。
逆に、国税OBがついているというのは、調査官に「何かあるのか?」と推測させるのに十分な動機を与えます。
■結論
企業側が税理士に不満をもつきっかけの中では、税務調査の対応が大きなウェートを占め、顧客獲得に奔走する税理士事務所も「税務調査に強い!」を必死にアピールします。
そこに、国税OBがいれば鬼に金棒・・・と、考える訳です。
つまり、「税務調査に強い! さらに、国税OBもいます!」は、税理士にとってのマーケティングのキャッチコピーと変わりません。
「うちの料理は上手い! さらに、素材は○○産!」とアピールする飲食店と同じなのです。しかも、飲食店は食べてみればすぐに分かりますが、税務調査はすぐに結果が分かるものではなく、それよりも大事なのは税務調査の“前”の段階だとお伝えいたしました。
“税務調査に強い”税理士を選ぶか、“税務調査の前に勝負をつけている”税理士を選ぶかは、お客様側の好みの問題になってきます。
ですが、本当に税務調査に強いをアピールするのであれば、税務調査の結果を公表していただきたいものですね。
「調査官からの1,000万円の否認指摘事項を、500万円に下げさせました!」
これを税務調査に強いというのは、何か違和感がありますね・・・。
結局は、『税務調査に強い!』と叫ぶ税理士にはお気を付けください。
としか言いようがありません・・・。