「今まで返済を猶予しておりましたが、明日から約定どおりに返済してください。」
来年の4月以降、金融機関から、このようなセリフが聞こえてくるかもしれません・・・。
経営状況の厳しい中小企業に対して、返済を一定期間猶予する『金融モラトリアム法』が、来年の3月で期限切れとなります。
今まで猶予を受けていた中小企業にとって、返済の再開は死活問題であり、『円滑化法終了後の出口戦略』が様々な媒体で取り上げられています。
しかし、モラトリアム法が切れた途端に、金融機関が約定どおりの返済を求めてしまっては、中小企業の倒産件数が急増してしまいます。
そのような懸念を受けて、金融庁は11月初旬、「返済を猶予されていた中小企業でも、経営改善の余地があれば、その企業向けの融資を不良債権とは見なさない。」との見解を公表しました。
不良債権として見ない、ということは、金融機関サイドからすれば貸倒引当金を積む必要がない(または、多額に積む必要がない)ため、経営が圧迫されず、無茶な貸し剥がしには走らない、ということです。
望みがあるのであれば、ギリギリまで支援し、少しでも損失を抑えたい、というのが金融機関の本音でしょう。
「これで、猶予されていた中小企業もひと安心だ・・・。」
・・・とはいきません。
あくまでも、経営改善の見込み、が条件ですから、それを担保するため、金融機関は必ず『経営改善計画』の提出を求めてきます。単なる数字遊びの経営計画では通用しません。
私も仕事柄、金融機関と経営者との『経営改善計画』策定の会議に、取引のない第3者として、オブザーバー出席を求められることがあります。
やはり返済猶予を受けていた経営者だからでしょうか・・・、金融機関とのやりとりを見ていても、具体性に欠ける答弁が続きます。
金融機関「人件費の削減計画を教えてください。」
経営者「人件費は年間で10%カットいたします。」
金融機関「10%と言っても、どのようにして?」
経営者「パート従業員の仕事繰りを改善し・・・。」
金融機関「もう少し、具体的に・・・。どのように改善するのですか?」
経営者「厨房で余っている人間を、清掃担当にし、掃除のスピード化を図ることで(担当する人は増えますが)総人件費を下げます・・・。」
金融機関「いつからですか?」
経営者「・・・まだ体制が整っていませんので、それが整備でき次第・・・。」
金融機関「そうですか・・・、それでは体制が整いましたら、具体的な計画を教えてください。」
私「ちょっと待ってください。体制が整っていないとは?」
経営者「掃除の人間を増やすということは、新しい掃除道具が必要になります。それが揃い次第、ということになります。」
私「社長、掃除道具は今日買って帰りましょうよ。高価なものではないのですから。」
経営者「・・・まぁ、そうですね。」
私「それで、明日にでも、新しい人への掃除のレクチャーと担当割をリーダーが行い、実際に時短になるのか測定してくださいよ。」
金融機関「そうですね、1週間後の面談の際に、結果を教えてください。」
大前研一氏は、著書の中で、「問題解決手法(イッシュー・ツリー)の最終段階は、人の手の下せる、しかも効き目のたしかなものになっていなくてはならない」と述べます。
(参考文献:企業参謀)
これは当然のことであり、具体性に欠ける計画など、それこそ単なる数字遊びでしかないのですから・・・。
来年の4月以降、中小企業、及び、(我々も含めた)その周辺ブレインの真価が試されます。
モラトリアム終了後の世界がどのように変わるのか、注目していきましょう。