「生活必需品については税率を低くする。」
という消費税の『軽減税率』ですが、増税の妥協案として、議論が活発になってきました。
しかしながら「生活必需品と、そうでないモノ」の区別が難しいなど、問題を含んでいるのも事実です。
諸外国の例を見ても、各国のドタバタ感が伝わってきます。
また、仮に「生活必需品と、そうでないモノ」を明確に区別できたとしても、(それで全てが解決するわけではなく)むしろ、別の角度からみた“問題”こそ重要な論点なのですが、世間ではあまり注目されておりません。
経済学者のグレゴリー・マンキューは、1990年に施行されたアメリカの奢侈税(※ヨット、自家用ジェット、毛皮など、贅沢品への課税)について、次のように述べています。
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そのような贅沢品を買うのは金持ちなので、贅沢品への課税は、金持ちに課税する論理的な方法であると考えられた。
しかし、重要と供給の作用が働きはじめると、その結果は、議会が意図したものとまったく異なってきた。
奢侈税は、金持ちよりも中流階級に、より大きな負担をかけてしまった。
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なぜ、このような結果に至ったのか、段階を追って説明します。
■アメリカの議会は、金持ちから税収を確保するため、ヨットに課税した。
■金持ちはヨットに課税されたため、ヨットを買わず、そのお金で大きな家を買ったり、バカンスを楽しんだり、巨額の財産を相続で残したりした。
■売上が下がったヨットの製造業者は、ヨットの価格を下げた。
■ヨットの製造業者は、賃金を下げることで、利益の圧迫を回避した。
つまり、賃金をカットされた労働者が、回り回って奢侈税を負担するハメになった。
金持ちのヨットに対する需要は、“弾力性が高く”、ヨットを買わなくても全然構いません。
一方、製造業者のヨットの供給は、“弾力性が低く”、ヨットが売れないからといって、簡単に業種替えをするわけにはいきません。
ましてや、労働者の転職意識は、“弾力性がさらに低く”、その日その日の生活がかかっているため、簡単に転職するわけにはいきません。
このように、弾力性の低いもの(簡単に動けないもの)が、最終的には、上からの圧力を負担することになってしまうのです・・・。
さて、話を、日本の軽減税率へ戻しましょう。
軽減税率の導入は、裏を返せば、“生活必需品以外”のモノに高税率を課すことになります。
“生活必需品以外”という括りであれば、その範囲は広いため、奢侈税や、昔の物品税ほど極端な結果にはならないでしょうが、少なからず、先程のような影響が出ることは容易に予想できます。
このように、国の思惑通りにいかない政策は他にもたくさんあり、最低賃金の引き上げや、社会保険の強制加入、人材派遣法の改正など、弱い者を助けるはずの改正が、逆に、“弾力性の低い”労働者を圧迫している事は、よく知られていることです。
しかし、国の政策を批判しているだけでは意味がありません。
経営者である皆様は、『弾力性の低いもの(簡単に動けないもの)が、圧力を負担する』という図式を理解し、これを経営へと役立てていきましょう。