先月から今月にかけて、社会保険について驚くニュースが2つ入ってきました。
ひとつは、厚生労働省が年金保険料等を長期間滞納している悪質な業者に対する強制徴収の権限を国税庁へ委任したというものです。
世間的には、AIJによる厚生年金基金の損失隠しで騒いでいますが、実は、すでに破たんしている基金はほかにもたくさんあり、AIJは氷山の一角に過ぎません。
厚生年金基金は一部の大企業の問題で、わたしたちの年金とは無関係と思ってはいませんか?
年金制度についてここで詳しくお話をするつもりはありませんので、結論だけお話いたしますが、この国の年金制度はとっくに破綻しています。
おそらく私たちが今払っている年金保険料は戻ってこないでしょう。
もともと日本の年金制度は積立方式ではありませんのでそれも仕方がありません。
それでも、私が、年金保険料を支払っているのは、年金制度が国民皆年金になった段階で、年金制度は、現代における『徴兵制』だと諦めっているからです。
この国に住む以上、制度に文句を言ってもはじまりません。
すこし過激な言い方をしましたが、今回の報道が社会保険の未加入事業所に対する警告である可能性もあります。
事実、今回、厚生労働省が強制徴収を委任した案件は『1件』だけです。
「たった1件?」と思われるかもしれませんが、国税庁に強制徴収を委任するには厳しい要件があります。
その要件とは・・・
(1)2年以上の保険料等を滞納している
(2)財産を隠蔽しているおそれがある
(3)厚生年金保険料等の滞納合計額が1億円以上
(4)滞納処分等を受けたにもかかわらず,納付に誠実な意思を有すると認められない
つまり、『1億円以上の保険料を滞納しながら、開き直っている会社』ということです。
一般の中小企業が税務署から保険料の滞納について強制徴収されるようなことは、今はまだありません。
しかし、年金事務所(むかしの社会保険事務所)が年金保険料の強制徴収を強化する可能性は高いと思います。
少し前の話になりますが、国民年金保険料を滞納していた経営者の個人口座を簡単に差し押さえて来たことがありました。
以前にもどこかでお話したことがありますが、“国は本気になれば何でもできる”ということを忘れてはいけません。
もうひとつのニュースは、『年金保険料の負担を逃れるため社会保険の加入を届け出ない事業所の名前を公表する方針を政府が決めた』というものです。
この件については、今段階では報道以上の情報がありません。
新しい情報が入り次第、何らかの方法で皆さんにはお知らせをさせていただきます。
ただ、強制徴収のように、相当規模の未加入事業所だけを公表するのかどうかわかりませんが、そもそも、強制加入が前提となっているのだから『公表』なんてまどろっこしいことをせずに、国はすべての未加入事業者から強制徴収をすればすむ話です。
しかし、それをせずに公表などという方法をとるのは、国もすべての中小企業に対して、社会保険を適用した場合には、雇用が維持できないことを知っているのです。
未加入事業所のすべてが社会保険に強制加入させられるようになったら、法人の数は激減することになるでしょう。
どのような法律ができても、必ずその逃げ口に向かっていくのが、人間の本能です。
そうなれば、法人の事業目的を縮小し、表向きとしての『法人』と、実態としての『LLPや個人事業』というダブルインカムがこれからの中小企業のスタンダードとなる可能性もあります。
これから法人を設立しようと考えている方は慎重に対応してください。