本当に減税か?

現実味を帯びてきた法人税の引き下げ・・・。
政府や民主党の中で、管首相が公言していた法人税引き下げの検討に入っているようです。
平成23年度の税制改正には盛り込むとの事なので、年末には具体的な情報が出て来るでしょう。
また、管首相は、法人税の引き下げが雇用促進につながる事を念頭に置いた発言が目立ち、法人税引き下げとは別に雇用促進税制も検討されています。
この法人税の引き下げ・・・、中小企業にとって本当にプラスに働くのでしょうか?
皆さんご存じのように、法人税の引き下げについては経済界からの要望が強くありました。
いわゆる国際競争力という話です。
しかし、中小企業の99%にとって、国際競争力上での法人税率など関係がありません。
単純に考えれば、下がった分だけ内部留保に回るだけ。
あるいは借入金の返済に回そうかと考えていらっしゃるかもしれません。
とはいえ、利益が出なければ減税のメリットを受けられず、雇用の促進にもつながらない・・・。
当然ながら、雇用に関する税制も活かせません。
結局、赤字企業が圧倒的に多い現状では、実質的に減税効果を受けられる中小企業は多くありません。
しかも、強固な系列会社を傘下に置くトヨタですら、円高を理由に関連部品を韓国から輸入しようとする時代です。
減税により、大企業が良くなったら中小企業も良くなるという単純な経済環境ではなくなりました。
そうであるにもかかわらず、『目立たない税金』の方は、確実に増税が進んでいます。
つまり、“社会保険料負担”です。
例えば、厚生年金の保険料率が平成29年まで段階的に約2.2%増加します。
企業負担がこの半分なので、人件費が1億円の会社で約100万円。
当然、厚生年金とは別に、健康保険料負担の増加もあります。
社会保険料負担は『目立たない税金』であるため、負担が上がっているという“情報”と、現実にどのくらいの負担が上がっているかという“実態”につき、認識不足を起しやすいといえます。
さらに、以下のような誤認は絶対に避けなければなりません。
■年収500万円の人材を採用しよう
(1) 給与及び賞与の額 →
500万円
(2) 社会保険料負担額 → 65万円 (13%と仮定)
(3) 通勤手当他負担額 → 15万円 (仮の金額)
合 計 580万円
■人件費500万円の人材を採用しよう
(1) 給与及び賞与の額 →
430万円
(2) 社会保険料負担額 → 55万円 (13%と仮定)
(3) 通勤手当他負担額 → 15万円 (仮の金額)
合 計 500万円
この認識で異なる負担額は80万円です・・・一人につき。
ここで誤認をしては、その人材に稼いでもらうべき付加価値も誤差が出てしまいます。
これは非常に危険です。
消費税については、税込みや税抜きの表示に慣れてきました。
しかし、社会保険料については、社会保険料込みで人件費を認識する癖が徹底されておりません。
その上、負担額が年々増加しているため、その認識も毎年更新する必要があるのです。
「法人税を引き下げる代わりに、社会保険料負担が上がるのは当然だぞ!」
政府や財務省からは、日本企業の社会保険料負担は国際的に低いというアナウンスが繰り返されますが、単なる恫喝にしか聞こえません。
給与の引き下げや雇用契約の解除が簡単に出来ない現状では、社会保険料負担の増加に伴う人件費の調整も困難です。
当然、労働分配率も自然増を起しています。
以上のような状況では、減税という言葉に踊らされず、冷静に『目立たない税金』についても認識する姿勢が求められます。
税の負担は絶対的に増加しているのですから・・・。