“数字のこだわり”というメンタル

2004年に出版した『裏帳簿のススメ』が、
題名や内容の一部変更をして新書で再発されます。
その新しい本の一部に、こんなことを書きました。
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勝海舟(かつかいしゅう)は、
もともとの仕事は何だったろうか?
じつは、砲術士(ほうじゅつし)だった。
砲術士で出世した人はほかにもいる。ナポレオンだ。
これは偶然ではない。彼らは数字に強かったのだ。
(中略)
幕末に猪山成之(いのやましげゆき)という人がいた。
もともとは加賀藩の御算用者(おさんようもの)だった。
御算用者とは会計処理の専門家であり、
経理のプロという仕事である。
当時、猪山成之は経理のプロとして仕事をしていたが、
ソロバンに優れた人材は希少だったため、
兵站(へいたん)事務が主な仕事になっていった。
兵站事務というのは兵隊の食料、宿の手配からはじまり
武器の手配など、後方事務のことだ。
幕末は、こういう仕事をする事務官僚が
絶対的に不足していたらしい。
そして、加賀藩で兵站事務をしていた猪山成之は、
新政府からヘッドハンティングされることになった。
「ローマ人はロジスティクス(兵站)で戦争をした」といわれる。
後の日本は、このロジスティクスを軽視して太平洋戦争に負ける。
しかし、幕末の戦争では、軍務官大村益次郎(おおむらますじろう)は
ロジスティクスを重視した。
そして、加賀藩で帳簿づけから兵站事務までこなした猪山成之は
大村益次郎に抜擢(ばってき)され、
戊辰(ぼしん)戦争の兵姑事務をまかされた。
近世社会が成熟するなかで身分制度は崩れていく。
この変化のきっかけとなったのは、
国や軍隊が世襲制から能力制になっていったことが大きな
原因であるといわれる。
そして、そういった能力制度が積極的に導入されたのが「数字」が
かかわる仕事だった。この一事からも、いかに「数字」が重要かわかる。
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中小企業は一般的に、兵站が苦手です。
兵站は、成り行き任せ・・という中小企業は
たくさんあります。
これでは、戦争に勝てるわけはありませんが、
現実の戦争とは違い勝敗がはっきりつかない商売では、
お粗末な兵站の影響は見えずらくなっています。
さて、不況色は一段と強まってきています。
マスコミからは、景気の回復的なアナンスもされていますが、
中小企業の現場は、それどころではありません。
しかし、その中で調子の良い中小企業も
あります。
不況になると兵站の差は、
はっきりと業績に表れるようになります。
今、順調なところはどこも、
数字に対してこだわりの強い経営者が
経営する会社です。
差は、戦略だとかマーケティングということよりも
“数字に対するこだわり”というメンタルな部分から
ついてきています。
再度、自社の兵站の見直しに注視する時期です。