盛っちゃいましたか・・・。

「金額が多いとは思わない」
退職金2億4,500万円を受け取った大阪府民共済の前理事長の言葉です。
(先日、5,800万円への減額が決定されました)
お手盛り退職金として騒がれたこのニュース。
新聞の社説にまで取り上げられました。
「理事長だろうがなんだろうが、共済組合という非営利団体でこの金額はないだろう!」
と誰もが突っ込んだのは当然です。
しかし、こう思われた方もいらっしゃるはず・・・。
「この前理事長、ある意味分かってんじゃん」
これは、中小企業の経営者も理解しておくべき重要な仕組みです。
ご存じの方も多いでしょうが、“お手盛りをお手盛りではなくする方法”を復習します。
今回の退職金の算定基礎となった府民共済の規定は以下の通り。
退職時の役員報酬 × 功績倍率 × 役員在職年数
中小企業において退職金規程がある企業はごく少数ですが、規程のある企業においては99%同じ文言が入っています。
また、規程がなくても、退職金の算定時には例外なく参考にする算式です。
そして、この前理事長の退職金を当てはめると以下の通り。
360万円 × 2.5倍 × 27年 = 2億4,500万円
ここだけを取り上げると、規定通りに支払われており、退職金自体はお手盛りではありません。
功績倍率というのは、役員としての功績に応じて倍率を変化させるもので、例えば以下のような倍率規定を設けたりします。
代表取締役:3.0倍  専務取締役2.5:倍  常務取締役:2.0倍 
この点、大阪府民共済の理事長の功績倍率2.5倍というのは一般的な倍率であり、専門家からしても問題とするレベルではありません。
また、役員在職年数も議論の余地がありません。
では、何が問題だったのか?
ニュースで散々取り上げられたので皆さんもお気付きだと思いますが、今回問題になったのは手続き上の不備2点です。
1.加入者の代表で構成する「総代会」で議決を取らずに退職金を支払った
2.役員報酬についての算定方法を規則で定めていなかった
そして、今回の問題の最大のポイントは、2の役員報酬の算定方法が決められておらず、前理事長が独断で自分の役員報酬を決定していた点です。
つまり、退職金をお手盛りしていたのではなく、役員報酬をお手盛りしていました。
役員報酬算定について規則があり、その通り支払われていたら、退職金は5億円でも問題にならなかったはずです。
1の「総代会」の議決は、仮に事後になっても、規則通り支払われていれば承認せざるを得ないはずですから。
さあ、前置きが長くなりましたが、ここからが本論です。
結論から申し上げると、中小企業経営者の退職金や役員報酬は・・・。
“盛ってナンボです!”
この府民共済を中小企業に置き換え、この前理事長を経営者に置き換えてください。
しかも、中小企業の99%はオーナー企業。
株主総会での退職金決議にも、役員報酬の決議にも誰も異議を唱えません。
それが、中小企業の経営です。
今回、府民共済は、大阪府の立ち入り検査で違法性を指摘されました。
中小企業には、税務署という歯止めがあります。
また、府民共済の事業は非収益事業のため、法人税が課税されません。
しかし、皆さんの会社は法人税が課税されます。
ですから、中小企業の経営者は、より戦略的に役員報酬や退職金を決めなければならないのです。
実は、冒頭で示した退職金の算定方法も、あの算式が全てではなく、また、本来あの算式に縛られる必要もありません。
しかし、税務署側は、役員退職金を損金として認める根拠に、この算式を用います。
つまり、あの算式を逆手に取れば、退職金がいくらになろうが、税務署側も文句を言えません。
さらには、前理事長が主張したように、功労者について退職金を加算する特別功労加算金という奥の手も存在します。
以上、役員退職金対策というのは、法人税対策、所得税対策、相続税対策と中小企業の経営者であれば避けて通れない税金対策の問題に、中長期的な視点で戦略的にアプローチする最も有効的な手段の一つとなります。
今回のニュースで前理事長は激しいバッシングを受けましたが、中小企業の経営者はこれを活かす必要があります。
もちろん、さらに重要なのは、“盛った”役員報酬や退職金をどのように企業経営に活かしていくかという点です。
盛って終わりでは、ただお金が欲しいだけの前理事長と同じになってしまいますから・・・。