早目が肝心!役員報酬の変更

「来年は業績が回復しそうなんですよ。役員報酬を上げようと思うんですが。」
「現状から判断すると、役員報酬を下げた方が良いと思うんですが、いつから下げるべきでしょうか。」
役員報酬の変更に関する質問には、これら以外にも、実に様々なものがあります。
その時々の経営環境に応じて役員報酬の変更をしていく、確かにこれは必要なことです。ただ、税務上、「役員報酬の変更」に関しては、厳しいルールが設けられているんです。
そこで、今回はこの「役員報酬の変更」について取り上げていきましょう。“厳しいルール”をかいくぐる望ましい「役員報酬の変更」とは、どのような変更なのでしょうか。
文頭でも触れましたが、「役員報酬の変更」には実に多くのパターンがあります。今回は、その中でも特に多く見受けられる2つの変更パターンについて取り上げていくことにします。
その前に、まずは結論から。
「役員報酬の変更は、原則として、期首から3ヶ月以内に行ってください!」
そうです、期首から3ヶ月以内です。これが望ましい変更です。期首から3ヶ月以内の変更であれば、税務上、特に問題になることはありません。
それでは、まず1つ目の変更のパターンです。
ここからは、具体的な例を使いながら進めていくことにしましょう。
【変更期】
期首から6ヶ月が経過した後
【金額】
40万円⇒50万円
【費用にならない金額】
60万円(注)
(注)10万円×6ヶ月=60万円
「10万円」は変更前の役員報酬40万円と変更後の役員報酬50万円の差額です。
「6ヶ月」は変更した後から期末までの月数です。
期首から3ヶ月経過後に役員報酬を変更した場合、一定の例外を除いて、変更後の差額分(具体例でいうと、60万円)は、費用として認められません。
それではもし、この変更が期首から3ヶ月以内に行われていたらどうなっていたでしょうか。
期首から3ヶ月以内の変更であれば、費用にならない金額はありません。つまり、変更後の役員報酬の全額が費用として認められるということになるんです。
まったく同じ変更でありながら、「期首から3ヶ月以内の変更」と「期首から3ヶ月経過後の変更」では大きな違いが出てくることになります。
「期首から3ヶ月以内の変更」が有利となることは、明らかですよね。
2つ目のパターンは、役員報酬を増額後、その増加分を期首にさかのぼって支給するという場合です。それでは、具体例です。
【変更期】
期首から3ヶ月目
【金額】
40万円⇒50万円
【3ヶ月目に支給した役員報酬】
70万円(注)
(注)次の金額の合計額
・50万円(変更後の役員報酬)
・20万円(1、2ヶ月目に支給されるべきであった、それぞれの増額分である10万円の2ヶ月分)
【費用にならない金額】
20万円(注)
(注)3ヶ月目に、さかのぼって支給した1、2ヶ月目それぞれの増額分である10万円の2ヶ月分
いかがでしょうか。
まず、今回の変更ですが、期首から3ヶ月以内に行われていますよね。従って、この変更に関しては、何ら問題はありません。
問題となるのは、期首にさかのぼって支給した増額分の20万円です。この20万円は、費用としては認められないということになるんです。役員報酬の変更が、「期首から3ヶ月以内(・・)」にもかかわらず、です。この点に関しては、注意が必要です。
なお、今回の変更が「期首から3ヶ月経過後(・・・)」であり、「期首にさかのぼって増加分を支給した」場合でも、当然ながら、結論は同じです。
いずれにしても、期首にさかのぼって役員報酬の増加分を支給するということ自体が、税法上、認められていないわけです。
いかがでしたでしょうか。よくある役員報酬の変更について、具体的な例を出しながらご紹介しました。
ここで、改めて今回のポイントをまとめてみましょう。
・ 役員報酬の変更は、期首から3ヶ月以内
・ 期首にさかのぼって支給した増加分は、損金不算入となる(費用とならない。)。
ここで1点、補足です。それは、「期中に役員報酬の変更をすること」や「期首にさかのぼって増加分の役員報酬を支給すること」がダメというわけではないということです。
「期中に役員報酬の変更をすること」や「期首にさかのぼって増加分の役員報酬を支給すること」。両方とも、
もちろんOKです。ただし、そこには今回ご紹介した税務上の「厳しいルール」があります。
その税務上の「厳しいルール」をかいくぐるという意味で、上記の2点を意識していただければ良いでしょう。
さらに、もう1点。役員報酬を変更した場合には、その旨を記載した議事録を忘れずに作成しておきましょう。
「役員報酬」に関しては、今回ご紹介した「役員報酬の変更」を始め、税法上、多くの規定があります。そして、その取扱いも厳格なものとなっています。
当然、税務調査の際にも、そのチェックは厳しいものとなります。この場合に、議事録を作成していないということになると、調査官に対する印象も悪くなってしまうことでしょう。
「役員報酬の変更」と「議事録の作成」。両者はセットです。今回のポイントとともに、押えておきましょう。