東京国税局から一通の文書が出された。
表題 「国税局からのお知らせ」
「とうとう始まった。」これが私の率直な感想です。
いつかはこんな日が来ると思っていました。
それが現実のものとなりました。
いったい何が始まったのかというと、税理士から税務署への質問が一切禁止となったのです。
今のところは東京国税局管内の7つの税務署だけですが、11月1日からはその他の77の税務署においても同様となります。いずれこの波は全国に広がることは目に見えています。
ただし、すべての質問・相談が禁止となったわけではわりません。
一般質問が禁止となったかわりに『事前予約制度』が導入されました。
これは文字通り事前に予約を行う制度ですが、この予約に際しては、(1)顧問先の氏名、名称、(2)住所、(3)相談内容 を伝える必要があります。そして、相談にあたっては帳簿書類など参考となる書類の提出も必要となります。
税理士等が事前に税務署に相談したい事項とは、黒とも白とも言えない”グレーゾーン”といわれる部分の案件です。
このような”匿名”で相談したいような案件をわざわざ名前と住所をだしてまで相談することは通常ありえません。
これは一部の税理士等にとって、一大事と言ってもよいでしょう。
何故、これが一大事かというと、税理士等の一部には判断に困った案件について、税務署に『お伺い』をたてている事実があるからです。
税理士は本来、独立した公正な立場において黒でもない白でもない、法律では定められていないグレーゾーンや通達が、社会通念、己の常識から反する場合には断固として争わなければならない使命を法律で負っているのです。
それにもかかわらず、判断に困った案件について税務署に対して、その処理方法を教えてもらっているのです。
これで納税者にとっての本当に公正な判断ができるのでしょうか?
2006年度末に税理士登録者数は7万人を超えたことが、日本税理士会連合会の発表で明らかとなりました。
税理士は大きく分けて次の3種類に区分されます。
(1)試験合格者
(2)試験免除または一部免除者
(3)税務署OB
現在の税理士登録者数をこの構成比でみると概ね以下の通りです。
(1)45%
(2)30%
(3)25%
税理士試験に合格したからといってその日からベテラン税理士として、すべての事案を処理できるわけではありません。
また、試験を免除された公認会計士の中には税法を全く知らずに、税理士登録をしている方もいらっしゃいます。
税務署OBの税理士の中には、過去の同僚とのパイプをまるで『既得権』のように振舞っている方もいらっしゃいます。
税理士となるための入り口は違いますが、それぞれの税理士がそれぞれの理由から仕事上の判断を税務署に委ねているのです。
税理士の中にはおそらく今回のような税務署の対応を『怠慢』だと非難される方もいらっしゃるでしょう。
果たして、どちらが本当の怠慢なのか考えさせられます。
秘匿性が高い案件について名前等を出して相談を行えば、本来税務調査の対象にあがらなかったような案件についても、税務調査の対象となってしまうということも考えられます。
また、いままで税務署にその処理を確認しながら業務を行っていた税理士等については、特殊性のないルーチンワークの中でも税額の申告ミスなどが起こってくる可能性が高くなります。
しかし、税理士も人間です。間違えた判断をすることもあります。
そして、そのようなミスをしないためには複数の目でチェックする体制が必要です。
近年では税理士同士の合同事務所や税理士が集まってつくる『税理士法人』といった会計事務所が増えてきました。
税理士法人や合同事務所が必ず良いというわけではありませんが、少なくとも一人の税理士だけの判断では解決できない事案が今後増えてくることは明らかです。
あるとき電車の中で話した税務署職員の愚痴を思い出しました。
「一番多く電話がかかってくるのは税理士の先生ですよ・・・。」
税務署からこのように思われている税理士は、税務調査でも、きっと舐められることでしょう。