『エルスバーグのパラドックス(※)』と呼ばれる有名な実験は次の通りです。
条件の違うボックスが、次のように2つ用意されており、中には赤と黒のボールが合計で100個入っています。赤のボールを引いたら当たり、賞金は1億円です。
●ボックスA
赤のボールが50個、黒のボールが50個、合計100個。
●ボックスB
赤と黒のボールで構成させており、同じく合計100個。
しかし構成割合はわからない。
あなたは、どちらの箱に手を入れますか?
実験の結果、多くの人がボックスAを好むことがわかっています。何故でしょうか?
ボックスAは、赤を引き当てる確率が50%です。
一方、ボックスBは確率不明、ボックスAより不利かもしれませんが、有利かもしれない。赤が100個という可能性だって十分にあります。
しかしながら、多くの人はボックスBを選ばない。なぜなら、人々は「不確実性」を回避する傾向にあるからです。
「リスク」よりも、「わからない」ほうが体感的に怖いのです。
「わからない」が目の前に広がっていたとしても、実験のように、代替案としてのボックスAが用意されていれば人々はリスクを感じながらもそちらに動くことが出来ます。
しかし、今の経済状態は「わからない」にもかかわらず、ボックスAが用意されていない状況。
となると、本来であれば、そのブラックボックスを少しでも「わかる」ように努力して、認知できた範囲で行動を決断していかなければなりません。
しかし、ここで邪魔をするのが最大の誘惑である「決断の留保」、つまりは先延ばし。
「わからない」のだから少し待とう、ということです。
企業経営に例えるならば、資金的に余裕のある大企業であればあるほど、留保期間は長く確保できてしまいます。
その誘惑に負けてしまった結果が、世界的に見てもわかるとおり、3つのうちの2つを破綻に招いてしまったのです。
「アメリカの会社がお国柄、ラフな経営をしていただけ、日本の大企業はそんなに脆くない。」と思われるかもしれません。
確かに、日本の大企業はきめ細かい経営をしているかもしれません。しかしその分、中小零細企業に歪みが来るのは必至。
そんな経済局面を受けて、政府は4月末に「第二会社方式」をバックアップするため
『中小企業事業承継再生計画』の認定制度を創設しました。
ちなみに「第二会社方式」とは、事業のすべて、または優良セクションを、他の事業者(第二会社)に承継させて、赤字部門を残した旧会社を閉じてしまう再生スキームです。
再生計画が認定されると、
●事業上の許認可を新会社に承継することができる
●金融機関から低利・別枠等の金融支援を受けることができる
●新会社への不動産移転に伴う、登録免許税・取得税等が軽減される
といった恩恵を受けることができます。
脱皮したての会社にしてみると、税優遇はおまけとしても、許認可の引き継ぎと金融支援は大変助かります。
今までのように、許認可を再取得しなければいけない場合(もちろん避けるための例外手法は存在しますが)には、事業上の空白期間が生じ、多額の機会損失が発生してしまいます。
機会損失で済めばまだしも、地域によっては、許認可の登録制限数がかかったり、法改正により、新規申請が認められない、といったパターンもありました。つまりは廃業です。
また、「第二会社方式」というと借金から合法的に逃れる方法・・・、というイメージが強かったため、不純物を取り除いて純白な新会社になったとしても、金融機関もそれなりの対応しか出来ず、資金調達が容易ではありませんでした。
それらの問題点をカバーした今回の認定制度創設は、本当に志を高く持って事業再生をめざす中小企業にとってはまさに朗報です。
認定を受けるための要件は多いのですが、「相続税の納税猶予制度」のように、通ることすらままならない程、網目の細かいフィルターがかけられているわけではありませんので、実務としても夏頃から本格的に動きを見せると思われます。
ただ、そういうネットが敷かれたことで、「決断の留保」の呼び水にならなければいいのですが・・・。
(※)ケインズのライバルと称されるフランク・ナイトの『不確実性理論』を、ダニエル・エルスバーグという経済学者が実験として発展させたもの。