ある日、セミナーに参加していた経営者が、不安そうに質問をしてきました。
「実は、昨年、税理士の薦めでガン保険に節税目的で入ったのだけど・・」
彼が、このような質問をした理由は、私がある保険代理店の人と節税保険の問題をいろいろと話していたからでした。
細かい数字は、忘れましたが、10年後の退職を想定してガン保険に加入。すでに2年分で600万円の掛け金を払った・・というような感じでした。
10年後の退職時に、保険を解約し退職金で払う。よくある節税の方法です。
保険代理店の人は言いました。
「ガン保険を使って、まだそんなことしてるんだ・・・」
私は言いました。
「10年後の退職なんて、何を根拠に言ってるの?」
二人にこう言われた経営者は、その後、セミナーの内容など上の空。
「解約しようかな~」
と言い出しました。
細かい話はわかりませんから、解約はよく考えてするように言いましたが、その経営者は、ガン保険による節税の曖昧さばかりではなく、私に10年後なんてわからないのではないか?と言われたこともショックだったようです。
私は断言してしまいます。
彼は10年後辞めていない・・と。
非常に優秀な経営者ですから、節税のために決めてしまった10年という期間なんて、その場になれば冷静になって無視すると思います。
そして、10年前の決断を「バカだったな~」と笑うことでしょう。
しかし、どうして30代の経営者が10年後の引退を決めてしまったのか?
彼よりも一回り以上年上の私でさえ、10年後に引退なんてしていないと思うのに不思議です。
そして、こういうアドバイスをした税理士とは何なのでしょうか?
本来、経営者が、こうしたことを保険代理店に吹き込まれたら、停めなければならない立場にある顧問の税理士が、保険の手数料稼ぎを優先している・・と思われても仕方がないでしょう。
前回、税理士が絡んだ事件を例に、税理士のアドバイスを鵜呑みにしてはいけないことを書きましたが、あのような投資案件ばかりではなく、日常的に行われているアドバイスでもおかしなことが行われているように思えました。
節税はどんどんやるべきです。
この国のおかしな税制に100%対応できる方法は日本に居る限りありませんが、それでも努力は必要です。
しかし、ナンセンスなことをしても意味はありません。
私たちは、節税をしなくてはいけませんが、節税をすることが経営をする目的でもありません。
不況期に入り、こうした節税保険の解約で赤字を埋める場面も出てくるかもしれませんが、それは結果論。
その結果から過去の意志決定が正しかったと考えるのは間違いです。
それは単なるたまたまです。
運用でも節税でも、時々、“たまたま”が起こることが話をめんどうにしていますが、私たちはあくまでも合理的に経営をしていくべきです。
合理的とは言いますが必要なのは常識です。
くれぐれも、安易な方法には乗らないように気をつけましょう