勘違いしていませんか?

私の妻は税理士ですが、以前に彼女とこんな会話をしたことがありました。
妻 「50歳には辞めようね」
私 「そうだね、まぁ許されても55歳かな?」
今からこんな話をしていいものか・・・
二回にわたってオーナー会社における事業承継をテーマに話をしてきました。
前回に引き続き今回も特殊な株式を利用した事業承継の手法についてお話いたします。
おそらく皆さんは最近『事業承継』というキーワードをどこかしらで目にしていらっしゃるのではないでしょうか?
実は、我々税理士の間でも事業承継はビッグワードとなってきています。
これは、政府が事業承継について支援に乗り出したためです。
そこでできた法律がいわゆる『中小企業経営承継円滑化法』です。
この法律の中身は3つ。
・遺留分
・金融支援
・納税猶予
今回はこの法律の内容については話すつもりはありません。
周りの状況をみて必要と思えばあらためてお話いたします。
この法律ができた背景には廃業率が開業率を大きく上回っている日本企業の事業承継難があります。
政府は税金が足かせとなって事業承継がすすんでいないと思っているようですが、そんな企業はごく一部。
こんな法律で事業承継がすすむはずがないことは私が言わなくとも経営者ならみんな分かっています。
もちろんお客様のうち話す必要がある方には個別にお話をしていますが
メルマガで多くの方々に話す話ではありません。
日本における企業の8割が中小零細企業。
そのほとんどが事業承継に何らかの問題をかかえているのは事実だが、もっとも多いのは後継者不足。
後継者予定の息子はいるものの、経営者としての資質が備わっておらず事業承継どころではないというのがどこのオーナー経営者も持つ共通の悩み。
それでも思い切って後継者である息子に経営権を与えてみれば、糸の切れた凧のように本業も疎かに、新事業、経営革新と称して訳のわからないことを始める始末。
挙句のはてには、古参の従業員はオーナー経営者の息がかかっているため俺のいうことを聞かないと酒場で管を巻いている。
こんな後継者に事業を任せていてはどのような舵取りをするものかわかったものではありません。
そんなときに強力な役目を果たすのが、『拒否権付種類株式』通称『黄金株』とよばれる種類株式です。
この株式は黄金株と呼ばれるように最強の拒否権を持っています。
どれほど強力かというと、この株式を持つ者の承認がなければ株主総会の決定も、取締役会の決定もすべて無効となるくらいの凄さです。
つまり、拒否権付株式は、拒否権を使うことによって(後継者の)経営を監視する機能があるのです。
実際には、あらかじめこの株主の決議を必要とする事項を定款で定めておく必要がありますが、拒否権の設定によっては無敵の権限を与えることとなります。
しかし注意が必要です。
拒否権をむやみに設定しすぎると、利害関係者に対して実質的な経営者は旧経営者であるとの印象を強く与えることとなりますので、拒否権の設定は慎重に行う必要があります。
この株式によって後継者の暴走には一定の歯止めをきかせることが可能となりますが事業承継にとって本当に重要な話はここからです。
事業承継とは株式の移転や、読んで字の如く、『事業』を『承継』することと思っている方々がほとんどではないでしょうか?
それは違います。
事業承継の本質は『経営』の『承継』にこそあるのです。
事業とはビジネスそのもの。言葉はわるいですが明日からオーナーの代わりに社長席にすわって仕事さえこなせればいい話。
しかし経営の承継とは、創業から現在に至るまでの歴史、創業者の想い、お客様、変遷、苦難、喜び・・これらすべてを経営理念という言葉でまとめるならば経営理念の承継こそが本当に必要なのです。
それを、権限移譲という大義名分のもとに息子である後継者にすんなりと経営を明け渡してしまう無責任なオーナー経営者が多く目につきます。
「すべて(息子である)社長に任せてあるので・・」
私はそんな経営者を見ていつも思うことがあります。
それは、私たちの事業のすべては顧客のためにこそあるもので、後継者のためにあるものではないはずという強い思いです。
そうであるならば事業は渡しても経営権はそう簡単に手放すべきではないのです。それが起業家として事業を立ち上げたものが最後までまっとうしなければならない責務のはずです。
いつからそんなに物わかりが良くなったのですか?
すこし厳しいようですが私は事業承継の失敗によって悲しい結末を迎えた会社をいくつも見て来ました。そのほとんどが後継者による失敗です。
「松下はものをつくる前に人をつくる」
この言葉は松下電器の創業者松下幸之助が生前に語った言葉です。
私たちも事業の承継のみにとらわれることなく、経営を承継するに相応しい人づくりにもっと意識を向けたいものです。
税理士の中には高齢になられても、いや、歳をとればとるほど(頭に)冴えを見せる方もいらっしゃいます。
しかし、私はその歳になって到底そのような冴えをみせることはできないと考えています。
このような言い方をすると世の中の還暦を迎えた方に怒られてしまいますが60には60なりの仕事があると思うんです。
そういう意味からビジネスの最前線にいらっしゃる経営者の方々を相手に仕事をするべきではないと思うのです。
しかし・・この気持ちが60になったときに変わらず持ち続けていられるか・・今の私ではわかりませんが、そうでありたいと思う今日この頃です。