出光興産の創業者、出光佐三は、「士魂商才」という言葉が好きだったそうです。
1953年のイラン政変により、石油の供給が途絶える危険が起きた時には、石油メジャーの圧力をものともせず、イランから直接原油を輸入することに成功しました。
しかし、マスコミからは「商魂たくましい」と表現され、立腹したと言います。
菅原道真が言った「和魂漢才」が、佐久間象山によって「和魂洋才」という言葉になり、明治以後、この「和魂商才」をさらにもじって「士魂商才」という言葉が商人(あきんど)の間で使われるようになりました。
武士の志と商人の才覚。
この2つの両立が実業人の掟とされました。
「商魂」という言葉が使われるようになったのは、戦後のことです。
もちろん、あまりいい意味で使われることはありません。
出光佐三は、士魂を発揮して行った行為を、マスコミから「がめつい」と叩かれたというわけです。
三井家の二代目、越後屋八郎右衛門(えちごやはちろうえもん)は、金利と在庫をいつも気にさせたと言います。
「無駄な在庫や金利負担がないように、ソロバンを胸に」
こうした教育が三井家の基本でした。
今の私たちが驚くべきなのは、所得税も法人税もかからない時代にも、三井家では在庫と金利を重視した点です(もちろん、売掛金も重要ですが、三井家は現金掛け値なしですからね・・)。
ですから、税金がかかる現代の私たちは、彼ら以上に在庫や売掛金、そして金利を気にしなくてはいけないはずです。
出光佐三は原油の直接輸入で「商魂」と言われ、越後屋八郎右衛門は、ソロバンを胸に「商魂」を貫きました。
年明けに原油が100ドルを超えました。
すでに、静かに中小企業の倒産は続いていますが、今年は金利が上がり、さらに倒産が増える可能性が高くなってきました。
「損して得取れ」という言葉は、大阪商人の在庫処分の商法から生まれた言葉ですが、今年は、こうした先人の知恵が役に立ちそうな臭いがします。
1970年代から80年代にかけては、こうした先人の知恵は重宝されたものです。しかし、最近はIT長者のような経営者ばかりが目立ち、あまり先人の知恵は語られなくなりました。
時代が危うくなれば、否が応でも耐える知恵が重要になります。
そして、耐える知恵では、会計の知恵が筆頭で重要になってきます。
「無駄な在庫や金利負担がないように、ソロバンを胸に」
この当たり前の言葉が、経営を左右する時です・・・。