ある日のこと、午前と午後で相続についての二組の相談者が
訪れてきました。
その2組の相談がとても対象的だったので私の記憶に
残りました。
1組目の相談は、すでに数年前に被相続人のお父様がお亡くなりに
なっており、その後、相続の手続きが行われず、手つかずになっていました。
とくに田舎ではよくある話です。
もちろん、相続手続きがされなかったのにはちゃんと“理由”が
ありました。
それは、相続人の一人がお父様が残された遺言書に不満が
あったため、他の相続人がどうしていいのか分からなくなっていたのです。
その手つかずになっていた相続の話が、何故、今回動くことに
なったのか?
それは、『名奉行』が現れたからです。
ここが今回の話でポイントにしたいところです。
世間では“遺言書”を作っておけばそれで相続は円満に進む
と思われているようですが、そんな単純なものではありません。
いくら故人が想いを記した最後の手紙であったとしても
残された家族にとっては今後の生活を左右する重大事です。
内容次第では素直に受け取ることはできない場合もあります。
そこで登場するのが名奉行の『遺言執行人』です。
遺言執行人とは、遺言の内容を実現するために必要な権利義務を
もった、いわば相続奉行といったところです。
遺言書があったとしても、中にはその遺言を快く思っていない人や
名義変更等に協力しない人がいて、遺言の実現にはとても時間がかかって
しまします。
そんなときに名奉行の裁きが必要なのです。
これは理屈ではありません。
ガンコ親父の『説教』と同じです。
だれか説教をしてくれる人でもいなければ、
まとまる話もまとまらないというものです。
実は我々、税理士には遺産分割協議に口を挟むことは
許されていません。
しかし、遺言書を作成する際に、その遺言書において遺言執行人
としての権限を与えられた場合は別です。
その場合には、税理士は故人の意思に沿い、遺言執行を速やかに
行います。
これから遺言を作成しようとお考えになっていらっしゃる方は、
作成の相談だけではなく、執行まで含め長く付き合える専門家に
相談をしてください。
それでは、もう一組のご相談はどんなものだったのか。
こちらは、事務所に入って来られたときからちょっと独特な
雰囲気がありました。
話を聞いてみると、ご兄弟4人だけでいらっしゃたとのことです。
普通、相続のご相談で、奥さんが抜けるというのはあまりないケースです。
事前にインターネットで調べてきたのか遺産分割協議書のひな形を
持っており、若干の知識も持っていました。
相談者「遺産の分割は相続人で話し合って決めるんですよね?」
私「その通りです。遺言がなければ皆さんの話し合い次第です。」
相談者「わかりました・・話し合いですか・・。」
終始、遺産分割協議の方法について聞いていらっしゃいました。
ご長男が中心でいろいろと質問されていましたが、どことなく
皆さん核心部分に触れられないご様子です。
私は仕事柄多くの方と接しているので、言葉の端々や抑揚から
相談されている方の『思惑』がだいたい推察できます。
どうやらこの相続、ご兄弟それぞれに思惑があるようです。
私(この相続、いったい誰がまとめるんだろう・・・。)
しかし、今、私にできることは質問に答えることだけです。
専門家をただの情報屋として質問に答えてもらうだけでいいのか?
はたまた、名奉行役として采配をふるってもらうのか?
みなさん、専門家を上手に使ってください。