あえて両手でボタンを押す煩わしさ

生産技術屋さんが書いた“失敗学”に関する書籍に触れる機会があり、その書籍には次のようなくだりがありました。
『エンジニアが絶対的に安全な装置を設計しても、オペレーターが故意にそれを外せば事故が起きても不思議はない。
エンジニアは、絶対に外せない安全装置を設計するか、安全装置の意図についてオペレーターに理解を得る必要がある。』
この一文から遠い記憶を思い出しました・・・。


私は高校2年生の夏休みに友人と町工場でアルバイトをしていました。
その町工場は、食器棚のドアと、本体をつないでいる“留め具”を生産する工場で、私と友人は加工された“留め具”に、機械で穴をあける工程作業をしていました。
その機械の真ん中に留め具を置き、左右にあるボタンを両手で同時に押すことで、ドリルが下降し留め具に穴をあける、このような作業でした。
両手でボタンを押す・・・、この行為に煩わしさを感じつつ辺りを見渡すと、機械の下にフットスイッチを発見することができました。
フットスイッチを使えば、両手でボタンを押す必要はなく、留め具を設置したコンマ何秒後に、ドリルを下して穴をあけることができるため、作業効率は格段に上がりました。
その方法を友人にも教え、友人もその方法を実行し慣れてきたころ、悲劇は起こってしまいました。
友人は、留め具を真ん中に設置してから、手を離す前にフットスイッチを押してしまい、指にドリルが当たり(幸い、かすった程度)、何針も指を縫う怪我を負ってしまったのです。
“あえて両手でボタンを押す煩わしさ”は、事故を防ぐための安全装置だったと、その時初めて気づくことができたのです。


税理士には、税務顧問先様にとっての安全装置のような役割があります。
お客様からしてみれば、納税額は多いよりも少ない方がいいに決まっています。
そのような意思のもとで行ったお客様の税務処理が、税法に耐えうるものかどうか、その判断を税務調査の前に行うのが税理士の一つの仕事です。
しかしながら、税務の世界にはグレーゾーンがつきものです。つまり、税務的に通る処理なのかどうかがわからない・・・。
このようなケースでは、税理士とお客様の間で意見が分かれ、特に、保守的に考えすぎる税理士ほど、その溝は深くなり、お客様は自らフットスイッチを押してしまう事があります。
つまり、安全装置として税理士が保守的な判断をしても、一つの税務処理についてどのようなベネフィットとリスクが存在するかをお客様にきちんと説明せず、その意図が伝わっていないため、お客様は故意にその安全装置を外し、場合によっては修正を受け、多額のペナルティーを受ける可能性が出てくるのです。
また、税理士の推奨する処理に従ったとしても、税理士が保守的に考えるあまり、もしかしたら払わなくてよい税金を払っている可能性も考えられます。
グレーな判断を迫られた時には、必ず税理士にその処理についてのベネフィットとリスクについて説明を求めてください。
そして、その両極について十分に理解されてから、自らが然るべき方法を選択されてください。
このような動作が、経営者と税理士の良好な関係を築いていきます。
それでも不安で、第三者の客観的意見も参考にしたい場合には、是非とも当社の
税理士セカンドオピニオンサービスをご活用ください。