否認

少し前の統計になりますが、平成22年度(平成22年4月1日~平成23年3月31日終了事業年度)の赤字申告割合は74.8%でした。
過去最高です。
平成2年度の赤字申告割合が約50%であったことを考えると、20年間で赤字企業が1.5倍増加したことになります。
このペースで増えると、さらに20年後は赤字申告割合が100%・・・。
とまではならないでしょうが、このペースを考えると恐ろしいですね。
5年後に赤字申告割合が80%を超えるというのは、十分考えられる状況です。
実際、リーマンショック直前の平成19年度から22年度までの4年間ですら赤字企業が6.9%増加しています。
このような赤字申告割合という客観的な数字について、皆さんはどのようにお考えでしょうか?
もちろん、現時点で好調な企業は気にされていないかもしれません。
とはいえ、ここ数年のうちには好材料と考えられる環境は望めません。
泥沼に入った欧州危機や北朝鮮の動向、日本国内による消費税の問題、昨年の大震災のように予測不可能な事象もあり得ます。
また、慢性的に赤字申告を行っている企業などは既に諦めているかもしれません。
「仕方ない。どうにもならないのだから・・・」
正直、一番怖いのはこの反応です。
岡本が繰り返し紹介している本に『生き残る判断 生き残れない行動』(アマンダ・リプリー:著 光文社)がありますが、この本では危機に陥ったときに人はどのように判断し、行動するかということについて、事例を通して説明しています。
***本文より一部抜粋***
「火災時における実際の人間の行動は、“パニック”になるという筋書きとは、いくぶん異なっている。一様に見られるのは、のろい反応である」
~中略~
「人々は火事の間、よく無関心な態度をとり、知らないふりをしたり、なかなか反応しなかったりした」 ~中略~
なぜわたしたちは避難を先延ばしするのだろうか? 否認の段階では、現実を認めようとせず不信の念を抱いている。我が身の不運を受け入れるのにしばらく時間がかかる。ローリーはそれをこう表現している。「火事に遭うのは他人だけ」と。わたしたちはすべてが平穏無事だと信じがちなのだ。 なぜなら、これまでほとんどいつもそうだったからである。
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赤字への否認。
これ以上の説明は必要ないでしょう。
赤字の積み重ね、問題の先送りの先に待っているのは倒産です。
そのくらい、赤字企業が75%というのは異常な状態。
「今までも赤字だったし、それでもやって来れた。今年赤字になりそうだからといっても、今までどおりやっていくだけさ・・・」
私どもは、職業柄、数多くの経営者の否認の瞬間を見てきました。
幸い、私どもの直接のお客様にはそのような方々はいらっしゃいませんが、“相談にだけ”来られる方々の中には、こちら側の質問にも否認一辺倒の場合があります。
どうやら、経営危機は火災時の人の反応よりもさらにのろいようです。
このような状態を例えれば、イヤホンで音楽を聴きながらスキーでもしているとき、後ろからの雪崩に気付かず、ふと振り向いた瞬間に跡形もなく押し潰されてしまうようなものです。
繰り返します。
現在、黒字企業が赤字に飲み込まれています。
赤字から経営危機、経営危機から倒産・・・。
いち早く否認段階を通り抜け、赤字の波から逃げないと、出口も閉ざされてしまいます。
2012年、さらに厳しい1年が始まりました。