タイガー・ウッズと、フォレスト・ガンプを探せ

反TPP論者に対する反論として、経済学者がよく用いる理論が『比較優位』の原理です。
『比較優位』とは、デービッド・リカードが1817年に提唱した理論で、経済学者グレゴリー・マンキューの言葉を引用するならば次のようになります。


タイガー・ウッズは2時間で芝刈りをすませられるが、同じ2時間をナイキのテレビコマーシャルの撮影に使えば1万ドルを稼ぐことができる。
一方、隣に住むフォレスト・ガンプという男の子は、ウッズの庭の芝を刈るのに4時間かかり、その4時間をマクドナルドで働くと20ドル稼ぐことができる。
この場合、ウッズは芝刈りをせずにコマーシャルの撮影に行き、代わりに、フォレストを20ドル以上の手間賃で雇って芝刈りをさせるべきである。 そうすることでどちらも得をする。


芝刈りをすることでフォレストが被る機会費用(失われた価値)は、たった20ドルですが、ウッズが被る機会費用は1万ドルにも上り、フォレストは芝刈りに関して比較優位を持っているということになります。
つまり、ウッズは、たとえフォレストより芝刈りが得意だったとしても、決して芝刈りをしてはならず、それよりもコマーシャルの撮影に行くことで、大きな利益を手にすべきなのです。
この理論はそのまま会社組織にも当てはまります。
ベテラン社員であるイチローさんは、営業も事務も、新人社員であるジローくんより速かったとします。
しかし、速いからといって営業も事務もイチローさんが行ってはいけません。
イチローさんは、最も得意である営業に特化し、事務はジローくんに任せることで、会社全体の生産性は増すことになるのです。
と言ってはみたものの、こんなことは誰でも感覚的に理解し、知らず知らずのうちに実行していることです。
しかし、感覚ではわかっていても、比較優位の原理が機能しなくなる場面があります。
それは、仕事の締めきりが迫っている等、時間的にタイトな場面です。
イチローさんは、事務仕事をジローくんに任せたいが、その事務仕事自体の期限が迫っているため、やむなく自分で処理してしまう。
そして思うのです。
「あいつはいつまでたっても仕事の遅いダメな奴だ・・・。」
また、そもそもイチローさんが事務仕事をジローくんに任せてまで、特化する仕事を持っていなかったとします。
その場合、事務仕事をジローくんに任せてしまうとイチローさんの時間が空いてしまうため、事務仕事をジローくんに任せる、ということ自体が起こり得ません。
そして思うのです。
「あいつはいつまでたっても半人前だ。早く成長してもらいたいものだ・・・。」
タイトな段取りで仕事を受注したのはイチローさんであり、また、特化するような仕事を持っていないイチローさんの能力に問題があるにもかかわらず、新人ということで全ての罪はジローくんに押しつけられてしまいます。
そもそも、両者の力に大きな開きがあるからこそ比較優位の原理が働くわけですが、その大きな力の差が、(皮肉にも)問題の本質を見えづらくしている可能性があるのです。
(死人ならぬ、新人に口なし・・・)
このような問題を見つけ、正すのはマネジメントの仕事です。
そしてそのような問題を一つ一つ改善していくことで、会社の生産性が増していくのです。
皆様の会社にも、『タイガー・ウッズとフォレスト・ガンプ』はいませんか?
是非とも探してみてください。
このように、古典的な経済理論の中にも、実務の現場で活かせるものはたくさんあります。 『経済学』という響きがアカデミックな印象を与え、どうしても“マクロなお話”という気がしてしまいますが、決してそんなことはありません。
弊社でも、様々な経済理論を経営の現場に生かせるよう、岡本が解説した『なんちゃって経済学』というDVD商品をご用意しています。興味のある方は是非ともご覧ください。
最後に弊社の比較優位事例を一つ。
『岡本は、誰よりも車の運転がうまく、目的地まで速く辿り着けるとしても、決して運転をしてはいけない。』
そして理論通り、私は運転をさせられ、岡本は隣でMacBookAirを開いて仕事をする・・・。