私の新著『実学 中小企業の”パーフェクト会計”』では、3つの章がカットされています。
カットされたのは、すべて応用編で、かなり内容的に難しいものが含まれていました。
私としては、本だけではわからないにしても、網羅性を重視して入れておきたい内容でしたが、それが叶いませんでした。
そのカットされた内容の一つが、「ABC会計」です。
世の中には、「ABC会計」の本がいろいろ出版されていますし、ドラッカーもいくつかの著作で言及している管理手法ですから、名前くらいは多くの方々がご存じのことと思います。
「ABC会計」のツボはいろいろありますが、中小企業の場合、最も重視すべきなのは、“作業量”でしょう。
具体的には、製品やサービスごとの作業の投入量を、コストとして引き直していきます。
私たちは、限界利益が大きい商品やサービスが、自社の有力商品と考えがちですが、その商品、サービスの提供までの作業量を加味すると、まったく違う景色が見えてくることがあります。
例えば、単価が安く、利益率も低いサービスがあったとします。
しかし、そのサービスの提供までの作業量は少なく、それもパートやアルバイトの作業投入だけで、済んでしまうとしましょう。
逆に、高単価で利益率も高い商品でも、作業投入量が大変多いサービスがあったとします。
おそらく、こうしたサービスを持つ企業は、高単価のサービスこそが自社の利益源泉だと思っていることでしょう。
しかし、こうした2種類のサービスについて、作業量を加味して原価を引き直してみると、驚くような結果になることがよくあります。
“成熟社会”とか“付加価値”などという言葉が踊っている今の世の中では、付加価値の高い商品しか生き残れないと思いがちですが、実は、付加価値の低い商品こそが企業の利益源泉になっているということが実に多いのです。
もちろん、付加価値の低い商品は、単独では成り立たない商品であることが多いと思いますし、市場の競争から単価が年々切り下げられるということも起こる可能性は高いでしょう。 しかし、だからといって、ダメな商品とは限らないのです。
ブランディングの難しいガソリンスタンドやクリーニングなどのビジネスは、「ノー・インタレスト・カテゴリー」と呼ばれますが、私は、来年以後、面白くなるビジネスは、こうした領域のものだと考えています。
理由はここでは書けませんが、ある想定から、そのように考えています。
「ノー・インタレスト・カテゴリー」というとブランディングができず、価格競争に巻き込まれがちな商品、サービスだと思われていますが、やり方によっては効率的なビジネス展開がやりやすいものでもあるのです。
「ABC会計」は、一つの分析手法でしかありませんが、こうした分析手法を実行することは、企業戦略を根本から見直すことになったり、そもそものビジネスの概念を変えることもあり得ます。
ぜひとも、経営の中に、作業投入量の概念も、もっと積極的に導入してみてください。