経済学において、人々の行動とインセンティブとの皮肉な関係を説明する際によく用いられるのが、60年代にアメリカで制定されたシートベルト法の話です。
今では考えられませんが、50年前の車には、シートベルトがほとんど搭載されていませんでした。
その後、自動車の安全性に関する消費者運動をきっかけに、アメリカ連邦議会は、全ての自動車にシートベルトの搭載を義務付ける法律を制定しました。
『これで自動車事故による死亡者数が減少する!』と、当時の政策立案者は考えたのですが、皮肉なことに、思惑通りにはいかなかったのです・・・。
確かに、シートベルトを装着することにより、運転手自身の死亡事故は減少しました。しかし、安全性が増したことにより、運転手はスピードを上げて軽率な運転をするようになったのです。
総合的な結果として、事故1件あたりの死亡者数は減少しましたが、事故件数は増大し、むしろ、弱い立場である歩行者の死亡者数は増加してしまったのです・・・。
このように、政策は、しばしば意図せざる結果をもたらすことがあります。
中小企業における政策として、経営者は、経理・会計の強化を図ることがあります。
今までは自身で会計帳簿を入力し、試算表を作成していたのですが、比較優位の原則から、有能な経理担当者を採用し経理業務を任せ、自身は経営判断に割ける時間を確保します。
『これで、経理体制の強化は図れた。出来上がった試算表から、必要な情報だけをピックアップし、経営分析や戦略会計、経営計画の立案を行い、より有効な“次の一手”を打つ!』 ・・・とは、なかなかいきません。
もちろん、見事に会計を使いこなしている経営者の方々もたくさんいらっしゃいますが、数字に触れる時間が圧倒的に減っているため、数字に疎くなってしまう経営者の方々がいるのも事実です。
社長 「うちの変動比率って何%だっけ? 労働分配率は? 固定費の月平均額は?」
経理担当者 「社長、それは前にも説明しました!」
社長 「・・・。」
このように、経理体制を強化することによって、会社自体の経理・会計能力は上がるものの、経営者自身の会計能力を低下させてしまう、という意図せざる結果を招くこともあるのです。
では、どのような対策をとるべきなのでしょうか?
昔のように、経営者の方自身に会計帳簿の入力を行っていただく、ということではありません。それでは退化になってしまいます。
経営者の方々には、“経理”ではなく、“会計”に触れていただきたいのです。
では、どのように“会計”に触れればよいのでしょうか?
それは、話のわかる会計事務所と付き合い、会計の書籍を読むことです。
当社代表の岡本は9月に、『実学 中小企業のパーフェクト会計』を出版しました。
岡本は本書において、「会計への理解不足が、中小企業経営のボトルネックになっている。会計は、税務対策でもなく、資金対策でもない。経営を安定させるための道具だ。」と述べています。
「いまさら会計?」とは思わないでください。
一度ご覧になっていただければ、岡本が描き出す圧倒的な“会計”の世界に、心が躍るはずです。