「俺は、親父の奴隷じゃない!」
これは、顧問先のご子息が私に訴えた言葉です。
お酒の力もあってのことでしょう、いつもよりもすこし感情的でした。
その方の会社は、父親である社長で二代目となる典型的な中小企業です。
社長さんは、すでに還暦を向かえられており、専務取締役であるご子息に事業を承継することを考えておられました。
ある日のこと、社長さんが「先生、黄金株は(事業継承対策に)いいですか?」と聞いてこられました。
当然、この話は専務も耳にしており、今回のような訴えになった訳です。
株式には『普通株式』と『種類株式』の2種類があり、『黄金株』とは、新会社法の施行によって発行が可能となった種類株式のひとつです。
この黄金株は、取締役の選任・解任、会社の合併や事業譲渡等の重要事項について、『拒否権』をつけることによって、敵対的買収に対する防衛手段として利用されていました。
ところが、その効力から、後継者に株を渡した先代経営者が、事業継承後において当分の間、後継者の暴走を監視する目的から、事業承継においても利用を勧める専門家や専門書がたくさん出ています。
しかし、私は、事業承継の中でも親族内承継の場合には黄金株は使うべきではないと考えています。
何故ならば、黄金株を発行し、それを先代経営者が持つということは、「俺はお前が信用できない!」と無言で言っているのと同じことだからです。
多くの専門家や専門書は、現在の社長の目線から書かれており、事業を承継する後継者のことはあまり考えられていません。
少し言葉が過ぎると思いますが、私から言わせてもらえば、後継者に事業を承継すると言っておきながら、黄金株を発行するなど、子供を馬鹿にするにも程があります。
それならば、社長だけ交代して、株を渡さなければいいだけです。
そこに、『相続税対策=事業承継』と考えている経営者の誤解があるのです。
事業承継でもっとも大切なことは、税対策でも、株式対策でもありません。
事業承継に関わる方々の内面の在り方です。
“策士策に溺れる”とならないよう、お気をつけください。